技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年8月号

MSK Solution No.2[CT]

最新CT技術を用いた整形領域におけるトータルソリューション

キヤノンメディカルシステムズ株式会社CT営業部アドバンストCTプロモーション担当 岡部 貴浩

CTの最近の進歩としては,20世紀末にマルチスライスCTが開発され,人体の広い範囲を迅速かつ詳細にスキャンすることが可能になり,微細な構造を三次元的に描出することが必要とされる骨軟部領域での役割が拡大してきた。さらに近年,エリアディテクタCT(ADCT)や高精細CT(UHR CT)といった高性能CTの登場により,四肢関節の微細な骨折や小骨片,関節内遊離体,腱や靭帯などの診断においてCTへの期待がこれまで以上に高まっている。装置性能と同時に,画像処理技術や解析アプリケーションの進化もめざましく,不顕性骨折や骨挫傷といった従来MRIがゴールドスタンダードとされている分野においても,CTが注目されている。本稿では,それらの一部について紹介したい。

■UHR CT「Aquilion Precision」

Aquilion Precisionは,17年の期間を経て開発された面内・体軸方向に対してそれぞれ従来CT装置の2倍強の空間分解能を持つCT装置である1)。0.25mm×160列,1792チャンネルの高精細検出器,X線管球の最小焦点サイズ0.4mm×0.5mm,寝台の振動は従来の1/2というスペックを持つ。寝台に関しては,従来のほぼ2倍の±85mm左右移動を行うことが可能となっており,四肢関節を可能な限りFOV中心に整位して安定した撮影を行うことが容易になる。この特長により,骨折線,関節面,粉砕の程度,骨梁の状態など,従来CT装置と比較し,大幅な視認性の向上が確認できる(図1,2)。

図1 高精細CTによる脛骨高原骨折の評価 (画像ご提供:大原綜合病院様)

図1 高精細CTによる脛骨高原骨折の評価
(画像ご提供:大原綜合病院様)

 

図2 高精細CTによる右手第2指腫瘍の評価 (画像ご提供:藤田医科大学病院様)

図2 高精細CTによる右手第2指腫瘍の評価
(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

 

■ADCT「Aquilion ONE」

Aquilion ONEは0.5mm×320列,896チャンネルの検出器を搭載し,16cmを1回転で撮影するボリュームスキャンや,時間軸の情報を付加するダイナミックボリュームスキャンが可能であり,16cm幅に収まる四肢関節の評価に大きな臨床的恩恵をもたらした(図3)。一方,ボリュームスキャン時の照射野を被写体に投影するエリアファインダ機能により,CTによる位置決め撮影が不要になり,一般撮影のようにスピーディな運用が可能であるとともに患者負担を低減する。
また,複合的に動く骨が複数関与している関節撮影を行うためのツールとして,位置合わせ処理を用いて着目したい骨を静止させた状態にしながら,評価対象の骨表面の解剖学的ランドマーク2点間の時相ごとの距離・角度を正確に自動計測できる4D骨関節計測アプリケーションを用意している2)

図3 舟状月状骨(SL)靭帯解離の4D評価 (画像ご提供:半田市立半田病院様)

図3 舟状月状骨(SL)靭帯解離の4D評価
(画像ご提供:半田市立半田病院様)

 

■金属アーチファクト低減処理“SEMAR”(図4)

整形外科領域においては,さまざまな金属製インプラントが使用されるが,X線検出器に届くフォトン数を大幅に減少させ,金属アーチファクトを発生させる。当社が開発したSEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)は,長年の課題とされた金属アーチファクトを低減する機能として,多くの文献で評価されている。
Teixeiraらによると股関節人工骨頭置換術例において,金属周辺の組織(小殿筋腱,中殿筋腱,腸腰筋腱,坐骨神経,内閉鎖筋,膀胱,前立腺/子宮)の視覚評価を行ったところ,SEMAR適用により視認性が30%向上したと報告されている3)。また,Bolstadらによると,整形インプラントとして広く普及している鋼とコバルトクロムに対して,4つの異なるCTベンダー間でSEMARが最も良好な評価だったと報告されている4)

図4 SEMARによるステムルーズニング・フォローアップ評価 (画像ご提供:日産厚生会玉川病院様)

図4 SEMARによるステムルーズニング・フォローアップ評価
(画像ご提供:日産厚生会玉川病院様)

 

■デュアルエナジー撮影による骨挫傷イメージ“Bone Bruise Image”

デュアルエナジー技術は,一度の撮影の中で2種類のエネルギーデータを収集することで,仮想単色X線画像の作成や物質弁別解析を可能とする技術である。3material decomposition法を用い,CT画像からカルシウム成分を抽出し,それをサブトラクションしてカルシウム成分のない画像を得ることで,髄内の血腫の抽出を可能とするBone Bruise Image(BBI)が提唱されている。不顕性骨折や骨挫傷はMRIがゴールドスタンダードとされているが,受傷後すぐにCTで早期診断でき,早期に治療開始できることは臨床上のメリットが大きい。最新の研究によると,四肢・股関節においてMRIまたは他の方法で骨折の最終診断をしたものと比べても,BBIは高い診断精度を有していると報告されている5)。当社CTの中ではフラッグシップマシンや,広く普及している80列CTでも使用可能であり,今後の診断ワークフローの向上や経済的な効果にも期待が高まっている(図5)。

図5 橈骨遠位端骨折(X-P/MPR不顕性)のBBI評価 (画像ご提供:富山労災病院様)

図5 橈骨遠位端骨折(X-P/MPR不顕性)のBBI評価
(画像ご提供:富山労災病院様)

 

■次世代三次元レンダリング技術“Global Illumination”

当社の医用画像処理ワークステーション「Vitrea」は,マルチモダリティ対応した多彩な解析ソフトを有するとともに,3Dプリンタで造形するためのSTL形式のデータ出力にも対応している。今回,従来のレイトレーシングに替わり,より優れた光線,散乱の計算技術であるフォトンマッピングを用いた新しい三次元レンダリング技術Global Illuminationを開発した。単方向だけでなく,反射,さらにその反射など特定の臨界点に達するまで複数の光線をより緻密に計算することで,物体表面の細かな凹凸やざらつきの影響をより忠実に再現可能であり,整形外科領域においても注目されている(図6)。

図6 Global Illuminationによる深指屈筋の腱断裂の描出 (画像ご提供:藤田医科大学病院様)

図6 Global Illuminationによる深指屈筋の腱断裂の描出
(画像ご提供:藤田医科大学病院様)

 

■おわりに

「速く」「広く」「細かく」というCTの基礎性能の進化に加え,画像処理技術や解析アプリケーションの進化により,整形外科領域におけるCTの可能性は広がってきた。今回は,当社のCTソリューションの一部について述べたが,今後も,多くの医療関係者の方々のご支援・ご評価をもとに技術開発を行い,臨床で役立つ機能を提供していきたいと考える。

*Aquilion Precision,Aquilion ONE,SEMARはキヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。

●参考文献
1)Yanagawa, M., et al. : Subjective and objective comparisons of image quality between ultra-high-resolution CT and conventional area detector CT in phantoms and cadaveric human lungs. Eur. Radiol., 28・12, 5060〜5068, 2018.
2)Gondim Teixeira, P.A., et al. : Quantitative Analysis of Subtalar Joint Motion With 4D CT ; Proof of Concept With Cadaveric and Healthy Subject Evaluation. Am. J. Roentgenol., 208・1, 150〜158, 2017.
3)Gondim Teixeira, P.A., et al. : Total hip prosthesis CT with single-energy projection-based metallic artifact reduction ; Impact on the visualization of specific periprosthetic soft tissue structures. Skeletal Radiol., 43・9, 1237〜1246, 2014.
4)Bolstad, K., et al. : Metal artifact reduction in CT, a phantom study ; Subjective and objective evaluation of four commercial metal artifact reduction algorithms when used on three different orthopedic metal implants. Acta Radiologica, 59・9, 1110〜1118, 2018.
5)野水敏行: Bone Bruise Image ; BBIの実力. 映像情報メディカル, 51・8, 48〜53, 2019.

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