技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2015年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

線量マネージメント“DoseRite”について

廣瀬 聖史(X線営業部)

X線血管撮影装置を用いた手技には,被ばくが必ず発生する。近年では,患者被ばくだけではなく,医療従事者の被ばくについても注目されるようになってきた。Roguinらは,インターベンション術者に発生した頭頸部がんの85%が左側に発生していることを報告している1)。X線血管撮影装置による被ばくは,患者と医療従事者の双方に配慮されなければならない。そこで弊社は,X線循環器診断システム「Infinix Celeve-iシリーズ」に,線量マネージメントコンセプト“DoseRite”を展開している。DoseRiteは,線量(Dose)を適正な状態にする(Rite=Right)という意味を持つ。患者のみならず医療従事者の線量を適正にし,施設管理者にも安心を提供する。
DoseRiteで提供される機能は大きく分けて,(1) 線量をモニター・管理する機能と,(2) 線量を適正化する機能がある。本稿では,これらについて紹介する。

■線量をモニター・管理する機能について

血管内治療の目的は,患者に必要な治療を完遂することであり,その過程で生ずる合併症は最低にする努力が求められる。放射線皮膚障害も血管内治療における合併症の一つであるが,適切な管理に基づき予測可能な合併症と考える。現在,IVR用X線装置の基礎安全および基本性能として求められるJIS Z 4751-2-43:2012では,装置が表示する入射線量は患者照射基準点における積算基準空気カーマおよび基準空気カーマ率であり,それぞれ“皮膚線量”および“皮膚線量率”を示すものであってはならないとされる。患者照射基準点は,アイソセンター構造を持つCアームの多くはアイソセンターから15cm焦点側の点とされており,その点に皮膚面が必ずあるわけではないため,装置で表示される入射線量は患者被ばくと一致するものではない。また,積算基準空気カーマについては,角度を変えて透視・撮影を行ったとしても,単純に患者照射基準点での基準空気カーマを積算しているため,皮膚局所の入射線量を把握できず,患者のどのあたりにどの程度の線量がかかっているのかを把握することは難しい。DoseRiteでは,まず患者の被ばくを可視化することが重要と考え,モニター・管理する機能を提供する。“DoseRite DTS(Dose Tracking System)”では,Cアームおよびカテーテル寝台の幾何学的関係とX線条件を取得し,仮想空間上の患者モデルに照射位置を再現し,局所の入射皮膚線量分布をリアルタイムに表示していく。
図1に,DoseRite DTSの表示画面を示す。最大入射皮膚線量(peak skin dose:PSD)と現在の照射位置での入射皮膚線量(FOV PSD)を数値で表すとともに,患者モデル上で積算される局所の入射皮膚線量をカラーマップとして表示する。DoseRite DTSは,Cアームやカテーテル寝台の幾何学的関係だけではなく,検出器の視野(FOV)やX線絞りの開度にも追従している。そのため,DoseRite DTSのカラー表示を見ながら,危険な線量領域になる前に照射視野サイズや照射位置を変更することや,線量設定の変更など,術者が積極的に線量を適正化する努力と工夫が可能になる。検査終了後には,PSDと複数の画像を外部PCに出力し,保管していただくことができる。

図1 DoseRite DTSの表示画面

図1 DoseRite DTSの表示画面

 

■線量を適正化する機能について

1フレームあたりの線量と画質は密接な関係を持つ。DoseRiteでは,被ばく線量と画質のバランスを保ちつつ,治療を安全な範囲で実施するためのさまざまな線量低減機構を持つ。

1.DoseRite F-Rec/F-Store
透視および撮影画像の高画質化を追究した“PureBrain”コンセプトにより,残像がほとんど発生しないパルス透視を提供している。それに伴い,術中の記録画像として撮影ではなく透視で手技が進められるようになった。透視と撮影では大きく線量が異なり,撮影を回避し透視を記録画像として収集するだけで検査全体の線量が低減できることが示されている2),3)。“DoseRite F-Rec”は,フットスイッチに画像収集機能を割り当て,撮影ペダルを踏むのと同じアクションで,透視を出しながら画像を保存する。また,“DoseRite F-Store”は,通常の透視を行った後,さかのぼって透視画像を収集する。これもフットスイッチに機能を割り当てることができ,必要な場面で術者自身が手を使わずに透視画像を収集できる。透視収集を用いることで,術者の被ばくを低減できることも報告されている4)

2.サブトラクション表示
末梢血管インターベンションにおける低線量化の取り組みとして,透視収集画像あるいはDA撮影画像をサブトラクション表示することでDSAの代用とする。一例を図2に示す。透視とDAは7.5fps,DSAは6fpsで撮影された画像である。その際の入射線量率を記したが,DSAはほかに比べ線量が高く,DSAを行わずに手技が進められるなら,患者被ばくのみならず散乱線による術者被ばくの観点からもメリットはある。

図2 下肢血管におけるサブトラクション表示例

図2 下肢血管におけるサブトラクション表示例

 

3.DoseRite SpotFluoro
X線絞りを活用し,患者の被ばく箇所を減少させることはこれまで多用されてきた。X線絞りが挿入された箇所は,X線が遮断されるため黒く表示され,全体の位置が把握しにくいという指摘があった。また,X線検出領域にまでX線絞りが入ると,システムは線量不足と感知し,X線条件を上げてしまうことがある。これらを解決するために,“DoseRite SpotFluoro”では,設定された関心領域のみにX線が照射され,それ以外の領域には静止画が表示される。その際,関心領域の大きさにかかわらず,X線照射エリア内で最適なX線条件を算出し,X線絞りを用いた時のような線量上昇は起こさない。X線は関心領域内にのみ照射されるため,術者の手指の直接被ばくを低減することができる。
図3に,DoseRite SpotFluoroの表示と術者被ばく低減の様子を示す。肺野ファントムに対し,全面に照射した場合と,DoseRite SpotFluoroの関心領域とX線絞りを同じ大きさに設定した場合の入射線量率と散乱線線量率を測定した。測定条件を図4に,測定の結果を図5に示す。入射線量率では,全面透視とDoseRite SpotFluoroでは大きく変わらず,X線絞りを用いた場合では高くなった。その結果,散乱線の線量率もDoseRite SpotFluoroに比べX線絞りを用いる場合が高くなった。しかし,いずれも全面透視に比べ低くなっているので,術者の被ばく防止の観点ではX線絞りを用いることの有用性はある。DoseRite SpotFluoroでは,患者入射線量を抑えるだけではなく,術者被ばくの低減が可能となる。

図3 DoseRite SpotFluoroの実例

図3 DoseRite SpotFluoroの実例 赤い点線は術者の手指で,本機能により直接線被ばくを抑えられる。

 

図4 肺野ファントムを用いた検証

図4 肺野ファントムを用いた検証

 

図5 肺野ファントムを用いた検証結果

図5 肺野ファントムを用いた検証結果

 

線量低減機構は,適切な線量モニター機能があってはじめて有効に活用していただけるものと考える。そのため,DoseRite DTSにより術者やそのほかの従事者が患者被ばくに気づくことが,効果的な線量低減の第一歩であり,そこからさまざまな線量低減機構を有効に活用していただくことで,患者および医療従事者の被ばくを抑え,施設管理者の安心へとつながる。
詳細はぜひともdoserite.com を参照していただきたい。

*DoseRite,Infinix CeleveおよびPureBrainは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。

●参考文献
1)Roguin, A., et al. : Brain and neck tumors among physicians performing interventional procedures. Am. J. Cardiol., 111・09, 1368〜1372, 2013.
2)長岡秀樹 : Angioの技術進歩と被ばく低減への取り組み―血管撮影装置の進化 ; PureBrainが導く被ばく低減への試み. INNERVISION, 26・5, 56〜59, 2011.
3)松本一真・他 : Angioの臨床的有用性と被ばく低減などの技術進歩 ; 高精細透視画像と透視画像保存機能を用いたPCIの新しいプロトコールの考案と被ばく低減効果について. INNERVISION, 28・5, 63〜66, 2013.
4)Sawdy, J.M., et al. : Use of a Dose-dependent Follow-up Protocol and Mechanisms to Reduce Patients and Staff Radiation Exposure in Congenital and Structural Interventions. Catheteri. Cardiovasc. Interv., 78, 136〜142, 2011.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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