小児CTの被ばく低減:激動の10年を振り返って 
前田恵理子(東大病院22世紀医療センターコンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座)
Session 1

2021-12-24


前田恵理子(東大病院22世紀医療センターコンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座)

本講演では,小児心臓CTを中心にCTの被ばく低減の近代史を振り返った上で,小児CTに関する最新のグローバルスタンダートを紹介し,今後われわれがめざすべき方向性を示したい。

■線量低減と画質向上の“近代史”

この20年のCTの歴史を振り返ると,大きく2つの時代に分けられる。前半の10年は,シングルヘリカルから320列までの多列化,面検出器化,逐次近似再構成法の開発・臨床応用と,多彩なCT技術が花開いた楽しい時代であった。その後,2011年の東日本大震災を機に,国内外で放射線被ばくに対する目が厳しくなり,CTも低被ばく・高画質が前提となる時代を迎えた。それに適応できない技術は淘汰され,現在ではその前提をクリアしたCTのみがしっかりと根を張り,なかでもキヤノンメディカルシステムズのAquilionシリーズは着実に葉を広げている。
この技術革新において特に恩恵が大きかったのが小児心臓CTの領域である。乳幼児は心臓全体が5cm程度と小さく,心拍数は150bpm程度と非常に激しく拍動している。小児心臓CTは,そのような心臓の1〜2mmの欠損孔や血管を正確に評価する必要があり,空間分解能や時間分解能などCT性能の限界を試すような検査になる。2015年くらいまでは,カテーテル検査やIVRに匹敵する20mSv程度の高線量を要する検査だったが,技術革新に伴って1mSv以下の線量で臨床的に十分な画質を得られるようになった。小児心臓CTに関する論文も急増し,2021年8月現在,PubMedを検索すると1995件にも上り,その多くは2015年以降に報告されている。このうち被ばくに関する論文は約200件あるが,PubMedで検索し得た範囲では,われわれが2017年に報告した論文1)がいまだに最低線量レベルとなっている。この論文は,第2世代の「Aquilion ONE」を用いてAEC設定を5mmあたりSD 40という低線量で小児心臓CTを撮影し,Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)とForward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)の画質を比較したもので,実効線量0.37mSvという低線量でも臨床評価に堪える画質を得られることを示した。

■国際的な線量低減の動向

演者が所属するアジア心臓血管放射線学会(ASCI)の先天性心疾患ワーキンググループによる,東アジア,東南アジア8か国の小児心臓CTの実効線量についての報告2)では,体重20kg以下の小児では1.7mSv程度の十分に低い線量での撮影が実施できているとの結果となった。これには,研究を主導した韓国は国内に大きな病院が数か所しかないため,その病院の線量が下がれば国全体の線量が下がり,また東南アジア各国は,2015年以降にハイエンドCTが導入されるようになってから小児心臓CTをスタートしたため,最初からハイエンド装置,低線量プロトコールが導入されたという事情がある。こうして低線量の小児心臓CTがアジアに一気に普及した。
一方,Image Gently(小児の被ばく低減を推進する国際的キャンペーン)の資料によると,日本をはじめ以前からCTが普及していた国々では,ハイエンドCTへの置き換えが進みつつあるものの,旧態依然としたプロトコールの設定が残っている現状がある。Image Gentlyによる米国を中心とした現状報告3)では,0歳児で0.2〜9.6mSv,1〜10歳児で0.4〜10.3mSvと,非常に幅のある線量が用いられていることがわかる。日本にも同様の傾向があり,小児心臓CTの適応拡大の前提には,あくまでも技術革新に即した線量低減が欠かせないことを強調したい。

■小児被ばくに関する最新のグローバルスタンダード

小児CTに関する最新のグローバルスタンダードとして,3つ紹介する。

1.ICRP Publication 1474)
2021年2月に出版された小児CTに関するICRP Publication 147のポイントを簡単に説明する。1点目は,100mSv以下の診断領域の低線量被ばくに関して,以前のICRP勧告で推奨していた吸収線量(mGy)に代わり,実効線量(mSv)を用いた線量評価の正当性を認めた点である。その背景には,実効線量の方がほかのモダリティや飛行機のフライトなど身近な被ばくと比較でき,リスクベネフィットを比較しやすくなり,患者中心のコミュニケーションに適しているという判断がある。これは大きな変化で,今後は実効線量をベースにしたコミュニケーションが広まっていくと考えられる。
もう1点は,被ばく時年齢と想定される平均余命を考慮した余剰発がんリスクを考慮してCTの適応を検討し,双方向性の患者説明を行うことを推奨している点である。ICRP Publication 147では,アジア人女性が1000mSvの被ばくをした場合,被ばく時年齢が若いほど発がんリスクが高まることが示されており,これを踏まえた上で正当化および最適化の議論を行うべきであるとの勧告がなされた。

2.“双方向性の対話を伴う”リスクコミュニケーション
小児被ばくについては,双方向性の対話を伴うリスクコミュニケーションを行うべきという潮流が非常に高まっている。WHOは2016年に『Communicating Radiation Risks in Paediatric Imaging』という冊子を作成し,国立成育医療研究センターの宮嵜らによって『小児画像診断における放射線被ばくリスクの伝え方』として邦訳されている。小児被ばくに関するリスクの伝え方についてまとめられたもので,子ども自身や保護者とのリスクコミュニケーションの対話の例文集なども紹介された非常に充実した冊子である。英語版・日本語版ともにインターネットで無料公開されているため,小児医療の関係者はぜひご一読いただきたい。
WHOは,この活動に非常に力を入れており,2021年3月に実践ワークショップを開催した。このワークショップには世界96か国から1280名が応募し,参加資格を得た約100名のうち62名が合格してコースを修了している。演者はこのワークショップに東アジアで唯一の合格者として参加した。WHOのMaria del Perez,Image GentlyのDonald Frush,World Federation of Pediatric ImagingのJoanna Kasznia-Brownが講師を務め,3か月間にわたり小児被ばくの伝え方についてさまざまなワークショップが行われた。日本ではこれまで,双方向性のリスクコミュニケーションはあまり重視されてこなかったが,今後は医療従事者と患者・保護者が対話し,被ばくについて納得した上で検査を受けてもらう流れになると思われる。

3.日本の小児CT診断参考レベルの高さ
世界の診断参考レベル(DRLs)を見ると,日本の小児CTのDRLが年齢・体格に対してかなり高いことが認識されるようになった。日本人は,欧米人と比べて同じ年齢でも体格が小さいため,被ばくの数値が同等であっても身体に与える影響が大きいという傾向がある。1は,小児CTのDRLを日本とEUで比べたグラフであるが,いずれの部位,年齢,体格でも日本のDRLはEUよりかなり高いことが示され,看過できない状況であると考える。
この理由としては,日本は被ばくを低減させるCTのハードウエアやソフトウエアの普及が遅れているのではなく,運用面やソフトウエアのアップデーティングに課題があると言わざるを得ない。それを招く最たる背景には,“過剰品質高線量病”とも呼べるような日本人特有の画質への過大なこだわりがあると考える。放射線科医はきれいな画質の画像で読影したいと考える傾向があり,小児放射線の世界には,適応を絞って線量をしっかり入れることを良しとする文化もある。また,小児科医は,CTでは速くきれいな3D画像を得られ,アンギオや透視と比べれば被ばくは多くないからと安易に検査をする傾向がある。一方で,診療放射線技師は,線量をもう少し下げてもよいのではと思ったとしても,医師に「画像が汚い」と言われるのを恐れて,なかなか線量低減に踏み出せないという話も聞く。
線量を下げるために画質を落とすという方法は受け入れ難いことから,この課題を解決する一番の処方せんとなりうるのが人工知能を応用した画像再構成法である“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”であると考える。図2は,当院で「Aquilion ONE / PRISM Edition」を用いて撮影した低線量小児心臓CTを,FBP,FIRST,AiCEで再構成した心室中隔欠損+肺動脈閉鎖の新生児の画像である。AECを5mmあたりSD 40に設定し,実効線量は0.21mSvと低線量で撮影した。FBP(図2 a)は読影には不適であり,FIRST(図2 b)の画像も許容できるかは放射線科医によるだろう。それに対して,AiCE(図2 c)では自然で非常にきれいな画像が得られており,この画像であれば納得する放射線科医も多いのではないかと思われる。このように,AiCEは過剰品質高線量病への有効な処方せんになる可能性があると考える。

図1 小児CTのDRLの日本とEUでの比較

図1 小児CTのDRLの日本とEUでの比較

 

図2 低線量・高画質の一番の処方せん:AiCE

図2 低線量・高画質の一番の処方せん:AiCE

 

■まとめ

CTの近代史の中で,小児CTの過剰被ばくに対しては,国際的にますます厳しい目が向けられている。被ばく時年齢と平均余命を考慮した正当化・最適化,そして,患者との双方向性のリスクコミュニケーションが求められる時代となっている。そのような中で,しっかりと線量を低減しつつ,高画質を得るカギとなるのがキヤノンメディカルシステムズの技術であり,特に期待しているのがAiCEである。
また,ソフト面(使う人間の問題)でわれわれができることも多くある。メーカーが開発した技術をどのように使うかは,放射線科医や診療放射線技師をはじめとしたあらゆる職種に懸かっているため,共により良い運用や良い医療の在り方を考えていければと思う。

* AiCEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Shirota, G., Maeda, E., et al., Pediatr. Radiol., 47(11),1463-1470, 2017.
2)Hui, P.K.T., et al., Pediatr. Radiol., 47(8),899-910, 2017.
3)Rigsby, C.K., et al., Pediatr. Radiol., 48(1),5-20, 2018.
4)ICRP Publication 147: Use of Dose Quantities in Radiological Protection. Ann. ICRP, 50(1), 9-82, 2021.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

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