技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2021年5月号

循環器領域における超音波診断装置の技術の到達点

「Aplio i-series」による心疾患へのアプローチ

浜田 聡明[キヤノンメディカルシステムズ(株)国内営業本部超音波営業部営業技術担当]

キヤノンメディカルシステムズは,1966年に超音波市場に参入して以来,臨床に役立つ超音波診断装置を開発し続けている。常に最新の技術で臨床応用の分野を広げてきた「Aplio」に,2016年に販売開始した最上級シリーズの超音波診断装置「Aplio i-series」が加わった。その中でも「Aplio i900」(図1)は,循環器専用もしくは循環器を主とする汎用目的の装置として最上級に位置する。本稿では,Aplio i-seriesに搭載された循環器最新技術による心疾患へのアプローチを紹介する。

図1 Aplio i900に搭載された循環器最新技術による心疾患へのアプローチ

図1 Aplio i900に搭載された循環器最新技術による心疾患へのアプローチ

 

■‌超音波検査の基本となるBモード画質

・ “iBeam Forming”でさらなる高精細Bモード画像を実現
Aplio i-seriesでは,新たに開発された高度な送受信回路技術により,高精細で高フレームレートの画像描出が行える。Bモード画質,フレームレートを大きく向上させる送受信技術iBeam Formingの一つ,“Multi-Sync Pulser”は,プローブの各素子に対して,それぞれ同時に異なる波形を重ね合わせて駆動することで,深さ方向に連続的に絞れたビーム照射を可能とした。また,発生するパルスを理想的な帯域分布とし,tissue harmonic imagingで基本波成分をほぼ完全に消し去りノイズの少ない信号とすることで,深部感度,空間分解能,コントラスト分解能の向上と,アーチファクトやクラッタの低減を実現している。
iBeam Formingの“Multi-Beam Receiver”は,より多くの受信信号を同時に処理することにより,広視野で分解能良く高フレームレートな画像が得られる。さらに,iBeam Formingでは,複数の受信ビームを重ね合わせて鋭いビーム形成を実現する“Multi-Harmonic Compounding”を加えて,今までにない高精細な画像を実現している。

■‌弁膜症へのアプローチ

断層法,ドプラ法を用いた経胸壁心エコー図検査(TTE)は,弁膜症の確定診断,血行動態評価,治療方針の決定に必須の検査法である。評価項目として,弁膜症の機序,逆流・狭窄の定性ならびに定量的評価,心腔の大きさ,心機能,血行動態評価を含んだ総合的な検査を行うことが推奨されている(2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン)。弁膜症などに代表される構造的心疾患(structural heart disease:SHD)に対しては,さまざまな治療法が登場し,さらなる広がりを見せていくものと思われる。Aplio i-seriesに搭載可能なアプリケーション“Smart Fusion”は,SHDの診断,治療方針決定など,ますます重要な働きを担う新たなアプリケーションである。

・Smart Fusion
Smart Fusionは,あらかじめ超音波診断装置に取り込んだCT/MRIのボリュームデータと,リアルタイムの超音波画像を連動表示するアプリケーションである。トランスミッタと磁気センサによりプローブ位置を検出し,CT/MRIのボリュームデータと座標を合わせることで,プローブの動きに合わせてスキャン断面と同じCT/MRIの画像を表示する。超音波画像とCT/MRIの画像を並べた表示(サイドバイサイド表示)や,重ね合わせ表示(ブレンド表示)で評価することができ,CTの優れた空間・位置分解能と,超音波によるリアルタイムな血行動態評価や繰り返し評価という,それぞれの利点を同時に享受できる(図2)。SHDの診断のみならず,術前診断による的確な治療計画にも有用である。また,CT/MRI画像をガイドにすることにより,超音波画像の死角を減らすことにもつながる。

図2 Smart Fusion(CT画像と超音波画像のサイドバイサイド表示)

図2 Smart Fusion(CT画像と超音波画像のサイドバイサイド表示)

 

■心不全へのアプローチ

左室駆出率(ejection fraction:EF)は,心エコーで簡便に求めることが可能で,理解しやすい左室収縮能の指標であるが,心不全を発症する症例の約30%では,実際には,左室EFは正常であると報告されている。2Dスペックルトラッキング法は,EFでは十分に評価できない左室収縮能の評価に有用であり,各領域のストレインカーブを見ることで局所の心筋収縮の低下を客観的に評価することが可能となり,虚血の評価などに有用とされている。

・2D Wall Motion Tracking:簡便で再現性の高いGLSの提供と心筋内の層別解析
Aplio i-seriesの“2D Wall Motion Tracking”では,長軸3断面に対する全自動のROI設定と高速な追跡処理により,ルーチンでglobal longitudinal strain(以下,GLS)と合成polar map(極座標表示)の評価を可能としたのが特長である(図3)。左室のROIに関しては,画質ロバストな輪郭の自動設定を可能とした。また,polar map表示でより簡便に,左室機能の評価結果をセグメントごとに表示し,視覚的・定量的に心機能評価が行える。このため,近年注目されているcardio-oncologyの用途で,長期間でのフォローアップに対する高い再現性を提供しうる。

図3 2D Wall Motion Tracking(合成polar mapとGLS)

図3 2D Wall Motion Tracking(合成polar mapとGLS)

 

■自動化による検査効率の向上

超音波診断におけるさらなる検査効率化,診断能の向上をめざし,計測の自動化を図ってきた。計測の自動化はまず,2D Wall Motion Tracking技術に自動計測を採用した。心内膜に3点プロットすることで,心内膜を高精度に自動トレースし,心筋のストレイン計測を行う。

・Auto EF with GLS:簡便に高精度なEFとGLSを共に高い再現性で提供
応用計測機能の一つとして搭載された“Auto EF”では,米国心エコー図学会(American Society of Echocardiography:ASE)ガイドラインで推奨されているmodified Simpson法による計測をワンボタンで行え,瞬時に結果が表示される。自動トレース解析には,2D Wall Motion Trackingの自動検出技術を採用し,高精度かつ高い再現性を実現し,検査時間の短縮につなげている。心エコー検査におけるストレイン計測は,左室長軸方向の早期の収縮異常を検知すると言われており,多方面での有用性が注目されている。特に算出されるGLSは,これまでのEFと比較して,より左心機能のわずかな変化を検出する方法として,効果的であると認められつつある。心筋ストレインの指標である“Auto EF with GLS”では,EFとともにGLSも同時に算出し,より臨床に役立つ情報を提供する(図4)。

図4 Auto EF with GLSによるEFとGLSの同時出力

図4 Auto EF with GLSによるEFとGLSの同時出力

 

キヤノンメディカルシステムズ社製の最上級超音波診断装置Aplio i-seriesは,高精細・高画質と,計測の自動化Auto EF with GLSをはじめとするさまざまな機能・アプリケーションにより,心疾患にアプローチし,超音波検査の客観性の向上および効率化を実現している。検査の客観性の向上は検者間誤差を最小限にし,検査の効率化は操作者の負担軽減のみならず,患者の負担軽減および満足度向上,ひいては医療機関の診断・経営効率の向上につながることが期待できる。

*Aplioはキヤノンメディカルシステムズ株式会社の商標です。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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