Full Iterative Reconstruction:開発と臨床応用 
立神 史稔(広島大学病院放射線診断科)
<Technology of Area Detector CT>

2014-10-24


立神 史稔(広島大学病院放射線診断科)

本講演では,東芝メディカルシステムズが開発中の「Full Iterative Reconstruction(Full IR)」の特徴と有用性について,臨床例を供覧して紹介する。

Hybrid IRとFull IRの特徴と原理

CTで一般的に使用されている画像再構成法であるFBP法は,アーチファクトやノイズがやや多いが,高速な画像再構成が可能である。また,近年普及が進んでいる逐次近似画像再構成法(Iterative Reconstruction:IR)のほとんどは,FBP法を併用したHybrid IRであり,同社のAIDR 3Dがこれに相当する。画像再構成時間はFBP法とほぼ同等である。AIDR 3Dを用いたこれまでの報告によると,22〜64%の高い被ばく低減効果が得られており,特に肺野や血管系などの高コントラスト領域での被ばく低減効果が高い。しかし,軟部組織などの低コントラスト分解能や,各部位の特性に合わせた画質調整という点については課題が残る。
一方,Full IRは真の意味でのIRであり,Hybrid IRでは適用できない各種のモデルが適用可能である。これにより,さらなる被ばく低減と分解能の向上が期待できる。現時点では画像再構成時間がやや長いことが課題と言える。Full IRの原理については田中氏の講演を参照されたい

Full IRの初期検討

当院にて320列ADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」を用いて,開発中のFull IRの初期検討を行った。
Catphan(高コントラストモジュール)を用いて高コントラスト分解能の検討を行った。AIDR 3Dの高コントラスト分解能はFBPとほぼ同等であるが,Full IRでは各種モデルの適用により,高コントラスト分解能が向上していることがわかる(図1)。また,FBPとAIDR 3Dではオブジェクト周辺にアンダーシュートが生じているが,Full IRでは認められない(図2)。

図1 高コントラストモジュールによる検討 120kV,200mA

図1 高コントラストモジュールによる検討
120kV,200mA

 

図2 高コントラストモジュールによる検討 120kV,200mA

図2 高コントラストモジュールによる検討
120kV,200mA

 

次に,Catphan(低コントラストモジュール)を用い,低コントラスト分解能の検討(図3)を行った。200mA(上段)では画像ノイズはFull IRで最も低減しており,分解能も向上している。50mA(下段)では,AIDR 3Dはノイズが除去されているものの小さな粒状影が目立ち,分解能にも大きな改善は見られないが,Full IRでは細かなモジュールの境界も認識可能である。
これらの検討により,Full IRでは高コントラスト分解能,低コントラスト分解能ともに向上することが確認された。

図3 低コントラストモジュールによる検討

図3 低コントラストモジュールによる検討

 

臨床症例

1.肺野
図4は,5mAs,0.27mSvで撮影した健常ボランティアの肺野画像である。FBPではSD:135.6であるがFull IRではSD:8.4と,約94%のノイズ低減が得られている。拡大画像を見ると,Full IRではAIDR 3Dと比べてさらにノイズが除去され,葉間胸膜や細かい血管がはっきりと認識できる。5mmスライス厚で再構成を行った縦隔条件の画像では,SD:6.5まで改善し,画質も大幅に向上している。
改善すべき点はあるものの,将来的にはこのような超低線量での撮影をめざすべきと考えている。

図4 肺野画像(0.27mSv) 120kV,5mAs,2mm

図4 肺野画像(0.27mSv)
120kV,5mAs,2mm

 

2.肝臓
図5は,80kV,135mAs,1.1mSvで撮影した肝実質の画像である。肝細胞がんが多発しており,淡い低吸収の結節が見られる。AIDR 3Dではノイズに埋もれてわかりにくい腫瘍も,Full IRでは明瞭に視認でき(),小さな石灰化やリピオドール()もはっきりと描出されている。
図6は同一症例の冠状断像であるが,Full IRでは椎体や上行大動脈周囲のノイズがほぼ除去されている。また,早期動脈相で見られるような,脾臓のまだらな濃染もはっきりと確認できる。
肝実質と筋肉にROIを設定し,軟部組織におけるノイズ低減率を測定したところ,AIDR 3Dでは33〜55%のノイズ低減率であったが,Full IRでは78〜84%であり,大幅な画質改善が期待できる。

図5 肝実質(1.1mSv) 80kV,135mAs,0.5mm

図5 肝実質(1.1mSv)
80kV,135mAs,0.5mm

 

図6 図5の冠状断像

図6 図5の冠状断像

 

3.心臓
東芝メディカルシステムズでは現在,心電同期に対応したFull IRの開発も進められており,当院にて検討を行った。
図7は,左前下行枝(LAD)起始部の石灰化症例である。FBPやAIDR 3Dでは,石灰化にブルーミングアーチファクトが見られるが,Full IRではほとんど認められず,石灰化の境界も明瞭である。
図8は,陳旧性心筋梗塞症例の冠動脈CTAであるが,Full IRでは血管や臓器の境界がより明瞭である。心尖部には陳旧性の梗塞巣が認められるが,淡い低吸収の梗塞巣の描出能も向上するのではないかと期待している。図9は同一症例のCurved MPR画像であるが,Full IRではノイズ低減に加え,血管や構造物の境界がきわめて明瞭となっている。

図7 カルシウムスコア(2.2mSv)

図7 カルシウムスコア(2.2mSv)

 

図8 冠動脈CTA(2.1mSv) 100kV,540mA,0.5mm

図8 冠動脈CTA(2.1mSv)
100kV,540mA,0.5mm

 

図9 図8のCurved MPR画像

図9 図8のCurved MPR画像

 

まとめ

一般に,IRはノイズとアーチファクトを飛躍的に低減させる有効な手法である。Full IRは空間分解能の向上に加えて,Hybrid IR(AIDR 3D)では成し得なかった低コントラスト領域における分解能も改善させる。
また,従来のFull IRの画質はオイルペインティング様の質感となっていたが,同社が現在開発中のFull IRでは,そうした違和感が出ないようパラメータと強度が変更できるようになっており,将来的には部位の特性に合わせた調整が可能になるという。この新しいFull IRにより,さらなる被ばく低減と画質向上の両立が期待される。

 

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