Aquilion ONEを用いた腹部画像診断 ─腹部サブトラクション:平衡相への応用(W.I.P.)─ 
吉満 研吾(福岡大学医学部放射線医学教室)
Session 2

*最後に講演動画を掲載

2016-12-22


吉満 研吾(福岡大学医学部放射線医学教室)

東芝メディカルシステムズ社製ADCTは,高度な非線形・非剛体位置合わせ技術を用いたサブトラクション技術を有している。胸部領域においてはすでに,造影前後のCTデータを高精度に差分処理する“Lung Subtraction Iodine Mapping”が実用化されているが,同社は現在,腹部領域に特化した新しいサブトラクション法“SURESubtraction Iodine Mapping”(W.I.P.)を開発中である。本講演では,SURESubtraction Iodine Mappingの概要と基礎データを紹介し,臨床応用の可能性について述べる。

新サブトラクション法SURESubtraction Iodine Mapping

1.非線形・非剛体位置合わせ
正確なサブトラクション処理に必要な非線形・非剛体位置合わせは,従来の線形位置合わせと異なり,単純なアフィン変換(回転,平行移動,拡大縮小,剪断など)ではない。フローティング画像(非造影CT画像)に等間隔に制御点を配置し,局所的な類似度を向上させて相互情報量が高くなるように画像を変形させ,参照画像(造影CT平衡相)に位置を合わせるという,ボクセル単位での変形が行われる。
Lung Subtraction Iodine Mappingは,コントラスト差が大きい空気が多い肺を対象としているため,そのまま腹部領域に適用することは容易ではないが,All mode を用いることである程度の精度のサブトラクションが可能な場合もある。開発中のSURESubtraction Iodine Mappingは,軟部組織濃度を対象にCT値を取得することで,腹部実質臓器にフォーカスした処理を可能にし,より高精度な位置合わせが期待できる。

2.SURESubtraction Iodine Mappingの概要
SURESubtraction Iodine Mappingは,通常の単純CTと造影CTデータから造影成分を可視化する手法で,サブトラクション画像やヨードマップ,ヨードマップを元画像に重ね合わせたCE Boost画像などを生成することができる。対象部位は主に腹部(肝臓,膵臓,腎臓,腸管)である。位置合わせアルゴリズムは,相互情報量を利用した逐次非線形位置合わせ法であり,腹部組織(軟部濃度組織)の位置合わせに適したパラメータチューニングが行われている。なお,処理時間は3〜4分ほどである。

基礎データ

腹部領域は呼吸の影響を大きく受けるが,SURESubtraction Iodine Mappingでは,肝臓も含めた軟部組織に対しても高精度に位置補正が可能である。
ボランティアを対象に,自然吸気と呼気の単純CTと,意識的に深吸気・呼気を行った単純CTそれぞれのサブトラクションを,Lung Subtraction Iodine MappingのAll mode(従来法)とSURESubtraction Iodine Mappingで解析し,肝臓に大きくROIをとり,CT値を測定して平均値とSDを比較した。
自然吸気・呼気(10スライス)では,ほぼすべてのスライスでSURESubtraction Iodine Mappingの方が平均値とSDは小さい値を示した。深吸気・呼気(8スライス)では,2つのサブトラクション法の差がより顕著となる。従来法では視覚的にもミスレジストレーションが目立ち,平均値とSDが大きく乖離した。
自然吸気・呼気と深吸気・呼気の,それぞれの全スライスのCT値の平均値(絶対値で算出)とSDの平均値を比べた結果,図1に示すようにSURESubtraction Iodine Mappingの方が0に近い有意に小さい値を示した。また,深吸気・呼気では差が広がる傾向にあるが,SURESubtraction Iodine Mappingではほとんど変わらないか,むしろ小さくなった。

図1 位置補正精度の検証結果

図1 位置補正精度の検証結果

 

臨床応用例:各種膵病変

われわれは,従来法を用いて肝臓の単純相と平衡相からextracellular volume fraction(ECV)を計算して,ほかの線維化指標と比較する検討を行い,有望な結果を得た1)。ここでは従来法の有用性を紹介することで,SURESubtraction Iodine Mappingの可能性を示したい。
ECVとは組織全体に対する細胞外液容積比であり,肝(CT)や心筋(MRI)の線維化の程度を推定する指標として臨床応用されている。ECVは,単純相と平衡相の画像があれば,次式で容易に算出できる。

ECV[%]=(100−ヘマトクリット値[%])
     *⊿Liver/⊿blood pool

⊿Liver=平衡相の肝実質のCT値−単純相の肝実質のCT値

⊿blood pool=平衡相のブラッドプール(大動脈)のCT値−単純相のブラッドプールのCT値

ECVは CTとMRIのどちらでも計測可能だが,造影剤濃度を直接的にCT値に変換するCTの方が容易に計測できる。上記の式における⊿Liverと⊿blood poolとは,平衡相から単純相を差分したサブトラクション画像の値であることから,サブトラクション法を用いることで容易にECV mapを作成できる。
われわれの検討1)では,320列ADCT「Aquilion ONE」を用いて肝MDCTプロトコール(120kVp,600mgL/kg,平衡相240秒)を撮影した41症例を対象とし,1か月以内に施行したMREのkPa値との比較(n=41)と,1年以内に行った病理診断のFグレード(n=14)との比較を行った。
その結果,MRE(kPa)との比較(Pearson’s regression analysis)ではR2=0.56776(p<0.0001)となり,ある程度の相関があることがわかった。大きく乖離した1例は,長期輸液管理中の入院症例であり,ヘマトクリット値が異常低値を示していた。一方,Fグレードとの比較(Spearman’s rank correlation)ではRho=0.7542(p=0.0018)と,想定より良好な相関があることがわかった。また,Tukey-KramerのHSD検定では,F4とF0(p=0.0262)やF4とF1(p=0.0259)はもとより,F3とF1(p=0.0413)でも有意差が認められた。予備的検討ではあるが,ECV mapは肝線維化推定に有望ではないかと考えている。
個々の症例を見ると,CPS 5,F2/A2のC型慢性肝炎症例がECV map=25.5%,MRE=3.3kPaであるのに対し,CPS 6,F4/A2のC型肝硬変症例はECV map=35.5%,MRE=10.2kPaとなり,定量的により正しく判定できると期待される。
精度の高いサブトラクション画像を作成することで,より正確な肝線維化評価ができることから,SURESubtraction Iodine Mappingを用いることで,従来法よりも良好な結果を得られると考えられる(図2)。SURESubtraction Iodine Mappingが実用化すれば,肝臓のルーチン検査で肝線維化評価も行える可能性がある。

図2 ECV mapによる肝線維化診断

図2 ECV mapによる肝線維化診断

 

臨床応用例:各種膵病変

SURESubtraction Iodine Mappingは膵臓にも応用できる。膵頭鉤部がんで閉塞性膵炎改善後の症例(75歳,男性)に,従来法とSURESubtraction Iodine Mappingのサブトラクションを適用した(図3)。これはECV mapではなく単純なサブトラクションであり,病変間,もしくは疾患間ではあまり差がないように見える。
症例数は少ないが,各種膵疾患のデータでECVを算出するとその傾向が見えてくる(図4)。従来法とSURESubtraction Iodine Mappingは共に,膵がんではdelayed phaseで明らかに濃染しており,次いで濃染を示すのが閉塞性膵炎である。もう一つの注目点は,従来法と比べてSURESubtraction Iodine Mappingの方がバラツキが小さいことで,再現性がより高い可能性がある。
慢性膵炎と急性膵炎を見ると,従来法とSURESubtraction Iodine Mappingで反転していることから,今後の精度検証が待たれる。

図3 膵頭鉤部がん+閉塞性膵炎改善後の症例に対する従来法とSURESubtraction Iodine Mappingの比較

図3 膵頭鉤部がん+閉塞性膵炎改善後の症例に対する従来法と
SURESubtraction Iodine Mappingの比較

 

図4 各種膵疾患のECV

図4 各種膵疾患のECV

 

臨床応用の可能性:胆道

われわれは以前,ダイナミックMRI平衡相での漿膜下層濃染が,胆囊がんの深達度(T2)診断の指標として有用であることを報告した2)。CTでの検討も行ったが,分解能に限界があり,長軸像を作成しても漿膜下濃染の確認が難しい症例もあった。
このような場合に,SURESubtraction Iodine MappingのCE Boost画像を用いることで,MRIと同等の診断ができる可能性があると期待している。

まとめ

従来法に比べ,新たなサブトラクション法であるSURESubtraction Iodine Mappingにより,腹部領域において有意に精度の高いサブトラクションが可能になることが期待される。そして,ECV mapによる肝線維化診断,各種膵病変の病態解析,胆道がん深達度診断などにおいてもSURESubtraction Iodine Mappingが応用できる可能性があり,今後も検討していきたい。

●参考文献
1)品川喜紳:多相 MDCT データを用いた肝線維化評価;非線形位置補正サブトラクションによるECV map の初期経験. 第52回日本肝癌研究会, O38-2, 2016.
2)Yoshimitsu, K., et al.:Magnetic resonance differentiation between T2 and T1 gallbladder carcinoma ; Significance of subserosal enhancement on the delayed phase dynamic study. Magn. Reson. Imaging, 30・6, 854〜859, 2012.

 

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)


【関連コンテンツ】
TOP