技術解説(富士フイルムヘルスケア)

2014年9月号

Step up MRI 2014-MRI技術開発の最前線

日立独自技術によるRF照射不均一の改善

西原 崇(MRIシステム本部 ソフト開発部)

高磁場MRI装置では,RF波の高周波化に伴い,人体内部におけるRF照射分布の不均一が顕著になる。これは,生体内でRF減衰が急峻になることや,位相回転が大きくなるなどの理由により,局所的に照射強度の強い領域と弱い領域が生じるためである。特に,RF波長に比べて撮像対象が大きい腹部などでは,輝度ムラが顕著となる。本稿では,照射不均一の原因について簡単に紹介し,日立が取り組んでいる改善技術について概説する。

■照射不均一の原因

MRIの照射コイルは,直交(quadrature detection:QD)する2方向からRFを照射して回転磁場を発生させる。ここでは現象を単純化して説明するため,ある瞬間の照射の状態を図1に示す。

図1 QD照射によるRF磁場

図1 QD照射によるRF磁場

 

照射不均一の原因として,第1にRFの波長の影響が挙げられる。RFの波長は静磁場強度に反比例するので,3TではRFの干渉する周期が1.5Tの半分の30cm程度になる(図2)。この干渉周期と被検者サイズが同程度になる腹部では,信号低下領域が撮像視野内に含まれるので照射不均一が目立つ。

図2 波長に依存する照射ムラ

図2 波長に依存する照射ムラ

 

第2の原因として,遮蔽磁場の影響が挙げられる。人体にRFが照射されると,シールド効果により人体表面に電流が流れ,照射されたRFと反対向きに回転する遮蔽磁場が発生する(図3 a)。この遮蔽磁場は,縦横それぞれのRFにより生じるので,遮蔽効果はそれらの合計となり,人体の上下の端で遮蔽効果が高い部分と弱い部分が生じる(図3 b)。実際に人体に与えられるRFの照射強度は,RF照射で生じた回転磁場と遮蔽磁場の合計となるので,斜めにRF照射強度の異なる領域が生じる(図3 c)。この遮蔽磁場の影響は,磁場強度が高くなるほど顕著になる。

図3 遮蔽磁場の影響

図3 遮蔽磁場の影響

 

■照射不均一の改善技術(マルチトランスミッション)

MRIでは,一般的に照射効率を向上する目的でQD照射が用いられるが,磁場強度が高くなると,上記のように照射が不均一になる。この照射不均一を改善するため,チャンネル(ch)数を増やして照射の自由度を増加する技術(マルチトランスミッション技術)が必要である。ここでは,さまざまなマルチトランスミッション技術について概説する。

1.2ch-2port システム
2ch照射システムの場合,2系統のパワーアンプで2port(接続点)から給電する(図4 a)。2portの場合,システムはシンプルだが,人体などの負荷があると照射強度や位相が変化し,照射分布の対称性が崩れるため,照射が不均一になった。

2.2ch-4port システム
同じ2chでも4portから給電する場合,2chの出力をそれぞれ2分配して対向した2点から給電できるので(図4 b),負荷による照射分布の対称性の崩れは抑制できる。しかし,2ch照射システムでは,対向するch間の照射強度は変更できないので,照射不均一の改善には限界があった

3.4ch-4port システム
4ch照射システムでは,独立に制御できるchが2から4に増え,自由度が高くなる(図4 c)。それにより,被検者の配置や形状に合わせて照射強度と位相をより最適化することができるので,照射不均一をさらに改善できた1)

図4 照射不均一の改善技術

図4 照射不均一の改善技術

 

■高速な照射分布の計測方法

照射不均一は,被検者の体型,配置,組織構造などにより変化するので,被検者に応じて照射強度と位相を最適化するには,被検者ごとの照射分布(B1 map)の情報が必要である。マルチトランスミッションでは,それぞれのchのB1 mapを得る必要があり,ch数が多くなるほどB1 mapの測定時間が延長する。われわれは,短時間でのB1 mapの測定技術も開発し,4chでも数秒程度の測定時間を実現した2)

■4chマルチトランスミッションの応用例

RFの照射不均一が生じやすい部位として,乳房領域が挙げられる。ここでは,4ch照射システムの3T装置における乳房領域の照射不均一の改善効果を紹介する3)
図5は,健常ボランティアで測定したB1 mapの例である。QD照射の場合(図5 a),乳房領域の照射が不均一(左右差)になっている。一方,全領域を対象に4chの照射強度と位相を最適化した場合(図5 b),乳房領域の左右差および図中(△)の領域の照射不均一が改善している。さらに,乳房領域のみを対象として最適化した場合(図5 c),乳房領域の左右差の改善のみでなく,背中側の照射強度を抑制できた。

図5 B1 map

図5 B1 map

 

以上,日立の取り組んでいる技術のうち,4ch照射システムによる照射不均一の改善技術を紹介した。4ch照射システムでは照射不均一の改善のみでなく,照射パワーの低減の可能性も有しており,日立では装置性能を最大限発揮できるよう機能開発を継続している。今後もハードウエア,ソフトウエア両側面から画質の安定化を図っていく。

●参考文献
1)Kaneko, Y., et al. : Effect of Number of RF Transmit Channels for RF Shimming in Partial Region. ISMRM, 2756, 2013.
2)Ito, K., et al. : Rapid B1 Mapping Method for Multi-Channel RF Transmit Coil Using Phase-Difference. ISMRM, 2598, 2013.
3)Ito, K., et al. : Improved B1 Homogeneity and Reduced Transmit Power with 4-channel Regional RF Shimming for Breast Imaging at 3T. ISMRM, 942, 2014.

 

●問い合わせ先
株式会社日立メディコ
CT・MRマーケティング本部
〒101-0021
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TEL:03-3526-8305
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