3T DLR-MRIが実現する2D Thin Slice Imagingの臨床的有用性〜整形領域における最大活用〜 
柿木 崇秀(京都大学医学部附属病院 放射線診断科)
Session2 MRI

2022-6-24


柿木 崇秀(京都大学医学部附属病院 放射線診断科)

京都大学では,2019年にキヤノンメディカルシステムズの最上位機種である「Vantage Galan 3T / ZGO」を導入し,2020年に「Vantage Centurian」へとアップグレードされた。本講演では,3T Deep Learning Reconstruction(DLR)-MRIであるVantage Centurianがもたらす,整形領域における高分解能な2D thin slice画像・MPR画像の臨床的有用性を中心に報告する。

整形領域における高分解能画像の必要性

1.“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”の概要
キヤノンメディカルシステムズのDLRであるAiCEは,ディープラーニングを用いて低SNRの画像から高SNRの画像を出力する技術である。ノイズの多い入力画像を高品質な教師画像に近づけるための学習をさせたDeep Convolutional Neural Network(DCNN)を構築し,MRI装置に搭載することで,新たに撮像した低SNR画像のノイズが除去され,高SNR画像として出力される。DCNNに高周波成分であるノイズのみを学習させることで,シーケンスに依存しないノイズ除去(デノイズ)を実現している。
AiCEは,高速撮像技術である“SPEEDER”や“Compressed SPEEDER”と併用することで,通常のスライス厚の2D画像を従来より高速に撮像し,AiCEによって画質を改善することが可能になる。また,ある程度の時間をかけて撮像した画像にAiCEを適用することで,さらに画質を向上させ,高分解能かつthin sliceの2D画像を取得することもできる。

2.2D 1mm画像とMPR画像の臨床的有用性
整形領域においては,腱板断裂や軟骨・関節唇損傷など,通常の分解能やスライス厚の画像では検出や診断が難しいことがあるため,高分解能かつthin sliceの2D画像(2D 1mm画像)を撮像できれば理想的である。3D画像でも詳細な観察は可能であるが,損傷パターンや部位を認識しやすくするためにも,2D 1mm画像がより適していると考える。
従来のスライス厚(2D 3mm)の画像と比較した2D 1mm画像の特長として,パーシャルボリューム効果が小さいことや,MPR再構成により多断面からの評価も可能であることが挙げられる。トレードオフの関係にあるSNRの低下や撮像時間の延長も,AiCEと高速撮像技術の併用により改善可能であり,撮像時間については2D 3mm画像を3方向撮像するよりは短時間ですむ場合もある。また, 3D画像と比較した2D 1mm画像の特長としては,高分解能撮像が可能で組織コントラストが良好であることや,モーションアーチファクトの影響を受けにくいことが挙げられる。
図1は,右肩甲下筋腱断裂症例の脂肪抑制プロトン密度強調画像(冠状断像)における,2D 3mm(a)と2D 1mm(b)の比較である。2D 3mm画像では,肩甲下筋腱(SSC)の最頭側に断裂があるように見えるが(a),1スライスのみでしか描出されておらず,パーシャルボリューム効果の影響の可能性もあり,確信が持てない。一方,2D 1mm画像では,複数スライスにわたって肩甲下筋腱の線維方向の断裂が確認できる(b)。上腕二頭筋長頭腱(LHB)の脱臼もなく,軽度高信号はマジックアングル効果によるものと推察される。MPR画像(図2)では,横断像(b)や矢状断像(c)でも肩甲下筋腱の断裂()が明瞭に描出されており,上腕二頭筋長頭腱の脱臼を防ぐ上関節上腕靱帯(b)などの軟部組織も確認できた。2D 1mm画像の所見は関節鏡の所見とも一致していた。

図1 右肩甲下筋腱断裂症例における2D 3mmと2D 1mmの画像比較 (画像ご提供:京都桂病院整形外科・新井隆三先生)

図1 右肩甲下筋腱断裂症例における2D 3mmと2D 1mmの画像比較
(画像ご提供:京都桂病院整形外科・新井隆三先生)

 

図2 図1のデータから作成したMPR画像

図2 図1のデータから作成したMPR画像

 

2D 1mm画像が診療に有用であった症例紹介

症例1は,棘上筋腱・肩甲下筋腱の完全断裂と上腕二頭筋長頭腱脱臼である。2D 1mm画像(図3)では,肩甲下筋腱はほぼ断裂しており(a↓),上腕二頭筋長頭腱の内側への偏位(b)や棘上筋腱の全層断裂(c)も認め,いずれも手術所見と一致していた。上腕二頭筋長頭腱の腫脹も見られるが(a),手術所見では変性であった。
症例2は,上方関節唇損傷である。2D 1mm画像(図4)の冠状断像にて上方関節唇の異常信号を認め(a),MPRの矢状断像では前後方向の関節唇損傷の範囲が明瞭であった(b)。
このほか,股関節における関節唇損傷(anterosuperior portion)および傍関節唇囊胞の症例では,3方向の高分解能画像で病変部を確認し,さらに,MPR画像では関節唇損傷と傍関節唇囊胞の連続性も描出されており,確信を持って診断可能であった。
症例3は,右小指中手指節(MP)関節橈側側副靱帯断裂である。2D 1mm画像(図5)にて橈側側副靱帯に中手骨から連続する異常信号()を認め,損傷・断裂が疑われた。橈側側副靱帯は,properおよびaccessory radial collateral ligamentで構成されるが,矢状断像(b)では両方が損傷していることが明瞭であり,手術では中手骨頭の付着部で断裂していることが確認された。

図3 症例1:棘上筋腱・肩甲下筋腱の完全断裂と上腕二頭筋長頭腱脱臼

図3 症例1:棘上筋腱・肩甲下筋腱の完全断裂と上腕二頭筋長頭腱脱臼

 

図4 症例2:上方関節唇損傷

図4 症例2:上方関節唇損傷

 

図5 症例3:右小指中手指節(MP)関節橈側側副靱帯断裂

図5 症例3:右小指中手指節(MP)関節橈側側副靱帯断裂

 

1.5T DLR-MRIへの展望

演者が非常勤で勤務している大阪府済生会茨木病院では,キヤノンメディカルシステムズの1.5T DLR-MRIである「Vantage Orian」が稼働している。2D thin slice 画像にAiCEを適用することで,3T MRIと遜色のない高画質が得られており,細かい構造物も明瞭に描出可能である。撮像時間が若干延長するものの,3D画像よりも関節唇損傷や軟骨損傷の評価は容易になると思われる。
症例4(図6)は外側半月板中節の断裂である。2D 3mmのT2*強調画像(a)では,1スライスのみのため確信を持って断裂と判断できないが,1.2mmの2D thin slice脂肪抑制プロトン密度強調画像(b)では,MPR再構成により複数スライスにわたって連続する断裂像を確認できる()。横断像では放射状断裂であることが明らかとなった。
このように,3T装置と比較し分解能では不利な1.5T装置でも,AiCEを適用することで病変描出能の飛躍的な改善が期待できる。

図6 症例4:1.5T DLR-MRIによる外側半月板中節の描出

図6 症例4:1.5T DLR-MRIによる外側半月板中節の描出

 

まとめ

整形領域では,高分解能な2D thin slice画像(2D 1mm画像)が有用であり,通常のスライス厚の画像で問題となるパーシャルボリューム効果の影響や,3D画像の分解能の限界およびブラーリングの影響なども改善することができる。また,2D thin slice画像をMPR再構成することで,3D画像と同様に病変を多断面から観察することも可能である。
2D thin slice画像で解剖や損傷パターンを学ぶことで,通常のスライス厚の画像からでも病態を推察することが可能となる。脂肪抑制プロトン密度強調やT2強調の2D thin slice画像があれば,関節疾患の多くの症例は診断できると考える。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
* AiCEは画像再構成処理の設計段階でDeep Learning技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000
類型:Vantage Centurian

販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000

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