技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2026年3月号

腹部領域におけるUSの最新技術

腹部領域における超音波の血流イメージングの進化

尾高 北斗[キヤノンメディカルシステムズ(株)超音波営業部営業技術担当]

precision medicineの概念が臨床に浸透するにつれ,腹部画像診断においては形態情報のみならず,血流動態や機能的特性を反映する情報の重要性がいっそう高まっている。超音波検査はリアルタイム性,非侵襲性,反復性に比較的優れたモダリティであり,信号処理技術およびハードウエアの進化によって,血流イメージングはさらなる進歩を遂げてきた。本稿では,腹部領域における超音波血流イメージングの進化を「Superb Micro-vascular Imaging(SMI)」「SMI Angio mode」「Contrast Harmonic Imaging(CHI)with iBeam+」,そして「Contrast Vector Imaging(CVI)」という流れで概説し,precision medicine時代における臨床的意義を考察する。

■SMI:非造影下における微小血流の描出

SMIは,従来のカラードプラ法やパワードプラ法では描出が困難であった低流速血流を,高分解能,高感度,高フレームレートに可視化することを目的として開発された血流イメージング技術である。従来法では,血流信号と組織由来のモーションアーチファクトが混在し,特に低流速領域では血流がノイズに埋もれてしまうという課題があった。SMIでは,フレーム間の信号変化特性に基づき,血流成分を保持したまま組織モーションのみを選択的に抑制する独自の信号処理を導入することで,微小血流描出を可能とした(図1)
また,高フレームレート化を実現する送信シーケンスと信号処理により,リアルタイム性を維持したまま安定した血流観察が可能となった。これにより,肝腫瘍,炎症性腸疾患,腎・膵疾患など,腹部領域の多様な病態において,非造影下での血流評価が臨床に定着した。SMIの本質的価値は「低流速血流の高感度描出」にあり,その後の血流イメージング技術の発展における基盤を形成したと言える(図2)

図1 SMIによるフィルタ技術 モーションアーチファクトを除去するアルゴリズムで低流速血流の視認性を向上する。

図1 SMIによるフィルタ技術
モーションアーチファクトを除去するアルゴリズムで低流速血流の視認性を向上する。

 

図2 SMIによるボランティア画像 monochrome SMI(mSMI,左)とcolor-coded SMI(cSMI,右)の2つのモードに切り替えが可能

図2 SMIによるボランティア画像
monochrome SMI(mSMI,左)とcolor-coded SMI(cSMI,右)の2つのモードに切り替えが可能

 

■SMI Angio mode:微小血流の分離描出能の向上

SMIの普及により微小血流の可視化は飛躍的に向上した一方で,微小血管が密集する領域では,隣接する血流信号の重なりにより分離能や視認性に限界があることが明らかとなった。SMI Angio modeは,この課題を克服するために開発された技術であり,血流信号の局所的な位置情報に着目した統計解析をフレーム方向に導入している(図3)
本手法では,フレーム間での信号の一貫性を評価することで,血流信号とノイズ信号を識別し,微小血流同士を分離して描出することが可能となった。さらに,従来よりも長い解析時間を許容するTime Smoothing設定と統計解析を組み合わせることで,微弱な信号に対する感度も向上している。
腹部領域では,腫瘍内血管構築の詳細な観察や炎症性病変における血流増生の評価などに応用されており,良悪性鑑別や病態活動性評価への貢献が期待される。SMI Angio modeは,SMIがもたらした高感度描出という価値を維持しつつ,「血流の分離」という新たな次元を加えた技術と位置づけている(図4)

図3 SMI Angio mode処理効果と時間応答性

図3 SMI Angio mode処理効果と時間応答性

 

図4 膵神経内分泌腫瘍 グレードⅠ (左)通常のSMI,(中央)同腫瘍のSMI Angio modeをcSMIで撮像した画像,(右)同腫瘍のSMI Angio modeをmSMIで撮像した画像 (画像ご提供:飯田市立病院・岡庭信司先生)

図4 膵神経内分泌腫瘍 グレードⅠ
(左)通常のSMI,(中央)同腫瘍のSMI Angio modeをcSMIで撮像した画像,(右)同腫瘍のSMI Angio modeをmSMIで撮像した画像
(画像ご提供:飯田市立病院・岡庭信司先生)

 

■CHI with iBeam+:造影超音波における血流・灌流評価の高度化

造影超音波検査(CEUS)は,マイクロバブル造影剤の非線形振動に由来するハーモニック成分を利用し,血流および灌流動態を高感度に評価する手法である。CHIは,低音圧条件下でバブル信号を選択的に描出することにより,腹部領域,特に肝腫瘍診断において重要な役割を果たしてきた。
近年,送受信ハードウエアおよび信号処理アーキテクチャの進化により,多数の受信ビームを同時に処理・合成する iBeam+を基盤としたCHI with iBeam+が開発された。この技術により,送受信帯域の広帯域化と高いビーム均一性が実現され,距離分解能,方位分解能,コントラスト分解能が大幅に向上した。また,低音圧モードにおいても高画質なモニタリングが可能となり,造影検査中の視認性と操作性が改善されている。
さらに,Full Focusの採用により,浅部から深部まで均一なフォーカス特性が得られ,フォーカス位置の手動調整を必要としない簡便な検査運用が可能となった。これにより,造影超音波検査の再現性と効率性が向上し,ソノグラファー主導の検査やタスクシフトを支える技術的基盤としても重要である(図5)

図5 CHI with iBeam+によるFull Focus画像 (画像ご提供:近畿大学医学部・南 康範先生)

図5 CHI with iBeam+によるFull Focus画像
(画像ご提供:近畿大学医学部・南 康範先生)

 

■CVI:血流動態の定量化と可視化

CVIは,高フレームレートCHI技術により取得された造影超音波のraw dataを用い,マイクロバブルの移動をフレーム間で追跡し,その軌跡をベクトル情報として可視化,定量化する技術である。単なる染影の有無や主観的評価にとどまらず,血流の方向,速度,バラツキといった動態情報を客観的に解析できる点が大きな特長である(図6)
腹部領域,特に肝腫瘍においては,CVIによる腫瘍内血流速度や流入・流出方向の解析が,腫瘍の質的診断や悪性度評価と関連することが報告されている1)〜4)。分化度の低下に伴い血流速度が上昇する傾向や,治療介入後の早期血流変化が治療効果予測に寄与する可能性が示されており,CVIはCEUSに定量性という新たな価値を付加する技術と言える(図7)

図6 CVIのバブルトラッキングとイメージング

図6 CVIのバブルトラッキングとイメージング

 

図7 CVIの多彩なモード切替

図7 CVIの多彩なモード切替

 

腹部領域における超音波血流イメージングは,SMIによる低流速血流描出の革新に始まり,SMI Angio modeによる微小血流分離能の向上,CHI with iBeam+による造影血流評価の高度化を経て,CVIによる血流動態の定量化へと進化してきた。今後,さらなる臨床エビデンスの蓄積とともに,超音波による血流イメージングが腹部画像診断における意思決定を支援する技術として定着することが期待される。

●参考文献
1) 黒田英克, 遊佐健二, 岡本卓也, 他 : Contrast Vector Imagingを用いた肝細胞癌悪性度診断の試み. 超音波医学, 47(Supplement): S310, 2020.
2) 黒田英克, 長澤倫明, 岡本卓也, 他 : 肝細胞癌悪性度診断におけるContrast Vector Imagingの有用性. 超音波医学, 48(Supplement): S251, 2021.
3) 黒田英克, 阿部珠美, 藤原裕大, 他 : 切除不能肝細胞癌に対するAtezolizumab+Bevacizumab療法の治療効果とCVIによる腫瘍血流モニタリング. 超音波医学, 49(Supplement): S184, 2022.
4) Yoo, J., Lee, J.M. : Diagnostic value of high frame rate contrast-enhanced ultrasonography and post-processing contrast vector imaging for evaluation of focal liver lesions : A feasibility study. Ultrasound Med. Biol., 46(9): 2254-2264, 2020.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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