FIRSTの技術紹介 
中西  知(東芝メディカルシステムズ株式会社)

2015-12-25


2007年に発売した世界初の320列ADCT「Aquilion ONE」は,2013年には0.275秒スキャンの高速化を実現した第2世代ADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」に進化しました。さらに,2015年春,最新の被ばく低減技術である「FIRST」を搭載した第3世代ADCT「Aquilion ONE/ViSION FIRST Edition」を発表しました。弊社の被ばく低減・画質向上のための逐次近似再構成技術の開発は,画像データベースであるQDS(量子フィルタ)からスタートし,統計学的ノイズモデルなど各種モデルを組み込んだ「AIDR 3D」,さらにNPSモデルを搭載した「AIDR 3D Enhanced」,金属アーチファクト除去アルゴリズムの「SEMAR」へと発展しました。そして2015年に,さらなる被ばく低減を実現するFull IRである「FIRST」を開発しました。本講演では,FIRSTの開発コンセプトと技術のポイントについて紹介します。

FIRSTの開発コンセプト

FIRSTの開発コンセプトは,(1)空間分解能の向上,(2)低コントラスト検出能の向上,(3)被ばく線量の低減,(4)ワークフローを重視した再構成速度,(5)対象臓器に合わせた最適化,複数パラメータの適用です。FIRSTは,従来法とはまったく異なる画期的な再構成技術で,種々のモデルを用い,順投影による繰り返し処理によって,低線量の投影データでも最適な画質を得ることができるアルゴリズムです(図1)。その中から,3つのポイントに絞って説明します。

図1 被ばく低減技術FIRSTのアルゴリズム全体図

図1 被ばく低減技術FIRSTのアルゴリズム全体図

 

FIRSTの再構成技術の3つのポイント

●ポイント1:光学系モデルによる空間分解能の向上
FIRSTでは,順投影の中に焦点サイズおよび検出器サイズ,再構成画像を構成するボクセルサイズなどの情報を組み込むことで,空間分解能を向上させることが可能です(図2)。また,FBPでは,周波数空間上でのデータの疎密を補正するための“重み付け”が必要になります(これが再構成関数となります)が,特に高周波を強調する場合,エッジ周辺にアンダーシュートやオーバーシュートが発生する傾向がありました。FIRSTでは再構成関数を必要としないため,オーバーシュート,アンダーシュートの少ない画像が得られます。ラダーファントムのハイコントラストゲージの結果では,FIRSTではFBPに比べて空間分解能が向上し,アンダーシュートがなくゲージが分割されて,クリアに描出されています(図3)。

図2 光学系モデル FBPとFIRSTの違い

図2 光学系モデル
FBPとFIRSTの違い

 

図3 ラダーファントムによるFBPとFIRSTの比較

図3 ラダーファントムによるFBPとFIRSTの比較

 

●ポイント2:統計ノイズモデルによるストリークアーチファクトの低減
統計学的ノイズモデルは,AIDR 3Dでも採用されたもので,FIRSTでも同じモデルを採用しています。フォトンノイズとX線強度は比例関係にあることから,X線強度を把握することでデータに含まれるノイズの量がわかり,そのデータに信頼性があるかの判断指標として利用することができます(図4)。AIDR 3Dなどに用いられるHybrid-IRでは,これをフィルタリングの強度に使用し,ストリークアーチファクトの除去を行いますが,フィルタリングという性質上,どうしてもストリークの残存や空間分解能の劣化が起こります。FIRSTでは,信頼性情報を基にデータの重み付けを行うことで,ノイズの含まれるデータはなるべく使わないという処理を行います。データ使用の判断をより直接的に投影データに反映することで,空間分解能を劣化させず,より効果的にストリークアーチファクトを低減することが可能になります。

図4 統計学的ノイズモデル

図4 統計学的ノイズモデル

 

●ポイント3:部位ごとに最適化されたRegularization(図5)
Regularizationは,総合的な“画づくり”を行う部分で,さらなるノイズ低減を行うプロセスです。Regularizationでは,隣接するピクセルのCT値を比較し,データの解剖学的特徴を踏まえながら,そのピクセルがノイズか構造物かの判断を行います。FIRSTでは,この情報を“どうCT値を変化させればノイズのないシャープな理想的な画像に近づくか?”というフィードバックに使用します。部位によって解剖学的な特徴は異なり,要求される診断画像は異なりますので,その特徴を把握して部位ごとに最適な画像となるように設計をしました。

図5 Regularization

図5 Regularization

 

FIRSTによる最終的な画質の最適化

この3つのポイントを踏まえながら,再び図1に戻って各モデルの役割を紹介します。ポイント1および2(図1黄枠)は,順投影を含む投影データ上で機能するモデルで,投影データに忠実に空間分解能の向上とストリークアーチファクトの低減を図り,画像を向上させる処理を行います。一方,ポイント3のRegularization(図1青枠)は画像上のデータで機能するモデルで,画像をよりスムーズにするように働きます。これらのモデルは,別々に機能するのではなく,構造物のエッジなどシャープにする必要がある部分には図1黄枠の処理が,軟部組織などのスムージングが必要な部分は図1青枠の処理が働き,互いの出力を常に総合的に判断して,繰り返し処理を行うことで画質を最適化していきます。

処理速度,ワークフローへのこだわり

さらに,FIRSTでは処理速度やワークフローについてもこだわりました。一般に逐次近似再構成では膨大な処理時間を必要としますが,FIRSTでは高性能の並列処理が可能な専用ハードウエアを準備し,アルゴリズムや各種パラメータを最適化することで,ボリュームデータで160mmを約3分,ヘリカル撮影のデータで250mm幅を約6分という再構成速度を達成しました。また,FBP再構成とFIRST再構成を別々に処理できるようにシステム構成を見直し,通常検査にも支障を来さないようにしています。
FIRSTは,Aquilion ONE/ViSION FIRST Editionに搭載されるほか,Aquilion ONE/ViSION Editionではアップグレーダビリティが考慮されており,最終的にはすべてのAquilion ONEで使用が可能となります。対象部位は,Body(軟部組織全般),Lung(肺野),Cardiac(心臓一般),Cardiac Sharp(高精細ステント向け),Bone(骨一般,耳小骨)に対応可能で,強度はMild,Standard,Strongの3種類を用意しています。強度に応じてvolumeEC連動することで,被ばく低減を自動的に行うことが可能になっています。

まとめ

FIRSTによって,従来のFBPに比べ空間分解能,密度分解能が向上し,最大で約80%の被ばく低減が可能になります。さらに,FIRSTの逐次近似再構成技術は被ばく低減だけでなく,さまざまなアプリケーションに展開できる可能性を秘めています。その潜在パワーを発揮できるように引き続き開発を進めてまいります。


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