Deep learningで脳血管と中内耳のディープな部分を映し出す
與儀 彰(琉球大学大学院医学研究科放射線診断治療学講座)
2026-1-23
キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」は,最小スライス厚0.25mm,1792chでのデータ収集が可能なことに加え,Deep Learning Reconstruction(DLR)である「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」の適用によって微細構造を明瞭に描出することが可能である。本講演では,脳動脈CTAと中内耳CTにおけるAquilion PrecisionとAiCEの有用性を報告する。
■高精細CTによる頭部CTAの描出の改善
当院にて,320列Area Detector CT (ADCT)「Aquilion ONE」とAquilion Precisionの両方で頭部CTAを施行した24症例を対象に,物理的評価と視覚的評価を行った。再構成マトリクスは,Aquilion ONEが512×512,Aquilion Precisionは1024×1024とし,「Adaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D)」にて後処理を行った。
1.物理的評価
line profile解析を用いて,両装置における中大脳動脈と前大脳動脈の末梢の描出能を評価した。
中大脳動脈の評価ではアキシャル方向のMIP画像でM 3〜4 にかけてprofile curveを作成。動脈近傍の脳組織に円形ROIを置き,平均値+5SDをベースとし,それ以上のピークを動脈とした。ピークの本数を算出することで,どちらが細かい血管を描出できているかを判断する。前大脳動脈では,サジタル方向のMIP画像を用いてprofile curveを作成した。
結果は,中大脳動脈,前大脳動脈のいずれもAquilion Precision の方がピークの数が多く,末梢をより明瞭に描出できていた。
2.視覚的評価
次に,眼動脈,前脈絡叢動脈,外側線条体動脈,内側線条体動脈,視床穿通動脈を対象に,5-point scaleにて両装置における頭蓋内細動脈の描出能を評価した。その結果,眼動脈,前脈絡叢動脈,外側線条体動脈ではAquilion Precisionの方がスコア値が有意に高く,より描出能に優れていた。一方,内側線条体動脈と視床穿通動脈では有意差を認めなかった。
図1は実際の画像であるが,Aquilion ONEではほぼ視認できない外側線条体動脈(a←)が,Aquilion Precisionでは明瞭に描出されており(b←),スコア5と高い評価が得られた。
図2は髄膜腫症例に対する術前シミュレーション画像で,初回発症時はAquilion ONEで,再発時にはAquilion Precisionで撮影を行った。Aquilion ONEでは下錐体静脈(図2 a→)の描出が不十分であるが,Aquilion Precisionでは末梢が静脈叢に流入する様子がはっきりと視認できる(b◁)。通常,術後には癒着などの影響で描出が低下するが,Aquilion Precisionではむしろ明瞭に描出されており,術中写真との比較でも下錐体静脈の走行が一致していることがわかる(図2 c◀)。Aquilion Precisionの高い空間分解能によって,より精巧な術前シミュレーション画像の作成が可能となった。
図1 Aquilion Precisionによる頭蓋内細動脈の描出の評価
図2 髄膜腫症例に対する術前シミュレーション画像
■AiCEによる頭部CTAの描出の改善
AiCEは,Deep Learningを用いてノイズや信号成分を識別する処理を行い,空間分解能を維持したまま,ノイズを選択的に除去する技術である。AiCEにはいくつかのパラメータがあるが,「AiCE Brain CTA」について検討を行った。
Aquilion Precisionで頭部CTAを施行した31症例を対象に,AIDR 3DとAiCE Brain CTAで画像再構成を行い,物理的評価と視覚的評価を行った。
1.物理的評価
line profile解析を用いて脳動脈境界の鮮鋭度と脳動脈のCNRを評価した。
脳動脈全体の正面像,側面像のシェーマを作成し,1症例ごとに動脈に直交する断面を16か所計測し,profile curveを作成した。profile curveのピーク内は動脈内を表し,ピークの立ち上がりと立ち下がりの傾きからそれぞれの最大値と最小値を求め,その絶対値の最大値を動脈境界の鮮鋭度の指標(abSlope)とした。31症例のabSlopeを比較した結果,AiCE群の方が有意に高値であり,AIDR 3D群よりも脳動脈境界の鮮鋭度が高かった。
次に,動脈の計測箇所近傍にある脳組織に円形ROIを設定し,脳動脈CNRの平均値と標準偏差を求めた。その結果,AiCE群ではノイズが除去されたことで,平均値,標準偏差ともにAIDR 3D群よりも有意に低下したが,profile curveのピークには有意な変化を認めなかった。また,これらの結果から脳動脈CNRを求めたところ,AiCE群の方が有意に高値であり,AiCEでは,動脈をより明瞭に描出できることが示された。
2.視覚的評価
眼動脈,前脈絡叢動脈,外側線条体動脈を対象に,解剖学的セグメントをベースとした5-point scaleにて,2名の放射線科医の合議によって評価した。結果は,眼動脈においてはAIDR 3D群とAiCE群はほぼ同等で有意差を認めなかったが,前脈絡叢動脈と外側線条体動脈においてはAiCE群が有意に高値を示し,ノイズ除去によって視覚的にも穿通枝の描出能が改善することが示された。
図3は頭部CTA動脈相の画像であるが,AIDR 3D(a)ではノイズに埋没していた左の前脈絡叢動脈が,AiCEではノイズが除去され視認可能となっている(b→)。
AiCE Brain CTAによってノイズに埋没していた微細動脈をより明瞭に描出可能となったことで,術前シミュレーション画像の精度が向上し,より安全・正確な手術に貢献できることが示唆された。
図3 AiCE Brain CTAにおける微細動脈の描出の評価
■「AiCE INNER EAR」とFBPによる中内耳構造の描出の比較
中内耳用のパラメータであるAiCE INNER EARについては,物理的評価を実施中のため,以下に視覚的評価についてのみ提示する。
Aquilion Precisionで中内耳CTを施行した27症例・30中内耳を対象に,FBPとAiCE INNER EARで再構成を行い,あぶみ骨脚,あぶみ骨筋,あぶみ骨筋腱,鼓索神経,あぶみ骨筋神経を5-point scaleにて評価した。まず,あぶみ骨脚とあぶみ骨筋は明瞭に描出される構造であるため,FBP群とAiCE群の結果に差を認めなかった。一方,あぶみ骨筋腱と鼓索神経は,AiCE群の方が有意に高値であった。あぶみ骨筋神経でもAiCE群の方が高値となる傾向が見られたが,有意差を認めるには至らなかった。
図4は鼓索神経の連続する画像の比較であるが,FBP(a)では左の画像で鼓索神経(→)を視認できないのに対し,AiCE(b)ではすべての画像で描出されており,スコア4と高い評価が得られた。
AiCE INNER EARによってノイズが除去されたことでCNRやSNRが上昇し,中内耳の微細構造の描出が改善した。手術によって損傷しやすい微細構造を明瞭に描出できるようになれば,合併症の頻度を低減できる可能性がある。
図4 AiCE INNER EARにおける中内耳の微細構造(鼓索神経)の描出の評価
■まとめ
Aquilion Precisionの登場によって微細構造の描出が可能になったことで,CT画像のみで構造を認識できるようになった。また,より良好な術前シミュレーション画像を提供することで,より高精細な医療の展開が可能となることが期待される。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見が含まれます。
*本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
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