Aquilion ONE/GENESIS Editionの開発 
尾崎 公紀(東芝メディカルシステムズ株式会社CT開発部)

*最後に講演動画を掲載

2016-12-22


64列CTが主流だった2007年,東芝メディカルシステムズは世界に先駆けて320列Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」を開発し,RSNA2007で発表しました。その後,進化を続けるAquilion ONEは,優れた臨床的有用性が世界に認められ,今日までに日本国内では350台以上,全世界では1100台以上が稼働しています。このように高い評価をいただいているAquilion ONEですが,よりいっそうの被ばく低減,画質・スループットの向上など,さらなる技術進歩が求められています。また,64列CTのリプレイスに際しては,設置スペースなど従来同様の条件でADCTを導入したいというニーズがあります。そこで,われわれは,これらの臨床現場からの要求に応えるとともに,ADCTのさらなるグローバルスタンダード化をめざし,“Aquilion ONEを超えるAquilion ONE”として,「Aquilion ONE/GENESIS Edition」(GENESIS)を開発しました。本講演では,GENESISの特長である,(1) さらなる低被ばくと高画質化,(2) さらなる高速化と使いやすさの実現,(3) より美しく,洗練されたデザイン設計,という3つの進化をご紹介します。

さらに低被ばく,高画質なADCTへ

GENESISでは,データを収集するガントリに独自のX線光学技術である“PUREViSION Optics”を採用したほか,画像作成を行うコンソールに完全な逐次近似再構成(Full IR)である“FIRST”を搭載しました。
PUREViSION Opticsは,X線出力から検出器に至るまで,被ばくと画質のクオリティを決めるあらゆる要素がブラッシュアップされています(図1)。まずX線の出力部においては,被ばくと画質のバランスを考慮して,X線エネルギーの最適化を図りました。幅広いX線エネルギーの中で,特に低エネルギー成分は被ばくに大きな影響を与えるため,PUREViSION Opticsでは低エネルギー成分を抑制して高エネルギー成分を多く使用することで,被ばく線量の低減と画質向上の両立を実現しました。さらに,X線検出部には,最新の検出器であるPUREViSION Detectorを搭載し,光出力を40%向上させ,データ収集システムの電気ノイズを最大28%低減させています。
また,順投影適用モデルベースのFull IRである「FIRST」は,CTで収集した投影データと初期画像から順投影で作成した投影データの差異を画像へフィードバックし,その処理を繰り返すことで最終画像を作成します。この時に,回路ノイズとフォトンノイズを統計学的にモデル化した統計学的ノイズモデル,焦点サイズ・検出器マトリクスサイズに基づく光学モデル,スキャナモデル,コーンビームモデル,アナトミカルモデルといった複数のモデルを適用することで,従来のFBP法を上回る空間分解能や,大幅なノイズとアーチファクトの低減効果が得られます(図2)。バーパターンファントムで比較すると,FIRSTはFBP法と比べ明らかに空間分解能が向上しており,CT値もFIRSTの方が正しい値に近いことが確認できます(図3)。また,胸部ファントムを0.1mSvで撮影した結果,FBP法に比べてFIRSTはノイズが大幅に低減されており,FBP法ではアーチファクトにより検出が困難な肺尖部のすりガラス結節が,FIRSTでは明瞭に描出されています(図4)。
FIRSTは,さらなる進化を続けており,現在ビームハードニングモデル(W.I.P.)の開発を進めています(図5)。CTで収集した投影データにおいて,すべての中間物質(骨~水)に対し,コーン角も考慮した正しいX線パス長における最適化したビームハードニング補正(BHC)を行います。従来のボリューム撮影の場合,ビームハードニングなどの影響でz軸方向にCT値の信号ムラが発生していましたが,ビームハードニングモデルを取り入れたFIRST BrainではCT値の均一性が向上しており,ファントム実験でもコーンビームアーチファクトが大幅に改善しています。
FIRSTはこのように各種モデルを加えながら,対象部位に最適化したパラメータの追加搭載を続けています(図6)。

図1 PUREViSION Optics

図1 PUREViSION Optics

 

図2 FIRSTに搭載された各種モデル

図2 FIRSTに搭載された各種モデル

 

図3 バーパターンファントムでのFIRSTとFBP法の比較

図3 バーパターンファントムでのFIRSTとFBP法の比較

 

図4 胸部ファントムでのFIRSTとFBP法の比較

図4 胸部ファントムでのFIRSTとFBP法の比較

 

図5 ビームハードニングモデル(W.I.P.)の概念

図5 ビームハードニングモデル(W.I.P.)の概念

 

図6 部位ごとに最適化したパラメータを搭載

図6 部位ごとに最適化したパラメータを搭載

 

さらに速く,使いやすいADCTへ

GENESISは,被検者のセッティングから撮影,画像再構成までをすばやく,効率的に行うことができます。それを実現する新機能“エリアファインダ”は,160mmの撮影範囲をレーザー光で直接視認できる機能です。例えば頭部CTの場合,従来の装置では位置決め用画像を撮影して撮影範囲を設定していましたが,GENESISではエリアファインダによってポジショニング時に撮影範囲を確認でき,ポジショニング後すぐに撮影に移行できるため,検査時間が短縮され,位置決め用画像分の被ばく低減も図れます。
また,GENESISでは,さらなる高速化のためにコンソールのハードウエアも刷新し,FIRST専用の再構成ユニットを搭載しました。一般的にFull IRは繰り返し演算が必要なため膨大な演算量が発生しますが,FIRST専用再構成ユニットは,41.6TFLOPSの処理速度を実現しています。これは,1秒間に41.6兆回の浮動小数点数演算が可能であることを意味し,2000年代初めのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」と同等の処理能力となります。この専用ユニットにより,160mmのボリュームスキャンデータを最短約3分で再構成でき,日常のルーチン検査でのFIRSTの使用が可能となりました。加えてGENESISは,従来の画像再構成法であるFBPやAIDR 3DとFIRSTそれぞれに対して,独立して高速に同時並行処理が可能なため,スループットに支障を来すことなく,撮影後すぐに画像の確認ができます。

より美しく,洗練されたADCTへ

GENESISはガントリの設計を一新し,“人を想うカタチ,人に愛されるカタチ”をコンセプトに,無駄を省き,被検者に安心を与える美しいデザインに進化しました。
さらに,装置のダウンサイジングにも注力し,従来のAquilion ONEより性能・機能の向上を実現しつつガントリを小型化して,「Aquilion 64」よりもさらにコンパクトになっています。また,ダウンサイジングにもかかわらず,ガントリの開口径は780mmを実現し,従来同様にチルト機能も搭載しており,角度可変の範囲は±22°から±30°へとさらに拡張しました。
GENESISは,設置面積も省スペース化しています。従来のAquilion ONEは,本体の設置場所以外に機械室も必要であったため,最小設置面積が33m2でしたが,GENESISは機械室が不要で,最小設置面積19m2を実現しており,従来から44%の省スペース化を図っています(図7)。
さらに,GENESISは電源容量も抑制して,省エネルギーでの運用を可能にしました。これによりさまざまな施設の設置環境に柔軟に対応可能となります。

図7 スキャナ室の最小設置面積19m2を実現

図7 スキャナ室の最小設置面積19m2を実現

 

まとめ

GENESISは,PUREViSION OpticsとFIRSTがさらなる被ばく低減と新たな診断画像の提供をもたらし,エリアファインダや専用再構成ユニットによってスループットが向上します。さらに,被検者に安心感を与えるガントリデザインや,ダウンサイジングによる設置環境への柔軟な対応といった特長を有しています。ADCTがグローバルスタンダードCTとなり,世界中の施設で活躍することで医療の進歩に貢献できるよう,今後も開発を進めていきたいと考えております。

 

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