超高精細CTの臨床現場での応用 
富田 博信(埼玉県済生会川口総合病院 放射線技術科)
CT

2021-6-25


富田 博信(埼玉県済生会川口総合病院 放射線技術科)

当院の画像診断センターは,CT装置2台で運用していたが,2019年12月,新たに超高精細CT「Aquilion Precision」を導入した。本講演では,超高精細CTや画像再構成技術“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”の基礎特性,臨床現場での有用性について紹介する。

超高精細CT導入に至る経緯

新たなCT装置の選定に当たっては,既存のものとは異なる特性を持つ装置を中心に検討した。そして,高い空間分解能を実現しているほか,AiCEを搭載し,従来の逐次近似画像再構成も選択可能で再構成関数も豊富なAquilion Precisionを導入した。新たに超高精細CTに対応した専用のモニタや画像サーバ,ワークステーション(WS)などは採用せず,既存システムで運用している。また,1024マトリックスや0.25mmの再構成画像のWSへの転送は,枚数制限を行っている。

超高精細CTの基礎特性

超高精細CTは,面内方向0.25mm×1792ch,体軸方向0.25mm×160列の検出器を持つ。スキャンモードは,NRモード(0.5mm×0.5mm),HRモード(0.5mm×0.25mm),SHRモード(0.25mm×0.25mm)が選択できる。フォーカスサイズはL0~S2の6サイズで,実臨床ではL3,S1,S2を中心に使用している。また,画像再構成は512,1024,2048マトリックスサイズから,症例に合わせて選択している。
超高精細CTの基礎特性として,頭部の画像再構成関数のMTFを既存CTと比較した(図1)。超高精細CTのNRモードはほぼ同等で(図1 a),SHRモードはより分解能が高いことが示された(図1 b)。既存CT装置のz方向へのオーバーサンプリング機能とSHRモードを比較した結果も同様で,Q/Qオフセット再構成ではさらに分解能が高かった。また,腹部領域で用いるHRモードについても,より高分解能であることが確認できた。
さらに,軟部の画像再構成関数について同一CTDIvolでNPSの比較を行った結果,頭部用関数では既存CTと同等のノイズ特性が示された。

図1 頭部用関数MTF比較 a:NRモード,b:SHRモード。赤が既存CT装置

図1 頭部用関数MTF比較
a:NRモード,b:SHRモード。赤が既存CT装置

 

AiCEの基礎特性

AiCEの基礎特性を測定するため,縦横比が1:1~1:2.5まで変化する縦横比変化型ファントム(京都科学社製)を用いて実験を行った。

1.NPS
縦横比1:1の部分でのFBPとの比較では,AIDR 3Dにて低線量でNPSが非線形的に強い変化を示しており,高周波ノイズが抑制されていると考えられる。AIDR 3DとAiCEの比較では,AiCEによるノイズ特性の改善が示された(図2)。しかし,低線量領域ではNPSの形状が変化しており,縦横比が大きい部分(1:2.5)でも同様で,画像の違和感を考慮すると,管電流は200mA程度が限界と考えられる。

図2 AIDR 3DとAiCEのNPS比較 a:AIDR 3D b:AiCE

図2 AIDR 3DとAiCEのNPS比較
a:AIDR 3D b:AiCE

 

2.画像SD値
FBPでは,ファントム形状の変化(1:1→1:1.25)によって画像SD値が上昇するのに比べて,AiCE,AIDR 3Dではほぼ一定となっている。管電流200mA,スライス厚5mmの場合,FBPではSD値35だが,AiCEでは10程度となる。さらに,0.5mmのthin slice画像では,AiCEによってより高いノイズ低減効果が期待できる(図3)。

図3 ファントム位置と画像SD値

図3 ファントム位置と画像SD値

 

3.100kVpの運用評価
次に,超高精細CTで管電圧100kVpでの運用を想定した画像SDの最適値を考察した。図4は100kVp,スライス厚5mmで撮影した画像だが,AIDR 3D,AiCEではSD値が改善し,既存CTと遜色ない画像が得られている。
さらに,超高精細CTと既存CT装置との被ばく線量比較を行った。その結果,超高精細CTでは,AiCEにより100kVpで造影効果が上昇する一方で,被ばく線量は約12mGyと既存CTとほぼ同等であった。画質も向上し脂肪織が鮮明に描出され,臨床医からは高評価を得ている。また,AiCEではストリークアーチファクトも改善されている。

図4 HRモード,100kVp,スライス厚5mm

図4 HRモード,100kVp,スライス厚5mm

 

4. 血管ファントムを用いた評価
われわれは,血管ファントムを用いた評価も行った。3mmの親血管と,0.8,0.6,0.5mmの小血管からなる血管ファントムを,スキャン方向に対し45°,90°,0°の角度でSHRモードにて撮影した結果,いずれも非常に明瞭な画像が得られた。また,既存CTと比べても非常に鮮明であり,MIP画像でも同様であった。

超高精細CTの臨床での有用性

1.頭頸部血管
当院では,頭頸部の血管撮影で特に有用性が高いと考えている。症例1は,右中大脳動脈クリッピング術の例である(図5)。超高精細CTでは,サブトラクションせずに,ポストプロセスで骨除去を行っているが,高い空間分解能で明瞭な画像が得られている。また,既存CT画像(図5 a)では,サブトラクションにより石灰化が除去されてしまうが,超高精細CT(図5 b)では石灰化が明瞭に描出されている。アキシャル画像では頭蓋骨と血管も明確に分離されて描出されている。さらに,512マトリックスよりも1024マトリックスの方がより明瞭な画像が得られ,既存CTと比較しても明らかに分解能が高かった。また,既存CT装置では石灰化が若干大きく見えるのに対し,超高精細CTでは本来の大きさで忠実に再現された。
右内頸動脈狭窄例(症例2)では,造影1相撮影のみで通常の血管や石灰化,およびそれらのフュージョンについて鮮明な画像が取得できた(図6)。なお,本症例の被ばく線量は20mGyであったが,さらなる低減も可能だと思われる。
頸部動脈ステント留置術(CAS)例(症例3)では,既存CTに対して,超高精細CTではCAS内の石灰化や薄いプラークが非常に明瞭に確認できる(図7)。

図5 症例1:右中大脳動脈クリッピング術(53歳,男性)

図5 症例1:右中大脳動脈クリッピング術(53歳,男性)

 

図6 症例2:右内頸動脈狭窄(79歳,男性)

図6 症例2:右内頸動脈狭窄(79歳,男性)

 

図7 症例3:頸部動脈ステント留置術(CAS)(73歳,男性)

図7 症例3:頸部動脈ステント留置術(CAS)(73歳,男性)

 

2.腹部血管
超高精細CTではAiCEを適用することでノイズを抑えつつ,椎体と動脈の間隙を鮮明に確認できる(図8)。また,骨除去も既存CTでは非剛体サブトラクションを用いていたが,超高精細CTではワンクリックで行えることから,超高精細CTによるポストプロセスの変化を実感している。

図8 椎体の動脈描出能の比較

図8 椎体の動脈描出能の比較

 

まとめ

超高精細CTは画像分解能が高く,多くの場面で臨床に寄与している。AiCEにより,thin slice画像のノイズ特性や画像の違和感が改善されているほか,3D画像作成の簡略化が可能で,撮影時間の短縮や撮影手技の簡略化にも大いに役立っている。また,ポストプロセスの精度向上による検査の合理化は,患者にとっても優しい検査につながると考えている。

* AiCEはノイズフィルタの設計段階でAIを用いた画像再構成です。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

Aquilion Precision
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000

 

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