冠動脈疾患におけるCTのこれから 
真鍋 徳子(自治医科大学総合医学第一講座放射線科)
Session 3

2021-12-24


真鍋 徳子(自治医科大学総合医学第一講座放射線科)

日本循環器学会のガイドラインにおける慢性冠動脈疾患の診断樹では,安定冠動脈疾患患者はまず運動負荷心電図でリスク層別化を行い,次に冠動脈CTを行って,異常が認められた場合に心筋虚血評価を行うことが推奨されている。心筋虚血評価は,2010年のガイドラインでは負荷心筋血流シンチグラフィやPerfusion MRI,負荷心エコーで行うとされていたが,2018年改訂版1)ではCTによる心筋虚血評価が盛り込まれた。2018年の診療報酬改定において,経皮的冠動脈形成術(PCI)の算定要件として機能的虚血評価が必須となったことも背景となっている。
本講演では,はじめに心筋虚血評価におけるCTの有用性を紹介した上で,冠動脈疾患評価におけるCTのこれからを考察する。

■冠動脈疾患の評価におけるCTの有用性

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染防止の観点から,現状では運動負荷試験の施行が難しく,また,日本におけるCTの高い普及率から,次回のガイドラインの改訂では,冠動脈CTが診断樹のより上位にくると予想されている。実際に,2020年に発表された欧州心臓病学会(ESC)のガイドライン2)では,慢性冠動脈疾患に対して冠動脈CT Angiography(CTA)がファーストラインとして推奨されている。また,国際的なマルチセンタースタディである“SPECIFIC study”3)では,冠血流予備量比(FFR)と比較し,冠動脈CT単独よりも負荷CT Perfusion(CTP)と組み合わせた虚血評価において,より高い特異度および正診率を示すことが実証された。今後,冠動脈疾患におけるCTの役割は,さらに加速していくものと思われる。

■CTPによる心筋虚血評価

1.心筋虚血評価のためのCTPプロトコール
図1に,キヤノンメディカルシステムズと共同で作成した320列Area Detector CT(ADCT)「Aquilion ONE」による心筋虚血評価のためのCTPプロトコールを示す。まず薬剤負荷ダイナミックCTPを施行し,次に安静時のCTPを撮影する。造影剤注入開始から固定時間でスキャンが開始するため,撮影者によらない一定したデータを取得できる。また,ダイナミック撮影は低管電圧・低線量でスキャンを行い,安静時にはブーストで一時的に線量を上げて,CTA用の高画質画像を取得している。Aquilion ONEでは,広いカバレッジを生かして左室全体を一度でカバーできるため,左室心筋全体の均一な造影効果を確認することができる。

図1 Aquilion ONEによる心筋虚血評価のためのCTPプロトコール

図1 Aquilion ONEによる心筋虚血評価のためのCTPプロトコール

 

2.“4D Similarity Filter”による画質改善
CTPは,被ばく低減のために低管電圧で撮影されることが多いため,画像のノイズが目立ち,しばしば虚血判定を難しくしている。そのような場合に,ダイナミックデータに特化したノイズ低減技術である4D Similarity Filterを用いることで,画質の改善が可能となる4)
図2は負荷心筋CTPの画像で,従来法(a)では左室の側壁に低造影域があり虚血が疑われるが(),心尖部はノイズが多く判定が困難である()。一方,4D Similarity Filterを適用した画像(図2 b)では,ノイズが低減されて虚血が明瞭化し(),心尖部の4時から6時の部分の虚血が評価しやすくなっている()。

図2 4D Similarity Filterによるダイナミック画像の画質改善4) 70歳代,男性,左回旋枝の慢性完全閉塞(CTO)

図2 4D Similarity Filterによるダイナミック画像の画質改善4)
70歳代,男性,左回旋枝の慢性完全閉塞(CTO)

 

3.15O水PETを基準としたCTによる心筋血流量定量のバリデーション
心筋血流定量は従来,PETで行われ,主に13Nアンモニア,15O水,ルビジウム(82Rb)が用いられる。われわれは,最も定量性に優れる15O水PETを基準として,CTによる心筋血流定量のバリデーションを行った。その結果,相関係数0.95と,非常に高い相関を示した5)

4.CTでみえないものをみる
冠動脈CTでは,心筋表面を走る心外膜動脈は描出できるが,心筋内部を走る微小血管を直接見ることはできない。そのため,微小循環に異常があるものの,心外膜動脈に異常がない症例は,負荷Perfusion検査にて初めて検出可能となる。
CTで描出できない微小循環障害を評価する指標として,負荷時と安静時の血流の比である冠血流予備能(CFR)がある。われわれは,15O水PETを用いた微小循環障害の評価に関する研究を行った6)。冠動脈に狭窄のない症例について,15O水PETで得られたCFRを危険因子の有無で比較したところ,糖尿病や喫煙などの危険因子のある群はない群と比較し,CFRが低下していた。これは,動脈硬化に伴う微小循環障害が原因の一つと言われている。
労作性狭心症疑いの症例を例に挙げると,冠動脈CTで回旋枝に高度狭窄があり,また,石灰化病変により左冠動脈前下行枝や右冠動脈にも狭窄が疑われた症例に対し,ダイナミックCTPを実施した結果,負荷時には回旋枝領域である側壁の心内膜側で造影が低下しているが,安静時にはそのような所見を認めなかった。このように,一般的なCTPの画像は視覚的に評価するが,ノイズが多く,読影には経験が求められる。
一方,医用画像処理ワークステーション「Vitrea」の“Dynamic Myocardial Perfusion”では,データを読み込み,スタートボタンを押すだけで,心筋の抽出・解析や,心内膜と心外膜のトレースなどが自動で高精度に行われる(図3)。本機能には,われわれが開発した心筋血流定量のアルゴリズムが搭載されており,心筋血流の安静時と負荷時の絶対値がセグメントごとに算出される。さらに,左室の3Dデータ上に血流情報がマッピングされるため,冠動脈の支配領域との関係が一目でわかるほか,bull’s eye表示によるカラーマップでも,回旋枝領域の虚血が非常にわかりやすい。

図3 Vitreaで得られる心筋血流解析

図3 Vitreaで得られる心筋血流解析

 

■冠動脈疾患評価のこれから― AIとDual Energy技術によるインパクト

医用画像における人工知能(AI)の応用として,冠動脈CTの画質改善の例を示す(図4)。従来のFBPの画像(図4 a)と比較し,Deep Learning Reconstructionの“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”を適用した画像(図4 b)では,石灰化やステント辺縁の描出が明瞭となり,脂肪や心筋のノイズが大幅に低減している。
CTにおいては今後,AIによる画質向上から一歩踏み込んだ自動解析まで可能になると予想される。2021年6月に英国心臓CT学会誌(JCCT)に発表された,AI診断による多施設共同研究“CLARIFY study”では,AIによる冠動脈の高度狭窄の正診率は99.7%,特異度は99.8%と,エキスパートの読影とほぼ同等の結果が得られると報告された7)。特に,時間のかかるプラークボリュームの計測などにおいて,再現性や定量性の限界を超えたブレイクスルーとなることが期待される。
また,既存のCTとワークステーションには,すでに画像解析にいくつかのAI技術が用いられている。それらにより,冠動脈疾患の診断は単純で画一的なものとなり,一度の検査で冠動脈狭窄の評価はもとより,プラークや心筋の評価も含めたより包括的な検査が可能になると思われる。なかでも,Dual Energy技術を用いて心筋のヨード定量を行うことで,これまでバラツキのあった心筋血流値が安定することが期待される。

図4 Deep Learning Reconstruction(AiCE)による画質改善

図4 Deep Learning Reconstruction(AiCE)による画質改善

 

■まとめ

冠動脈疾患において,CTから得られるさまざまな情報を統合し,患者個々のより詳細なリスク評価が可能となる時代は,すぐそこまで来ている。より客観性の高い定量的なデータを活用できるようになることで,診断精度の向上および新たな研究テーマが広がることが期待される。

*AiCEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版). 日本循環器学会・他 編, 2019.
2)Knuuti, J., et al., Eur. Heart J., 41(3) : 407-477, 2020.
3)Nous, F.M., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 2021(Epub ahead of print).
4)Tsuneta, S., Oyama-Manabe, N., et al., Medicine (Baltimore), 99(26) : e20804, 2020.
5)Kikuchi, Y., Oyama-Manabe, N., et al., Eur. Radiol., 24(7) : 1547-1556, 2014.
6)Tsukamoto, T., et al., Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 33(10) : 1150-1156, 2006.
7)Choi, A.D., et al., J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 2021(Epub ahead of print).

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション
販売名:医用画像処理ワークステーション Vitrea
VWS-001SA
認証番号:224ACBZX00045000

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