FIRSTのワークフロー 
遠藤 和之(東海大学医学部付属八王子病院放射線技術科)
Session 1

2016-5-25


遠藤 和之(東海大学医学部付属八王子病院放射線技術科)

当院では現在,3台のCTが稼働しており,このうちの2台は東芝メディカルシステムズ社製の「Aquilion 64」と,新たに導入した「Aquilion ONE / ViSION FIRST Edition」である。逐次近似応用再構成は,それぞれ「AIDR 3D」と「AIDR 3D Enhanced」を搭載しているが,加えてAquilion ONE / ViSION FIRST EditionにはFull IRの「FIRST」が搭載されている。本講演では,当院におけるFIRSTの特性に合った適応部位・疾患の決定,ワークフローの構築について述べる。

FIRSTの特性に合った適応部位および疾患の決定

FIRSTは,空間分解能および低コントラスト検出能の向上により高空間分解能とノイズ特性の改善,被ばく線量の低減を実現し,臨床で使用可能な画像再構成速度を実現した最新の逐次近似画像再構成技術である。これらの特性を生かし,当院のワークフローに合った適応部位や疾患について検討した。

1.適応部位の検討
整形領域の骨折症例において,AIDR 3D Enhancedでは硬い再構成関数を用いるため骨周辺のアンダーシュートが目立つが,FIRSTでは認められず,骨皮質の評価や微細な骨折,骨片の描出能が高い(図1)。骨折部位のプロファイルを取ったところ,FIRSTではアンダーシュートがないことが確認できた。
次に,ノイズ抑制目的に軟らかい再構成関数を用い,かつ高い分解能が要求される部位でFIRSTが有効性を発揮するのではないかと考えた。頸部血管では,AIDR 3Dの強度:Weak,再構成関数:FC04と比較して,FIRSTでは血管の辺縁がよりシャープに描出されており,狭窄率の解析における信頼性の向上などが期待できる(図2)。同様に,冠動脈での比較においてもFIRSTの方が高分解能が得られ,末梢血管のCT値が上昇しており,有効性があると考えられた。

図1 骨折症例におけるAIDR 3D EnhancedとFIRSTの比較

図1 骨折症例におけるAIDR 3D EnhancedとFIRSTの比較

 

図2 頸部血管におけるAIDR 3DとFIRSTの比較

図2 頸部血管におけるAIDR 3DとFIRSTの比較

 

2.低線量肺がんCT検診への適応
当院では,医師の要望に基づき肺野条件ではAIDR 3D Weakを用いてFBPに近い画像を提供しているが,FIRSTを適応した場合の評価を,背側側に−700HUのすりガラス陰影(GGO)を模擬した腫瘤のあるファントムを用いて行った。
図3は,通常線量の約1/10に当たるCTDI:0.7mGyで撮影した画像だが,シャープさはAIDR 3D Weakの方がやや優位であるものの,描出能はFIRSTの方が有効と考えられる。

図3 低線量肺がんCTにおけるAIDR 3DとFIRSTの比較

図3 低線量肺がんCTにおけるAIDR 3DとFIRSTの比較

 

3.アーチファクトの低減への適応
FIRSTは統計学的ノイズモデルを用いておりストリークアーチファクトの大幅な低減が可能であるが,それを実臨床で生かすための検討を行った。
腹部ファントムの両側に腕のファントムを置いた最もアーチファクトが発生しやすい状況で,撮影線量を0.6〜24.1mGyに変えながら撮影し,FBP(boost+),AIDR 3D Enhanced Mild,FIRST Standard,FIRST Strongを用いて再構成を行った。得られた画像のそれぞれ3か所にROIを設定し,各ROIのSDよりアーチファクトインデックス(AI)を算出して評価した。その結果,AIDR 3D EnhancedとFIRSTは,いずれもFBPよりAIが低く,低線量域ではFIRSTが最もAIが低かった。実際の低線量画像でも,FIRSTにて著明なアーチファクトの低減が確認できる(図4)。

図4 FIRSTによるアーチファクトの低減

図4 FIRSTによるアーチファクトの低減

 

当院におけるワークフローの構築

1.FIRSTの再構成時間の検討
当院の単純CT撮影の流れは,1台のCTを診療放射線技師1名が担当した場合,(1)入室からスキャン終了(1〜2分),(2)スキャン終了〜退室(2〜3分),(3)次の患者の入室・検査(1〜2分)であり,(2)と(3)を合計した3〜5分が,ワークフローを延長せずに画像再構成を行える時間となる。
また,単純+造影CT撮影では,(1)入室から単純撮影終了(1〜2分),(2)ルート確保(4〜5分),(3)造影撮影終了(3〜4分),(4)撮影終了から退室(3〜4分),(5)次の患者の入室・検査(1〜2分)であり,(2)の4〜5分と,(4)と(5)を合計した4〜6分をFIRSTでの画像再構成に当てることができる。
一方,FIRSTの再構成時間は,16cmのボリュームスキャンは3分であるが,全肺を想定した32cmのヘリカルスキャンでは6分20秒であり,上記の時間をオーバーする。そこで,全肺以外でFIRSTの高空間分解能やノイズ特性の改善が有効な撮影として,HRCTでの検討を行った。
ヘリカルスキャン,30スライスでの再構成時間は,FIRST Lung Standardの1mmスライス厚で1分36秒,0.5mmスライス厚で1分26秒であり,臨床で問題なく使用可能な時間であった(図5)。また,FOVやスライス厚の違いは再構成時間に影響しなかった。
一方,FIRSTの部位や強度の設定の違いによる再構成時間を1mmスライス厚,30スライス固定にて測定した結果,Cardiac Sharpでは再構成時間の延長が見られた(図6)。

図5 HRCTにおけるヘリカルスキャン,30スライスでのFIRSTによる再構成時間

図5 HRCTにおけるヘリカルスキャン,30スライスでのFIRSTによる再構成時間

 

図6 FIRSTの部位と強度の設定の違いによる再構成時間の比較

図6 FIRSTの部位と強度の設定の違いによる再構成時間の比較

 

2.当院におけるFIRSTの適応部位
上記の内容を踏まえ,当院では緊急性や即時性が求められないこと,体軸方向の撮影範囲が狭いことを条件に,FIRSTの適応部位を決定した(図7)。
まず整形領域と内耳であるが,FIRSTではアンダーシュートがなく高精細な画像が得られるため有効である。軟部条件はAIDR 3D Enhanced,骨条件はFIRST Boneを用いている。心臓では,位相探しにはAIDR 3D,位相決定後はFIRST Cardiac,ステント留置例にはFIRST Cardiac Sharpを用いている。低線量肺がんCT検診では,AIDR 3D Enhancedで画像確認を行い,その後FIRSTのBodyとLungの画像を提供している。頸部血管では,3DやMPRの作成にはAIDR 3Dを用いているが,分岐部の拡大再構成にはFIRSTを用いている。
そのほか,上肢挙上困難例や下肢CTAにもFIRSTを用いることを検討している。

図7 当院のFIRST適応部位

図7 当院のFIRST適応部位

 

3.当院におけるFIRSTの運用
図8に,当院の単純CT撮影におけるFIRSTの運用を示す。FIRSTは独立した再構成ユニットを有しているため,スキャン終了と同時にAIDR 3DとFIRSTの画像再構成を同時に実施でき,ワークフローの延長なく運用できている。

図8 当院の単純CT撮影におけるFIRSTの運用

図8 当院の単純CT撮影におけるFIRSTの運用

 

今後への期待

当院では現在,FIRSTを使用できるのはAquilion ONE / ViSION FIRST Editionのみのため,FIRSTの適応を絞らざるを得ない状況である。今後,下位機種でも使用可能な再構成技術が確立され,より多くの部位にFIRSTを適応できるようになれば,臨床への普及も促進されると考えている。

 

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