頭頸部領域におけるサブトラクション技術の臨床応用 
久野 博文(国立がん研究センター東病院放射線診断科)
<Technology of Area Detector CT>

2013-10-25


久野 博文

国立がん研究センター東病院は,頭頸部,消化器,肺,泌尿器,乳腺領域などに特化したがん専門施設で,特に頭頸部がんの症例を多く治療していることが特色のひとつである。本講演では,頭頸部領域における320列ADCT「Aquilion ONE」の臨床応用として,サブトラクション技術を用いた頭頸部がんの臨床応用について解説する。また,先日薬事承認されたばかりの金属アーチファクト低減アルゴリズムSEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)の初期臨床経験も報告する。

Aquilion ONEによるサブトラクション技術を用いた頭頸部がん診療への応用

多くの頭頸部がんは,Aquilion ONE のArea Detectorによる1回転160mmのScanで,局所病変やターゲット臓器をカバーできる。1回転のVolume Scanを最大限に活用することで,形態画像だけではなく動態観察も可能となるため,頭頸部領域の診断に活用するメリットは大きいと考えている。
Aquilion ONEによるサブトラクションの特徴は,Volume Scanで行うことである。寝台を動かさずに撮影できるため,ヘリカルアーチファクトや慣性力による臓器のブレがまったくない,非常に高精度のサブトラクション画像が得られる。当院では,Volume Scan Subtraction技術を頭頸部がん診療に応用し,骨への浸潤の評価を行っている。一般的に,悪性腫瘍の骨浸潤に対する術前画像評価はCTとMRIが行われるが,皮質骨への浸潤評価はCTが有用であり,骨髄浸潤の評価などはMRIが勝るとされている。サブトラクション技術により,CTで骨髄腔などの腫瘍の浸潤診断精度が向上し,MRIに近い評価が可能になれば,臨床的にも有用度が高いと考える。
Aquilion ONEによるサブトラクション法は,最初に患者さんの頭や下顎をしっかり固定し,造影開始後,7秒(plain画像)と60秒(腫瘍濃染画像)の2回Volume Scanを行う。得られた2つのデータをサブトラクションすることで,骨皮質が除去され,造影剤により増強された領域のみ強調された画像(Subtraction Image)を取得することができる(図1)。
さらに,研究用のBone Subtraction Softwareでは,サブトラクションしたい部位を選択することで,該当部に対し非線形の位置合わせを行い,サブトラクション精度を向上させることができる。作成したデータは,多方向のMPR画像を作ったり,カラーフュージョンさせることも,コンソール上で容易に可能である。

初期臨床経験

1.頭頸部がんによる頭蓋底浸潤の評価

・Case1:上顎洞がんの頭蓋底・頭蓋内浸潤の評価(図1

造影CTによる通常の軟部条件のみでは,中頭蓋底の骨破壊は明らかではないが,中頭蓋底の硬膜の肥厚が疑われる(図1a)。サブトラクション画像(図1c)では,MRIにおける脂肪抑制併用造影T1強調像のような画像が得られ,腫瘍が頭蓋底の骨髄を介して硬膜にまで達していることが観察できる。さらに,カラーフュージョン(図1d)することで,視覚的により明瞭な画像が得られる。

図1 Case1:上顎洞がん頭蓋底・頭蓋内浸潤の評価

図1 Case1:上顎洞がん頭蓋底・頭蓋内浸潤の評価

 

・Case2:上顎洞腺様嚢胞がん頭蓋底浸潤(図2

通常のCT画像では,上顎洞の後壁が大きく破壊されておらず,翼口蓋窩もおおむね保たれており,上顎全摘手術の適応と思われた(図2a)。しかし,サブトラクション画像では,右翼状突起の基部から斜台まで腫瘍の進展が描出された(図2c)。MRIでも同様の画像所見を示し,手術非適応の診断で重粒子線治療が選択されている。このように,サブトラクション画像をルーチンのCT検査に追加した画像情報として活用することで,がんの頭蓋底骨組織に対しより正確な浸潤評価が可能で,最適な治療方針決定に寄与できる可能性がある。また,ボリュームデータのため,冠状断など任意の断面での再構成画像を簡単に作成することができる点も有益である(図3)。

図2 Case2:上顎洞腺様囊胞がん頭蓋底浸潤

図2 Case2:上顎洞腺様囊胞がん頭蓋底浸潤

 

図3 Case2:図2の冠状断画像

図3 Case2:図2の冠状断画像

 

2.下歯肉がんによる下顎骨浸潤の評価

下顎骨浸潤を伴う口腔がん(歯肉がんなど)では,下顎骨切除が行われる。その術式には,下顎辺縁切除と下顎区域切除の2種類あり,その両者の選択は,術後の咀嚼機能に大きく関与する。
特に,下歯肉がんにおける術前画像診断は術式の決定に必須であるが,もう1つの重要な役割として,顎骨切除の範囲設定がある。骨の切除断端は,術中迅速組織検査が行えないために,画像による術前評価が唯一の判断材料となり,その責任は重い。従来,下歯肉がんではCTとMRIの両方を施行し,CTでは骨の破壊程度を観察していた。ここにサブトラクション画像を追加することで,骨髄に腫瘍がどのように進展しているかを,皮質骨の情報と共に確認することができる(図4)。造影MRIに加え,CTのサブトラクション画像や骨条件の画像などと総合的に評価することで,より正確な下顎骨浸潤の術前評価が可能になったと実感している。

図4 サブトラクション画像による術前画像評価

図4 サブトラクション画像による術前画像評価

 

金属アーチファクト低減再構成:SEMARの初期臨床経験

CT撮影において口腔内の金属から生じるアーチファクトは,頭頸部がんの評価にとって大きな障害となる。Aquilion ONEの最新技術であるSingle Energy Metal Artifact Reduction(SEMAR)は,生データベースで金属アーチファクトを低減するアルゴリズムであり,Volume Scanで撮影された画像データに適用可能で,処理に要する時間は2分程度である。当院は東芝メディカルシステムズ社とSEMARの共同研究を行い,臨床画像に適用してきた。現在,Aquilion ONEで撮影された画像データを用いて,画質を低下させることなく,どの程度アーチファクトを低減可能か検討評価を行っているところであり,いくつかの初期臨床経験を供覧する。

・‌Case3:左舌縁の舌がん,T1(図5

SEMAR適用前のCT画像(図5a)は,歯の充填物から生じる金属アーチファクトにより,腫瘍の存在診断は困難であるが,SEMARの後処理を適応すると,画質を劣化させることなくアーチファクトのみ低減され,左舌縁の病変を確認することが可能となった(図5b)。

図5 Case3:舌がん(左舌縁)T1

図5 Case3:舌がん(左舌縁)T1

 

・Case4:左舌縁部の舌がん,T4a(図6

通常のCT画像(図6a)では,ちょうど腫瘍の位置に金属アーチファクトが生じてしまい評価困難であるが,SEMAR適応後は腫瘍の局在診断が可能となった(図6b)。同症例で,図7aでは口腔底方向への腫瘍進展を評価することは難しいが,SEMAR適用後の図7bでは,左側の舌神経血管束近傍まで腫瘍が達していることを評価することができる。
現時点では,すべての症例でアーチファクトの低減が可能となるわけではなく,効果の程度はさまざまである。今後は,さらに臨床データを集めて臨床的評価を進め, SEMARの有用性について検討していきたいと考えている。

図6 Case4:舌がん(左舌縁)T4a

図6 Case4:舌がん(左舌縁)T4a

 

図7 Case4:舌がん(左舌縁)T4a

図7 Case4:舌がん(左舌縁)T4a

 

まとめ

頭頸部がんにおけるサブトラクション技術を応用した骨浸潤評価や金属アーチファクト低減の有用性について提示した。頭頸部領域は,320列ADCTによる160mmのVolume Scanのメリットを最大限に活用できる領域であり,次バージョンに搭載される生データベースのDual Energy 解析なども含め,さらなる臨床応用の進展が期待される。


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