医療情報統合ビューア Abierto Cockpitによる病院DX化の促進
─診療情報管理士の負担軽減と医療品質の向上をめざして  
遠藤  晃(北海道大学病院医療情報企画部)
Special Contribution Abierto Cockpitの使用経験

2024-1-10


北海道大学病院

変遷する総合患者情報参照機能

医師の働き方改革は2024年問題と言われている。何々年問題の発端となったのは,2000年問題である。1960年代から80年代にかけて,コンピュータプログラム上では19YY年MM月DD日を19YYMMDDと8桁ではなく,YYMMDDと6桁で組まれることが多かった。当時,ハードウエアは数年で高性能機に置き換わっていた。ソフトウエアも同じくすぐ使われなくなると考え,長年使われる想定をしていなかったことも一つの要因である。当然6桁では日付計算をしているプログラムがエラーを起こすので,物流や運輸,そして医療機器でも誤作動する可能性があるという問題であった。
当時の病院情報システム(以下,HIS)は,事務合理化を一つの目的とし,年々複雑になる医事会計を計算するのに使われてきた。さらに,データの発生源である医師にコンピュータ入力をしてもらうオーダエントリーシステムを入れることにより,人件費削減などの合理化がなされてきた。電子カルテとして,医師もカルテ記事をコンピュータ上に入力し始めたのは,2000年頃からである。
医師のカンファレンスも紙カルテ,X線フィルムから電子カルテ,PACSへと変貌していった。それに対応すべく,北海道大学病院では,2002年に稼働したシステムの仕様書に総合患者情報参照という機能を要求して,カンファレンスに対応する機能の追加を求めた。しかしながら,当時は手探りの中での開発となり,満足いくものではなかった(図1)。
現在の2020年調達のシステムにおいて,総合患者情報参照という機能は,キヤノンメディカルシステムズの「Abierto Cockpit(アビエルト コックピット)」(図2)が担うこととなった。キヤノンメディカルシステムズのWebサイトを見てもらうとわかるが,他院では医師のカンファレンスに用いられることが多い。機能的には1人の患者の複数のデータを見るのに適しているからである。

図1 2002年当時の総合患者情報参照機能

図1 2002年当時の総合患者情報参照機能

 

図2 Abierto Cockpitによる総合患者情報参照機能

図2 Abierto Cockpitによる総合患者情報参照機能

 

電子カルテ化に伴い変化した診療情報管理

紙カルテの時代,患者のカルテを管理する職として診療録管理士がいた。診療録管理士の仕事内容は,電子カルテ化に伴い大幅に変化することとなる。カルテの製本や貸出業務といった図書館における司書のような仕事から,電子カルテに必要な情報がそろっているかを確認する量的監査や質的監査を行う仕事へと変貌を遂げ,名称も診療情報管理士となった(1996年)。その能力は,DPC様式1登録業務(DPC登録),ICDコーディングやがん登録などで発揮されることとなる。そして,本来は書いた医師が確認すべきカルテ内容のチェックを,診療情報管理士にタスク・シフトすることになる。
診療情報管理士の仕事は医師のカンファレンスに似ており,1人の患者の情報を多くの部門システムから得ることが求められる。DPC登録では,電子カルテの記事以外に,紹介状などの文書記録,看護必要度を見るために看護記録などを確認し,がん登録では記事や文書はもちろん,病理結果や放射線読影記録なども見る。Abierto Cockpitでは,医師のカンファレンス向けの機能であっても,上述のような情報はある程度一覧で見ることが可能である。
また,利点も多い。例えば時系列の並びである。HISの部門システムの時系列の並びは,当然その部署の人間が使いやすいように独自の並びになっている。そのため,複数の部門システムを同時に見ると,あるシステムは左が最新,右が古いデータ表示,別のシステムでは右が最新,左が古いなどが存在する(図3)。代表的なものとして,前者はPACSのサムネイル表示,後者は温度板などである。上下もまた同様である。これがAbierto Cockpitに持ってくると,データの時系列表示を一方向にすることができる(図4)。

図3 部門システムごとの時系列表示

図3 部門システムごとの時系列表示

 

図4 Abierto Cockpit上の統一された時系列表示

図4 Abierto Cockpit上の統一された時系列表示

 

簡単な改良による効率アップ

カンファレンスのように患者の病態のみを追う機能では限界がある。例えば,DPC登録でもがん登録でも入院期間に絞って情報を得ることが多いが,最初から一入院のみを表示する機能はない。そこでAbierto Cockpitを改修し,日付を指定できる機能を追加した。入院日と退院日を選択して期間を絞ることで,処理を進めやすくなる。また,日付順のみで表示されていたスキャン文書を,文書種別ごと・日付順にも表示できるようにした。これにより,紹介状など見たい文書を探しやすくなった。

これから望まれる機能

診療情報管理士の仕事としては,入院期間で情報を得ることが多い。日付指定機能を作成したが,やはり一入院を指定できることが望ましい。入院歴から該当の入院を選ぶと,その期間がタイムライン上にデフォルトで現れるようになれば,DPC登録では効率が上がる。
次に,複数の画面にバラバラに登録されているデータを一画面に集約する機能である。DPC登録時に看護情報を取得するが,複数画面に点在しているため,それを集める機能が欲しい。これはほかにも望む理由がある。現在,北海道大学病院は,がんゲノム医療中核拠点病院にも指定されており,診療情報管理士がデータ入力の一翼を担っている。これからは遺伝子情報の取り扱いが増えることが予想されるが,登録する項目がまだ確定していないのが現状である。しかしながら登録作業はしなければならず,入力項目が変わってもその都度必要な情報をAbierto Cockpitで簡便に集められると,項目が変わるたびに戦々恐々とすることがない。
もう一つ望む機能として,ハードコピーの光学文字認識(OCR)がある。Abierto Cockpitは,HISにあるデータを持ってきて並び替えるなどして見せる機能である。しかしながら,HIS画面全体を俯瞰して情報を得ることもある。北海道大学病院の看護記録のシステムは独自開発であるため,計画と記録を一画面で見ることができる。しかし,計画のデータと記録のデータは別管理のため,Abierto Cockpitに持って行くと泣き別れになってしまう。その対策として,必要な画面のハードコピーを取っておき,それをOCRで読み取り,スキャン文書のごとく表示する機能を要望している。これは,各病院で独自に作られているClaris FileMakerであったり,Excelのマクロで作った画面であったりしても,Abierto Cockpit上に簡単にかつどんな画面でも対応可能になると期待できる。

まとめ

今回は,Abierto Cockpitを診療情報管理士の仕事に適用してみた。デフォルトの機能でも使用可能であるが,日付指定など少々の手直しでも飛躍的に効率が上がることも確認できた。さらなる改良項目も見えつつある。
Abierto Cockpit導入ずみの施設では,診療情報管理部門にも声を掛けてはどうであろうか。また,導入を考えている施設があれば,医師のみならず診療情報管理士の方からも声を上げてみてはどうであろうか。
医師からのタスク・シェア,タスク・シフトにより診療情報管理士の仕事量が増えている。この仕事の効率を上げることが急務であり,Abierto Cockpitはその一翼を担うことが期待される。

 

(えんどう あきら)
北海道大学病院 医療情報企画部 部長。
1986年電子工学を卒業。医療機器メーカーへ就職後,88年に大学院へ進学のため退社。大学院生時代に病院医療情報部員として病院情報システムの開発や管理に従事。95年修士修了,98年に博士修了。博士号は京都大学大学院人間・環境学博士。98年より北海道大学病院医療情報部 副部長職を経て,2012年より現職。


(2023年12月号別冊付録「ITvision No.49」)

※記事中にある骨転移など病変の記載は医師の診断に基づきます。装置やソフトウェアが判断するものではありません。
※記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。
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