技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2023年9月号

MRI技術開発の最前線

MRIにおけるキヤノンAI技術の最前線

深見 智聡[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部]

近年,さまざまな領域で人工知能(AI)を応用したシステムやサービスが普及しており,医療機器においても,診断支援機能や操作支援機能,画質改善に対してAIの応用が進んでいる。なかでも,ディープラーニングを用いた画像再構成技術「Deep Learning Reconstruction(DLR)」は臨床現場での使用が増えており,一般的な技術として認知されつつある。
キヤノンメディカルシステムズは,いち早くDLR技術の開発に取り組み,「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」として2019年にMRI装置に搭載した。AiCEは高い精度で画像ノイズを除去し,高空間分解能画像の取得や撮像時間短縮に貢献できる(図1)。2023年8月現在,国内で300台以上のAiCE搭載装置が稼働し,臨床現場で広く受け入れられている。2023年に,これまで培ったDLR技術を基にさらなる進化を遂げた超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」搭載装置を販売開始した。本稿では,PIQEを中心に,キヤノンMRIのAI技術について紹介する。

図1 画像に含まれるノイズ成分を推定し,除去することでSNRを向上させるDLR技術AiCE

図1 画像に含まれるノイズ成分を推定し,除去することでSNRを向上させるDLR技術AiCE

 

■PIQEについて

PIQEは再構成処理により空間分解能を向上させる超解像技術である。再構成に用いるネットワーク構築にディープラーニングを使用しており,AiCEで培ったデノイズ技術を組み込むことで,精度の高い超解像化を実現している(図2)。倍率については3倍まで設定可能であり,撮像後の再構成にも対応しているため,検査後にも必要に応じて画質を調整することが可能である。

図2 PIQEを使用した高空間分解能かつ高SNR画像

図2 PIQEを使用した高空間分解能かつ高SNR画像

 

■PIQEの有用性

PIQEは再構成処理で空間分解能を高めるため,撮像時間の延長なく解像度の高い画像を取得できる。さらに,マトリックスサイズを調整して空間分解能を上げた場合と比較して,1ピクセル内の信号量が処理前と変わらないため,コントラストが維持できる点も優れている。
また,撮像時間の短縮にもPIQEは有用である。収集マトリックスサイズを減らした画像にPIQEを使用することで,空間分解能を維持したまま撮像時間を短縮することができる(図3)。撮像時間短縮の代表的な手法であるパラレルイメージング法は,位相エンコードを間引くことで撮像時間を短縮できるが,リダクションファクターを上げていくとSNRは低下してしまう。これに対し,DLRデノイズ技術であるAiCEを併用することでSNRを改善し,高画質な画像の取得が可能になった。しかし,展開処理のエラーやコントラストの維持を考慮すると,リダクションファクターの上げ幅には限界がある。この課題に対して,パラレルイメージングにPIQEを組み合わせることで,従来の限界を超えて撮像時間の短縮が可能になる(図4)。

図3 PIQEを使用した撮像時間短縮画像

図3 PIQEを使用した撮像時間短縮画像

 

図4 PIQEによる肩関節のルーチン検査時間短縮(1.5Tデータ)

図4 PIQEによる肩関節のルーチン検査時間短縮(1.5Tデータ)

 

■キヤノンMRIのAI技術

キヤノンMRIには,デノイズや超解像の再構成技術に加えて,アーチファクト低減や検査スループット向上を目的に,AIを活用したさまざまな機能を搭載している。
DLR技術である「Iterative Motion Correction(IMC)」は,モーションアーチファクトを低減させる技術である。一般的なモーションアーチファクトに対するアプローチの一つとしてラジアルサンプリングがあるが,コントラストの変化や撮像時間の延長という課題が残る。IMCは,カーテシアンサンプリングしたデータに対して再構成処理のみでモーションアーチファクトを低減する手法であるため,ラジアルサンプリングの課題を克服することができる。今回,新たにディープラーニングを使用して再構成ネットワークを構築することで,適用できるコントラストの幅を広げている(図5)。
また,患者ポジショニング時のワークフロー改善機能として,シーリングカメラを紹介する。寝台上部天井に設置したキヤノン製カメラが患者を撮影し,ディープラーニングを用いた画像認識アルゴリズムによって患者の特徴点をとらえ,検査部位の自動認識を行う。これにより投光器を用いた位置合わせが不要になり,非接触で簡便に検査を開始可能になる(図6)。
検査中においては,位置決めアシスト機能である「Auto Scan Assist」を使用することで,スループットを向上できる。全身のさまざまな部位に対応しており,AI技術を用いて位置決め画像から部位を認識し,自動で撮像断面を設定できる。

図5 ディープラーニングを用いて設計したIMC

図5 ディープラーニングを用いて設計したIMC

 

図6 ポジショニング時のワークフロー改善機能 シーリングカメラにより患者の特徴点を認識し,検出した撮像部位をインテリジェントモニタに表示する。

図6 ポジショニング時のワークフロー改善機能
シーリングカメラにより患者の特徴点を認識し,検出した撮像部位をインテリジェントモニタに表示する。

 

今回はディープラーニング技術を応用した最新技術であるPIQEを中心に,キヤノンMRIのAI技術について紹介をした。キヤノンMRIは,検査全体のスループット向上を目的に,検査前から検査後までAI技術を活用できる。キヤノンメディカルシステムズは「Made for Life」の理念の下,医療のさらなる発展に貢献していく。

*本記事中のAI技術については,開発設計段階にAIを使用しており,本システム自体に自己学習機能を有しておりません。

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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