マルチポジションCT*1(Aquilion Rise)の開発と導入 〜From Medicine to Healthcare〜 
陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断))

2026-1-23


陣崎 雅弘(慶應義塾大学医学部放射線科学教室(診断))

慶應義塾大学とキヤノンメディカルシステムズが共同開発した世界初*2の全身用マルチポジションCT「Aquilion Rise」の第1号機が慶應義塾大学病院に設置され,臨床稼働を開始した。本講演では,Aquilion Rise稼働に至るまでの経緯や臨床応用例,今後の展望について報告する。

■マルチポジションCT開発に至るまでの経緯

マルチディテクタCT(MDCT)の検出器列数の増加に伴い,撮影の高速化や画像の高精細化,撮影範囲の拡大が進み,三次元・四次元画像の診断が普及した。その結果,生命寿命を規定するがんや動脈硬化,感染症などの器質的疾患の評価・診断が可能になった。一方,超高齢社会においては,器質的疾患だけでなく,嚥下,排尿,歩行,姿勢などの機能的疾患を立位で評価する必要性が高くなる。立位撮影可能な画像診断としていくつかの装置があるが,コーンビームCT(CBCT)は低コントラスト分解能が低く,立位MRIは撮像時間が長く体動によってブレやすいなどの理由から,適切な立位の画像診断がなかった。立位CTの構想は昔からあったものの,CTの撮影時間が長かった時代には,現実的ではなかった。64スライスのCTが登場して体幹部を20秒程度で撮影できるようになり,立位撮影が現実味を帯びてきたと判断した。そこで,2012年に立位CTプロジェクトを東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)に提案,2014年に機器開発に着手した。
当初,立位と臥位の撮影が可能な装置を検討したが,まずは立位撮影のみ可能な装置の開発をめざすこととなり,2016年10月に臨床機が完成,2017年に当院に第1号機を導入した。
その後,当院の予防医療センターにも導入し,複数の診療科の症例を対象に研究を行い,5年間で49本の論文を発表した。これらの知見・経験を踏まえ,2020年ごろから臥位に加えて立位,座位での撮影が可能な装置の開発プロジェクトが始動し,2025年4月に世界初のマルチポジションCTとしてAquilion Rise を製品化した。

■マルチポジションCTの性能

Aquilion Riseは,ガントリが90°回転かつ上下動することで,1台で立位,座位,臥位の3ポジションの撮影が行える(図1)。設置面積は通常のCT装置とほぼ同等で,片持ちガントリ機構や患者誘導チルトで広い動線を確保し,速やかなアクセスを可能にする。また,グラフィカルなタッチパネルやカメラ,AIを活用した自動化技術「INSTINX」により効率的なポジショニングやワークフローを実現するほか,赤外線センサーにより患者の転倒を検出,安全面を担保している。
性能評価では,臥位と比較して立位でのNPS,MTFはまったく同等,CT値はほぼ同等であった(図2)。

図1 臥位,立位,座位の3体位が撮影可能な全身用マルチポジションCT

図1 臥位,立位,座位の3体位が撮影可能な全身用マルチポジションCT

 

図2 Aquilion Riseの性能評価

図2 Aquilion Riseの性能評価

 

■立位・座位撮影の臨床応用例

臥位ならびに立位・座位撮影による新たな知見や臨床応用例などを紹介する。

1.肺(側彎症,漏斗胸)
肺は通常,吸気・呼気共に立位で膨張する(中葉を除く)。しかし,立位で呼吸苦を訴える側彎症患者に対し立位撮影を行ったところ,臥位に対して肺体積が約30%減少することが確認された(図3)。側彎症により立位では胸骨-椎骨間が短くなり,肺が圧迫されるためで,手術にて側彎を治療した結果,症状が改善した。
漏斗胸患者でも,立位での呼吸苦が肺静脈圧排によるものであることが判明した例がある。また,漏斗胸は臥位撮影で術前検査を行い,Haller index(胸郭の最長横径/最短縦径)などを基に手術適応を判断するが,立位では大きく計測されることから,立位での数値に基づくようガイドラインの改訂が必要と考えられる。

図3 臥位と立位における肺体積の変化

図3 臥位と立位における肺体積の変化

 

2.循環器系(静脈)

1)上下大静脈
臥位に比べ,立位では上大静脈(SVC)の断面積の変化量は80%減少し,下大静脈(IVC)は横隔膜レベルでは不変だが,下端では37%増加するなど部位によっても異なる1)図4)。しかし,心不全患者では立位でもSVCの減少が見られず,立位SVC断面積と心カテ右心房圧の良好な相関が示された。そのため,侵襲的な右心カテーテル検査が施行できない心不全患者などにおいては,立位撮影が血行動態の指標となり,心不全の重症度判定への応用の可能性が考えられる2)

図4 立位撮影による上下大静脈の評価

図4 立位撮影による上下大静脈の評価

 

2)頭頸部静脈
頭蓋内静脈の径は臥位と座位で変化がない。これは,内径・外径静脈は座位で縮小,椎骨静脈(叢)は座位で増大し,より多くの血流が椎骨静脈(叢)に流入して一定の還流量が維持されているためであることが明らかとなった3)

3)下肢静脈
立位撮影により下肢静脈の弁が確認できる。このため,冠動脈バイパスグラフト手術に用いる下肢静脈グラフトの適正評価への活用が期待される4)図5)。

図5 立位撮影による下肢静脈の評価(図右側は参考文献4)より引用転載)

図5 立位撮影による下肢静脈の評価(図右側は参考文献4)より引用転載)

 

■予防医療や放射線治療への応用

立位・座位撮影は,予防医療や放射線治療への応用も期待される。慶應義塾大学では,立位画像を基に姿勢解析を行うAIソフトウエアを独自に開発した(図6)。体幹の前傾・後傾の程度や,腰椎の前彎および脊椎の側彎の程度が正常範囲内であるかを,被検者自身が数値で把握することが可能となる。
また,重粒子線治療は,施設面積や約50億円という膨大なコストが普及の妨げになっているが,座位照射が実現すればコスト半減が見込まれる。座位照射の術前評価は座位CTが必要になることから,放射線治療にもマルチポジションCTの活用が見込まれる。米国ではすでに座位照射が開始されており,われわれも共同開発に取り組んでいる。

図6 独自開発した姿勢解析ソフトウエアによる姿勢の検討

図6 独自開発した姿勢解析ソフトウエアによる姿勢の検討

 

■まとめ

一般撮影と類似したワークフローで器質的疾患,機能的疾患共に診断可能なAquilion Riseを活用し,健康寿命の延伸に貢献する画像診断学の確立・発展に取り組んでいきたい。

*1 臥位,立位,座位の3体位が撮影可能なCT 装置の総称
*2 2025年4月2日現在。全身を対象としたマルチポジションでの撮影が可能なCT装置として(キヤノン調べ)
**記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見が含まれます。
**本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり,本システムが自己学習することはありません。

●参考文献
1)Jinzaki, M., et al., Invest. Radiol., 55(2): 73-83, 2020.
2)Fukuoka, R., et al., Eur Radiol., 33 : 4073-4081, 2023.
3)Kosugi, K., et al., Sci. Rep., 10(1): 16623, 2020.
4)Nakahara, T., Jinzaki, M., et al., Sci. Rep., 11 : 11602, 2021.

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Rise TSX-402A
認証番号:306ACBZX00036000

 

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