技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2020年4月号

腹部領域におけるMRI技術の最新動向

ディープラーニングで変わるbody MRI

竹本 周平[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部]

近年,人工知能(AI)技術の医療への応用が進み,特にディープラーニングを用いた画像再構成“Deep Learning Reconstruction(以下,DLR)”がこれまでの概念を打ち破る技術として注目を集めている。
キヤノンは,いち早くDLR技術の開発に取り組み,“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(以下,AiCE)”として,世界で初めてMRI装置に製品搭載した(図1)。AiCEは,画像ノイズを精度高く除去するため,高分解能画像の取得,撮像時間の短縮化に寄与する。本稿では,DLRのbody MRIへの応用と最新アプリケーションを紹介する。

図1 AIを用いたノイズ除去再構成技術(DLR)

図1 AIを用いたノイズ除去再構成技術(DLR)

 

●Advanced intelligent Clear-IQ Engineの実用化とその効果

AiCEは,当社MRI装置の「Vantage Centurian」「Vantage Galan 3T/Focus Edition」「Vantage Orian」の最新ソフトウエアバージョン(Version6)に搭載している。
パラレルイメージングや圧縮センシングの高速化スキャン時,高分解能スキャン時には,信号雑音比(signal to noise ratio:SNR)を考慮し,撮像条件を最適化するが,AiCEによるノイズ除去再構成ではSNRを改善することができるため,従来よりも短時間・高画質の撮像が可能である。
図2に,AiCEによるノイズ除去効果を示す。SNRを向上させる一般的なスムージングフィルタは,隣接するピクセルやボクセルの値を平均化するため画像がボケてしまう。オリジナル画像との差分を見ると構造物の輪郭情報が観察され,実質の信号が大きく変動していることがわかる。一方,AiCEでは差分画像においてノイズ成分のみが観察され,ノイズのみを除去し,コントラストや信号値は変動させないと言える。
つまり,AiCEを用いればノイズ除去により基本画質が向上し,撮像時間を短縮して検査効率を向上させたり,短縮した時間でさらに撮像を追加して詳細な情報を得たりと,検査の選択肢が増える。

図2 DLR(ノイズ除去技術)の効果

図2 DLR(ノイズ除去技術)の効果

 

Vantage Centurianにおける腹部拡散強調画像(以下,body DWI)の一例を紹介する。傾斜磁場性能が高い本装置ではTEを短縮できるため,高SNRでT2 shine throughの影響が少ないhigh b DWI撮像が可能である(図3)。自然呼吸下で5mm厚のbody DWIを56秒で撮像しているが,AiCEを用いれば目的に応じたパラメータ設定が選択可能である。分解能を優先した場合,スライス厚を5mmから2mmに変更してもSNRが担保できる。一方,撮像時間を優先した場合,加算回数を減らしたスライス厚5mmは37秒で撮像可能である。

図3 Vantage Centurianにおけるbody DWIのAiCE適応例

図3 Vantage Centurianにおけるbody DWIのAiCE適応例

 

図4は1.5T装置Vantage Orianにて撮像した骨盤部のT2強調画像である。圧縮センシング技術“Compressed SPEEDER”の3倍速にAiCEを用いた場合,高いSNRで撮像時間を66%短縮できる。

図4 Vantage Orianにて撮像した骨盤部のT2強調画像のCSとAiCE適応例

図4 Vantage Orianにて撮像した骨盤部のT2強調画像のCSとAiCE適応例

 

●広範囲body DWI×AiCEの可能性 ─ 広範囲body DWIにおけるスキャン時間短縮

軀幹部における広範囲body DWIは,一般的に自然呼吸下で撮像され,加算回数を増やして高いSNRを実現している。推奨条件では,加算回数6回の場合は35cmの撮像範囲に対し3分27秒を要している。全身検査の場合は,3〜5カバレッジに分割して撮像するため,検査時間は5カバレッジの場合は20分程度要することになり患者に負担がかかる。検査時間短縮の課題解決は必至の項目である。当社における初期検討では,AiCEを用いて加算回数を半減した条件でも従来画質に近い画像が得られた。AiCEを用いれば,撮像時間がカバレッジごとに1分44秒まで短縮できるため,全身DWIにかかる時間は5〜9分程度になり,大幅な検査時間短縮につながると考える(図5)。

図5 Vantage OrianにてAiCE併用により撮像時間を半減した例

図5 Vantage OrianにてAiCE併用により撮像時間を半減した例

 

●新機能:軀幹部におけるマルチバンド技術の進化 ─ MultiBand SPEEDER併用DWIの可能性

Vantage Orianにおいて高速撮像法の一手法である“MultiBand SPEEDER(多断面同時励起法:MB)”に,今回新たにIRパルスの併用が可能になった(図6)。選択できる抑制法がfat SAT法のほか,IR法,PASTA法(極性反転型周波数選択式励起法),IR併用PASTA法と選択の自由度が広がり施設ごとにカスタマイズできる。MBのメリットは,理論上TRを「1/MBファクタ」に短縮できることである。従来,60スライス程度を取得する際にTRは8000〜9000msが必要であったが,MBによりTRを5000ms程度に軽減できる。IRパルスを併用したMB-DWIの場合,背景信号のコントロールが難しいことが知られているが,スライス励起方法のカバレッジインターリーブ法を採用し,安定した背景信号の抑制が可能になった。また,IR併用MB-DWIにおいてもAiCEとの併用が可能である(図7)。

図6 MultiBand SPEEDERの概要

図6 MultiBand SPEEDERの概要

 

図7 IR併用MB-DWIにAiCEを使用した例

図7 IR併用MB-DWIにAiCEを使用した例

 

AIを用いたノイズ除去再構成技術AiCEは高速化と高分解能化の両立が可能であり,既存技術はもちろん最新アプリケーションである圧縮センシングやマルチバンド技術などとも組み合わせ可能であり汎用性が高い。当社は今後も撮像技術のさらなる向上をめざし,質の高い医療に貢献すべく技術開発に取り組んでいく。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ株式会社
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon

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