技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

キヤノンメディカルが提供する心臓MRI最新技術

佐野雄一郎(MRI営業部)

心臓MRIは心筋の形態や機能,冠動脈や心筋組織の性状などさまざまな情報を得ることができる。基本的な撮像方法は確立されつつあり,その有用性も数多く報告されている。しかし,その一方で,検査数は年々増加しているものの,検査時間が長い,手技が煩雑であるといった課題が取り上げられることも少なくない。本稿では,それらの課題を解決し,心臓MRIを施行しやすい環境へと導く最新技術について解説する。

‌●撮像時間の短縮

1.k-t SPEEDER
心臓MRIは他部位の検査と比較して検査時間が長く,多くの息止めを必要とするため患者への負担も大きい。“k-t SPEEDER”はシネMRIの高速撮像技術で,1回の息止めで短軸の全スライスを撮像することができ,患者の負担を和らげることができる。
k-t SPEEDERは,時系列を対象としたトレーニングスキャンを必要としないパラレルイメージング法である。従来の手法では,トレーニングスキャンと言われる時系列のマップスキャンを事前に収集し,空間-時間スペクトル方向のコイル感度を推定していたが,倍速率が高くなるほど撮像時間は相対的に長くなる。そのため,倍速率を上げてもトータルの撮像時間はそれほど短くならない。一方,k-t SPEEDERでは,低周波成分は弱い折り返し信号が加わったデータから直接コイル感度を推定し,高周波成分はその低周波成分の情報からコイル感度を推定することでトレーニングスキャンが不要となり,最大8倍の高速倍率を実現している。
k-t SPEEDERの高速倍率を生かして,自由呼吸下におけるシネMRIの撮像も現実的となっている(図1)。心臓MRIを必要とする患者は息止めが難しい高齢者も多いため,より負担が少なく,患者を選ばない検査の実現に期待が持てる。

図1 不整脈症例における自由呼吸下のk-t SPEEDER使用例 (画像ご提供:一般財団法人厚生会 仙台厚生病院様)

図1 不整脈症例における自由呼吸下のk-t SPEEDER使用例
(画像ご提供:一般財団法人厚生会 仙台厚生病院様)

 

‌●確実性の向上

1.SUREECG
心臓MRIでは,ほとんどのシーケンスで心電図同期が必要となる。条件によっては,心電図波形にノイズが混入してミストリガーを生じ撮像時間が延長する場合がある。“SUREECG”は,ノイズが混入した心電図波形からモルフォロジカルマッチングを用いてR波を検出する技術で,ミストリガーが大幅に低減される。1.5Tでは0.42%,3Tでは2.1%(当社調べ:ミストリガーの発生率は,使用システムや使用環境に依存する)までミストリガーの発生率を抑え,撮像時間の延長を防ぐことができる。

2.ForeSee View
小児や成人先天性心疾患患者の検査は,通常の心臓MRIと比較するとプランニングに要する時間や労力がかかる。それは,小児では正中をとらえたセッティングが難しい上に,先天性奇形を持つ場合には解剖学的構造が複雑になるためである。“ForeSee View”は,スキャン前に撮像断面を確認しながらスライス位置決めが可能な技術で,プランニングにかかる時間や労力を軽減することができる。先天性奇形のようにプランニングが難しい場合においても,再撮像が減少し検査時間の延長を防ぐことができる。

‌●操作数の削減

1.CardioLine+
近年の心臓MRIは,右心系の疾患や構造的心疾患(structural heart disease:SHD)への適応も広がっており,それに伴い断面設定も多様化している。“CardioLine+”は,1回の息止めで断面設定をアシストする技術で,左室基本断面はもちろんのこと,右心系やSHDで重要となる弁を合わせて全14断面の自動検出が可能となる。また,術者による依存が少なく,未経験者が検査をしても撮像時間の延長が少ないというメリットを持ち,検査効率の改善に貢献できるアプリケーションである。

●正確な診断を支える定量化技術

心臓MRIの普及に伴って解析処理の重要性も認知されつつあるが,その煩雑さや時間がかかるという点から医師や技師の負担を大きくしかねない。当社独自の医用画像解析処理ワークステーション「Vitrea」には,簡単かつ短時間で解析可能な定量解析アプリケーションを搭載している。

1.T1 mapping/T2 mapping
T1 mappingは心筋組織のT1値を定量的に画像化する手法であり,Society for Cardiovascular Magnetic Resonance(SCMR)からConsensus report1)が報告されるなど,近年注目度が高い技術である。アミロイドーシスやファブリー病などの疾患に対する臨床的有用性も証明されており,Consensus report上でも使用が推奨されている。当社のT1 mappingは,広く用いられているmodified look-locker inversion recovery(MOLLI)法を採用している。
T2 mappingは心筋組織のT2値を定量的に画像化する手法であり,心筋の鉄沈着などの評価に用いられている。イメージングはマルチエコーのfast FE法を用い,血液抑制パルスを併用することによって心筋と心腔の境界が明瞭になり,視認性の高いT2 mapを得ることができる。
解析は,T1/T2 mapping共にVitreaに搭載の“QMass”上で簡単に行うことができる。一般的に線維化が生じるとNative T1値は上昇することが知られているが,QMassを用いた臨床研究で次のような報告がされている。Robbersらは,急性期心筋梗塞において微小循環障害が存在する群(以下,MVO群)とそうでない群でコア領域のNative T1値とT2*値の比較を行い,MVO群でNative T1値は有意に低く,また,T2値もMVO群で有意に低かったという結果を得た。MVO群でNative T1値が低くなった要因として,彼らは心筋内出血の可能性を示唆している2)。T1/T2mappingそれぞれの臨床的有用性は多数報告されているが,2つの定量化技術を組み合わせることで,より正確に梗塞層の性状評価をすることが可能となる。

2.心筋ストレイン解析
心筋ストレインは,心機能を定量的に評価できる指標として注目されている。Vitreaに搭載されている“MR Wall Motion Tracking(以下,WMT)”では従来法で用いていたタギングの撮像を必要とせず,ルーチン検査内で撮像するシネMRIからストレイン解析が可能である。
ストレイン解析は心筋の歪みを定量評価する手法であり,心室短軸の円周方向(図2 )の伸縮であるcircumferential strainと長軸の周方向(図2 )の伸縮であるlongitudinal strainは,左室駆出率よりも心機能低下の予測因子になりうる3),4)と注目されている。心エコーで用いられているspeckle tracking法を適応することで,心筋輪郭の自動抽出も可能となり,簡単かつ短時間で解析を行うことができる。また,心臓の同期不全評価(dyssynchrony imaging:DI)にも対応しており,心筋などの異常によって生じる心室局所の同期ズレを検出することができる。
WMTを用いた臨床研究では,長尾らのglobal longitudinal strain(以下,GLS)およびDIがフォンタン術後における主要心血管イベント(major advanced cardiac event:MACE)の独立した予測因子として有用である5)という報告や,椎名らの大血管転位における右心室のGLSおよびDIがMACEの予測因子として有用である6)といった報告があり,今後もさまざまな心疾患への適応が期待される。

図2 心臓再同期療法前におけるWMTの使用例 同期ズレ(DI)は,各領域のストレインのpeak timeの差を見ることで計測できる。polar mapが赤色になっている部分でpeak timeのズレが生じている。 (画像ご提供:一般財団法人厚生会 仙台厚生病院様)

図2 心臓再同期療法前におけるWMTの使用例
同期ズレ(DI)は,各領域のストレインのpeak timeの差を見ることで計測できる。polar mapが赤色になっている部分でpeak timeのズレが生じている。
(画像ご提供:一般財団法人厚生会 仙台厚生病院様)

 

本稿では,心臓MRIを施行しやすい環境へと導く最新のアプローチ技術について解説した。キヤノンメディカルが提供するこれらの技術が,MRI検査を受ける患者,撮像や解析を行う技師,診断や治療を行う医師それぞれの負担を軽減し,心臓MRIの発展と普及に貢献できれば幸いである。

●参考文献
1)Messroghli, D.R., et al. : Clinical recommendations for cardiovascular magnetic resonance mapping of T1, T2, T2* and extracellular volume ; A consensus statement by the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance (SCMR)endorsed by the European Association for Cardiovascular Imaging(EACVI). J. Cardiovasc. Magn. Reson., 19, 75, 2017.
2)Robbers, L.F.H.J., et al. : The influence of microvascular injury on native T1 and T2*
relaxation values after acute myocardial infarction ; Implications for non-contrast-enhanced infarct assessment. Eur. Radiol., 28・2, 824〜832, 2018.
3)Choi, E.Y., et al. : Prognostic value of myocardial circumferential strain for incident heart failure and cardiovascular events in asymptomatic individuals ; The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. Eur. Heart J., 34, 2354〜2361, 2013.
4)Cimino, S., et. al. : Global and regional longitudinal strain assessed by two-dimensional speckle tracking echocardiography identifies early myocardial dysfunction and transmural extent of myocardial scar in patients with acute ST elevation myocardial infarction and relatively preserved LV function. Eur. Heart J. Cardiovasc. Imaging, 14・8, 805〜811, 2013.
5)Nagao, M., et al. : Global strain and dyssynchrony of the single ventricle predict adverse cardiac events after the Fontan procedure ; Analysis using feature-tracking cine magnetic resonance imaging. J. Cardiol., 73, 163〜170, 2019.
6)Shiina, Y., et al. : Inter- and intra-ventricular dyssynchrony in the systemic right ventricle is a surrogate marker of major cardiac events in mildly symptomatic patients. Heart Vessels,  33・9, 1086〜1093, 2018.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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