技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)
2026年4月号
腹部領域におけるCTの最新技術
腹部領域におけるマルチポジションCTの可能性
中島 沙記[キヤノンメディカルシステムズ(株)CT営業部営業技術担当]
2012年に,慶應義塾大学の陣崎雅弘教授より,超高齢社会1)で健康寿命を延伸するには,器質的疾患に加えて,日常生活における機能性疾患の評価が重要であり,臥位と立位の両方で撮影可能なCT装置が必要であると提案を受けた。これを契機として,当社では,慶應義塾大学との産学連携を推進し,2017年に立位・座位の2体位が撮影可能な立位・座位CT(TSX-401R)2)〜4),2025年に立位・臥位・座位の3体位で撮影可能なマルチポジションCT「Aquilion Rise」を製品化した。本稿では,Aquilion Riseの概要および腹部領域における可能性を紹介する。
■技術的な特長
1.マルチポジションCT
Aquilion Riseは,ガントリ開口径800mm,7.5MHUのX線管球,0.35秒回転,最小スライス厚0.5mmの80列検出器を有しており,ガントリが90°回転かつ上下移動することで,1台で立位・臥位・座位の3体位での撮影が可能である(図1)。臥位撮影で得られる通常のCT画像診断で培われた知見に加え,立位と座位での撮影も可能となるため,日常生活の大半を過ごす立位および座位で発現するものの,臥位のCT撮影では画像化することができなかった病変をとらえることが期待される。
図1 マルチポジションCT Aquilion Rise
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Rise TSX-402A
認証番号:306ACBZX00036000
製造販売元:キヤノン株式会社
2.効率的なワークフロー
Aquilion Riseでは,患者の入退出を容易にするため,片持ちガントリ機構と患者誘導チルトを採用した(図2)。片持ちガントリ機構は,昇降やチルト動作をするガントリを片側の支柱で保持する構造であり,振動や変形に強い支柱設計により実現した。これにより,高精度なガントリの昇降や広い検査空間,患者動線の確保を可能としている。患者誘導チルトは,立位モードの入退出の際にガントリをチルトさせておくことにより,患者や操作者のアクセス性を向上させ,効率的な出入りとポジショニングを実現する。
立位撮影では,臥位撮影に比べて患者入退出やポジショニングに要する時間が短縮されることが報告されており2),これらAquilion Riseならではの先進技術と組み合わせることにより,さらなる検査スループットの向上と患者負担軽減が実現可能と考える。
図2 片持ちガントリ機構と患者誘導チルトの概要図
3.先進技術の搭載
Aquilion Riseは,X線光学系技術の「PUREViSION Optics」やディープラーニングを用いて設計した画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine - integrated(AiCE-i)」*1,人工知能(AI)を活用した自動化技術「INSTINX」*1など,当社の先進技術も多数搭載している。これらの中でも,特に腹部領域において臨床的な有用性が期待されるAiCE-iは,当社が世界に先駆けて開発したディープラーニングを用いて設計した画像再構成技術である。高精細CT「Aquilion Precision」やエリアディテクターCT「Aquilion ONE」に搭載してきた「AiCE」を,Aquilion Riseにも展開している。
檜垣らの報告では,腹部の低線量CT撮影において,AiCEの適用により,空間分解能を維持しつつ大幅なノイズ低減や画質改善の可能性が示されている5)。また,藤田らの報告では,腕を挙上できない患者に対する腹部CT検査において,AiCEの適用により,ストリークアーチファクトや画像ノイズの低減,画質向上や診断能向上の可能性が示されている6)。これらの報告からも,AiCE-iを併用することにより,Aquilion Riseが提供する新たな臨床価値がさらに向上することが期待される。
4.安全性に配慮した装置設計
Aquilion Riseは,立位や座位での検査中に,患者の転倒やふらつきなどの異常を検出し,安全を確保するための赤外線を用いたエリアセンサーを搭載している。上部と下部に対向配置した赤外線センサーから円筒状に赤外線を出し,撮影中にセンサーが反応すると,スキャナ動作が自動で停止する仕組みになっている(図3)。本機能により,撮影時のワークフローを妨げることなく,患者とガントリとの接触を回避できる。また,立位・座位撮影の際には,カーボン製の患者固定ポールや座位撮影補助具を使用することで患者の動きを抑え,安定した姿勢での撮影が可能となる。
図3 赤外線を用いたエリアセンサーの概要図
■臨床での可能性
腹部領域において立位CT撮影が有効であった代表的な臨床例と,今後Aquilion Riseに期待される臨床価値の可能性を紹介する。なお,本稿で紹介する代表的な臨床例は,立位撮影画像はAquilion Riseまたは立位・座位CT(TSX-401R),臥位撮影画像は「Aquilion ONE / GENESIS Edition」で撮影されたものである。
図4は,日常生活において,立位姿勢での左下腹部不快感と左下腹部痛を訴えていた鼠径ヘルニアの症例である。臥位では指摘困難である膀胱脱が,立位ではヘルニア門が大きく,左鼠径ヘルニアがあり,小腸が脱出している様子が明らかに描出されている*2。図5は,臥位では無症状であるが,立位で違和感を訴えた膀胱脱の症例である。臥位では明らかではない膀胱脱が,立位では明瞭に描出されている*2。図6は,臥位と立位で腹囲と内臓脂肪計測をした結果であるが,立位の方が臥位より腹囲が10%長くなっている*2。Aquilion Riseでは,腹囲計測で推奨されている立位姿勢での腹囲計測や内臓脂肪計測が可能となるため,より正確な状態把握が可能となると考える。
成田らの報告では,恥骨尾骨ラインを基準とし,臥位と立位における膀胱頸部や直腸肛門移行部の位置を評価した結果,臥位より立位の方が男女共に骨盤底が下降し,女性の方が男性より有意に下降することが示されている。加えて,女性の直腸肛門移行部については,加齢とともにその下降量が増大することが報告されている7)。
このように,Aquilion Riseは,立位または座位での撮影が可能なため,今まで臥位撮影ではわかりにくかった鼠径ヘルニアや骨盤臓器脱などの機能性疾患の早期発見ができる可能性があり,患者QOLの向上につながる診断検査が期待できる。腹部領域だけでなく,整形外科や検診,美容形成,粒子線治療など,さまざまな領域での新たな知見や臨床価値の可能性も報告されており,本装置が今後さらなる医療貢献に寄与できるものと考えている。
図4 鼠径ヘルニア
Aquilion Riseにて撮影
(データご提供:慶應義塾大学病院様)
図5 膀胱脱
臥位はAquilion ONE / GENESIS Edition,立位はTSX-401Rにて撮影
(データご提供:慶應義塾大学病院様)
図6 腹囲および内臓脂肪計測結果の比較
臥位はAquilion ONE / GENESIS Edition,立位はTSX-401Rにて撮影
(データご提供:慶應義塾大学病院様)
*1 設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有していない。
*2 臨床コメントは医師の診断結果に基づく。
●参考文献
1)内閣府 : 令和4年版高齢社会白書 : 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況. 2022.
2)Jinzaki, M., et al. : Development of Upright Computed Tomography With Area Detector for Whole-Body Scans : Phantom Study, Efficacy on Workflow, Effect of Gravity on Human Body, and Potential Clinical Impact. Invest. Radiol., 55(2): 73-83, 2020.
3)Jinzaki, M., et al. : Upright multidetector CT with 320-row gantry : A technical innovation providing insights into human anatomy under gravity and potential clinical implications. Br. J. Radiol., 98(1175): 1754-1765, 2025.
4)Schiebler, M.L., et al. : Future Applications of Cardiothoracic CT. Radiology, 315(3): e240085, 2025.
5)Higaki, T., et al. : Improvement of image quality at CT and MRI using deep learning. Jpn. J. Radiol., 37(1): 73-80, 2019.
6)Fujita, N., et al. : Assessing the Effects of Deep Learning Reconstruction on Abdominal CT Without Arm Elevation. Can. Assoc. Radiol. J., 74(4): 688-694, 2023.
7)Narita, K., et al. : Pelvic floor morphology in the standing position using upright computed tomography : Age and sex differences. Int. Urogynecol. J., 31(11): 2387-2393, 2020.
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