rDEを用いた腹部疾患評価 
福倉 良彦(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 放射線診断治療学分野)
Session<1>

2017-5-25


福倉 良彦

本講演では,Dual Energy CTを用いた腹部疾患評価の可能性について,症例を提示して述べる。

Dual Energy CTを用いた副腎腺腫の脂質評価の検討

1.管電圧の変化がCT値に与える影響
Dual Energy CTでは,管電圧を変化させることで,ある物質のCT値が変化する。石灰化やヨードは管電圧の増加に伴いCT値が上昇する。一方,脂肪は低下するため,石灰化やヨード,金属系,脂肪などの物質弁別が可能と考えられ,計算上は濃度まで求めることができる。
また,腹部疾患の中には,脂肪(脂質)の描出が診断上有用である疾患がいくつか存在する。副腎結節のうち,副腎腺腫の約70%は胞体内に豊富な脂質を有し,単純CTにて低吸収を呈するため,CT値により高い特異度で診断可能である。ただし,管電圧120kVpの単純CTでは,CT値の閾値を10HUに設定した場合,副腎腺腫の残りの30%は胞体内の脂質が少なく診断不能であり,転移性副腎結節など,ほかの腫瘍との鑑別が困難である。このような場合,通常はMRIのChemical Shift Imaging(CSI)や造影ダイナミック撮像による精査が考慮されるが,Dual Energy CTにて管電圧を変化させることで脂肪と軟部組織のコントラストが向上し,少ない脂肪成分でも描出できる可能性がある。
当院にて,Dual Energyの単純CTで副腎腺腫の診断能の向上が得られるか否か検討を行ったので紹介する。

2. 管電圧の違いによる副腎腺腫の診断能の検討
対象は,副腎結節の64症例,76結節(腺腫62,非腺腫14)である。Single Energy CTの120kVp,およびDual Energy CTの80kVp,135kVpで撮影し,診断能を比較した。撮影された各画像の結節にROIを置き,CT値を測定し,ROCカーブを用いて各管電圧における診断能を評価した。また,この時,特異度が100%になるカットオフ値を決定し,正診率を比較した。
図1に結果を示す。通常の120kVpのCT値で副腎腺腫を診断できるarea under the ROC curve value(Az value)は0.869で,Dual Energy CTの80kVpでは0.895と数値上は改善したものの,症例数が少ないこともあり有意差は得られなかった。しかしながら,結節が脂肪を有するか否かの診断には,管電圧を下げた方が有用と考えられる。

図1 Single Energy CTとDual Energy CTによる副腎腺腫の診断能の検討

図1 Single Energy CTとDual Energy CTによる副腎腺腫の診断能の検討

 

次に,脂肪含有量を反映する高管電圧と低管電圧のCT値の差を算出することにより診断能が向上するか否かを検討した。その結果,通常の120kVpで撮影した時よりも,高管電圧と低管電圧のCT値差を利用して診断した方が診断能が有意に向上し,感度が約61%から約76%にまで上昇した(図2)。また,高管電圧と低管電圧のCT値差とMRIのCSI signal intensity indexとの間には良好な相関が得られた(図3)。
さらに今後,基準物質画像やThree-material decomposition法を用いた濃度の測定により,定量的診断が可能になると考えられる。

図2 高管電圧と低管電圧のCT値差を利用した診断能の検討

図2 高管電圧と低管電圧のCT値差を利用した診断能の検討

 

図3 高管電圧と低管電圧のCT値差とMRIのCSIとの相関

図3 高管電圧と低管電圧のCT値差とMRIのCSIとの相関

 

3.症例提示
症例1(図4)は29歳,女性の右の副腎腺腫である。80kVp,120kVp,135kVpのCT値は,高管電圧では高く,管電圧が下がるに伴い低くなるため,この結節は豊富な脂肪を有していると考えら
れる。

図4 症例1:脂質を有する副腎腺腫(29歳,女性)

図4 症例1:脂質を有する副腎腺腫(29歳,女性)

 

症例2(図5)は,別の29歳,女性の右の副腎結節である。80kVpと135kVpのCT値を比較するとほとんど差がなく,脂肪を有さない可能性が高いと考えられる。
このように,特に脂肪の有無による診断が重要な副腎あるいは肝疾患において,Dual Energy CTがMRIのCSIを代替できる可能性が示唆された。

図5 症例2:脂質を有さない副腎結節(29歳,女性)

図5 症例2:脂質を有さない副腎結節(29歳,女性)

 

基準物質画像による膵臓がんの評価

東芝メディカルシステムズ社のRaw Data Based Dual Energy CT(rDE)では,水とヨード,水とカルシウムを基準物質にした画像を作成可能であり,水とヨードを基準物質にするとヨード・水画像と水・ヨード画像が作成される。そこで,造影後期相のヨード・水画像を用いて,膵臓がんの予後を予測可能かどうかの検討を行った。
膵臓がんは一般に,造影効果が弱い方が予後が悪いと言われており,われわれの過去の検討でも同様の結果が得られている1)。以前われわれは,Single Energy CTにて得られた3分後の造影CTと単純CTの差による造影効果で予後予測を行った。rDEでは,基準物質画像やThree-material decomposition法でヨード含有量の評価が可能である。そこで,われわれは新たに,造影3分後の基準物質画像によるヨード・水画像を用いて,膵臓がんの予後予測が可能か否か検討を行った。
対象は,膵管がんの94症例(男性42名,女性52名,68.6±9.1歳)である。図6aは,Single Energy CTによる造影効果と予後の関連であるが,やはり造影効果の強い方が予後が良い。図6bは,造影3分後のrDEにて得られたヨード・水画像上の計測値と予後との関連であるが,数値が高いほど予後が良いという結果となった。
今後,rDEによりヨードの定量化が可能となれば,単純CT画像がなくてもヨード含有量による悪性腫瘍の予後予測が可能になると思われる。

図6 膵臓がんにおける造影効果と予後の関係

図6 膵臓がんにおける造影効果と予後の関係

 

Dual Energy CTによる肝臓内の鉄沈着評価の基礎検討

肝臓には鉄が沈着する疾患(ヘモジデローシスやヘモクロマトーシス)があり,また,肝硬変では鉄の沈着と肝細胞がん発生の関与が報告されている。われわれは,Dual Energy CTを用いて鉄の沈着の程度を定量化可能か否か,ファントムを用いて基礎実験を行った。肝内の鉄成分とほぼ同物質とされるSPIO造影剤を5種類の濃度に調整し,Dual Energy CTで撮影し,高kV(135)−低kV(80)から鉄勾配を算出し,作成されたカラーマップからCT値と鉄濃度の変換テーブルを作成した。算出された鉄勾配は約0.64で,これを鉄マップの値に代入し,濃度変換すると,CT値と鉄濃度の変換テーブルが算出される(図7)。この時の鉄の濃度と変換テーブル上で数値化したCT値の相関は,R2=0.95となった。つまり,ある程度の鉄濃度があれば,Dual Energy CTによる鉄マッピングが可能になり,鉄を定量化できる可能性が示唆された。
しかしながら,肝臓内に沈着している鉄濃度は非常に低く,画質の問題もあり,現在,臨床使用に向けた検討を進めている。

図7 Dual Energy CTによる鉄のマッピングの可能性

図7 Dual Energy CTによる鉄のマッピングの可能性

 

まとめ

Dual Energy CTを用いることで,これまでMRIで行っていた診断の一部を代替できる可能性がある。

●参考文献
1)Fukukura, Y., et al. : Contrast-enhanced CT and diffusion-weighted MR imaging ; Performance as a prognostic factor in patients with pancreatic ductal adenocarcinoma. Eur. J. Radiol., 83・4, 612〜619, 2014.

 

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