技術解説(富士フイルムメディカル)
2026年11月号
FUJIFILM TECH FILE 2026
頭部MRI画像診断におけるAI技術の活用 病変検出から計測・比較観察までのワークフロー支援
大島俊介(富士フイルムメディカル株式会社 ITソリューション事業本部)
富士フイルムは,画像の高画質化,臓器セグメンテーション,病変の検出・計測,レポート作成支援を軸として,画像観察から診断報告に至る読影ワークフローを支援するAI技術を開発している。「SYNAPSE SAI viewer」(以下,SAI viewer)は,2019年の発売以降,胸部領域を中心に機能を拡充し,2022年以降は頭部・腹部領域へ,2024年からはMR領域へと展開してきた。MRI画像診断では,撮像シーケンスごとに病変を検索し,各シーケンスのコントラストを総合的に評価した上で,計測,解剖学的位置の同定,所見作成を行うこともあり,この一連の作業には高い集中力と多くの操作が求められる。本稿では,2026年9月にリリースしたバージョン3.0(v3.0)について,脳動脈瘤検出CADを中心に,検出候補の評価,信号変化の確認,計測,位置同定を支援する機能と,その技術的特長を紹介する。
脳動脈瘤検出CAD
未破裂脳動脈瘤は,破裂すると死亡や重い後遺症につながる一方,予防的治療にも一定のリスクを伴う。このため,病変の有無に加え,大きさ,部位,形状,経時変化などを総合的に評価することが重要である。UCAS Japan(日本未破裂動脈瘤悉皆調査)による5720例,6697瘤の解析では,破裂後の転帰が重篤となりうることに加え,破裂リスクが瘤の大きさ,部位,形状によって異なることが示されている。さらに,5mm未満の小型瘤でも破裂や拡大を来すことから,早期発見と慎重な経過観察が求められる1)。
こうした評価に用いられるMRAは画像枚数が多く,読影者は血管を連続的に追いながら,微小な隆起や形態変化を確認する必要がある。また,血管分岐部や屈曲部,血管が重なる部位には,脳動脈瘤との鑑別が難しい所見も存在する。特に小型病変では,限られた読影時間内に候補を拾い上げ,複数断面やMIP画像で確認する一連の作業が負担となるため,読影者の注意を病変候補へ促し,確認作業を支援する仕組みが求められていた。
2026年9月にリリースされた脳動脈瘤検出CADは,MRA画像から,脳動脈から隆起・突出する長径2mm以上の囊状領域を検出し,候補位置をバウンディングボックスで提示する(図1)。医師の読影と同時に解析結果を参照するコンカレントリーダー型として使用でき,候補の見落とし低減を支援する。検出結果は診断を確定するものではなく,読影者が原画像を確認し,ほかの血管構造や臨床情報と併せて判断するための補助情報として位置付けられる。
263症例を対象に医師12名が参加した読影試験では,CAD使用により,感度は放射線診断専門医で79.3%から89.1%,脳神経外科専門医で77.2%から88.1%,後期研修医で59.7%から76.7%へ向上した。全体では平均約10ポイントの改善が認められたが,本成績は所定の試験条件下で得られたものである2)。
図1 脳動脈瘤検出CADの表示例
スライダーバー上でCADによる検出候補数を確認できる。
AIフォーカスビュー,脳動脈ラベル
MRAで描出される小型脳動脈瘤は,専門医でも臨床的に言及すべき所見か判断に迷うことがある。深層学習による検出でも,漏斗状拡張などの良性所見が偽陽性として提示される場合がある。また,瘤径の計測や真陽性・偽陽性の判定には,病変の形状と周囲血管との位置関係を多断面で確認する必要がある。
そこで,検出候補の評価から手動計測までを一連の操作で支援する「AIフォーカスビュー」をv3.0でSAI viewerに搭載した。CADが提示した候補ごとに,検出箇所を中央に拡大したアキシャル,サジタル,コロナル,MIP画像を,1~2ステップで表示できる。従来のように断面を個別に切り替え,候補位置を探し直す操作を減らし,形状,周囲血管との連続性,最大径を一連の画面で確認できる。これにより,計測への移行や真陽性・偽陽性判定の準備を簡略化し,候補が複数提示された場合も,順に確認しやすい読影環境を提供する。
検出候補の評価後は,病変部位を特定し,所見作成へ移行する。ここでは,MR頭部パッケージに含まれる「脳動脈ラベル」をAIフォーカスビューと連携して利用できる。左右の主要脳動脈を計38区域に分割したラベル結果が画面上にテキストで重ねて表示されるため,画像を観察しながら病変の解剖学的位置と血管区分を確認できる。さらに,結果はスマート定型文の解剖学的位置欄にも自動入力される。富士フイルム社製レポートシステムを利用する施設では,ラベル結果を反映した画像所見をビューアから1クリックで転送でき,候補評価から所見記載までを円滑につなぐことができる(図2)。
図2 AIフォーカスビューの表示例
サムネイルに表示された検出候補をクリックすると,画面に表示する病変を切り替えられる。脳動脈瘤検出CADの候補表示画面右上には脳動脈ラベルの区域結果が表示され,その結果はスマート定型文にも自動入力される。
MR頭部SAIフィルタ
転移性脳腫瘍は,原発巣のがんが脳へ転移することで生じ,重篤な神経障害を来して患者の日常生活に大きな影響を及ぼすことがある。ガンマナイフ治療では,治療対象となる腫瘍の正確な位置同定に加え,小病変,新規病変を含めて漏れなく検出し画像診断報告書に記載する必要がある。
「MR頭部SAIフィルタ」は,FLAIR高信号,T2*低信号,造影T1高信号・低信号など,シーケンスごとの信号特性に基づき,周辺組織と信号値が異なる領域を強調表示する。v3.0の「頭部T1高信号 / 低信号強調フィルタ」は,造影T1強調画像上の周辺組織と比較して高信号 / 低信号の領域を強調表示する機能である。読影支援メニューやAI一括表示から直接起動でき,従来の2点指定VOIによる半自動抽出に加え,設定を変更することでビューアの起動直後から候補領域を確認できる(図3)。
図3 頭部T1高信号/低信号強調フィルタの結果をAIフォーカスビューで表示した例
過去検査と並べて比較するレイアウトを用意することで病変のサイズ変化や新規病変の有無の確認を行いやすくする。脳動脈ラベルと同様に,T1強調画像およびT2強調画像から推論される脳区域ラベルの結果も参照できる。
計測支援
神経放射線領域における脳室拡大の評価には,Evans Indexや脳梁角などの指標が用いられるが,計測断面や計測点の設定によって結果が変動しうる。手作業による断面選択と計測には時間を要し,経時比較や複数の読影者間で評価の一貫性を保つことも課題となる。MR頭部全般の読影支援を目的としたMR頭部パッケージには,非造影T2強調画像のアキシャル断面(AC-PCラインを基準とする断面)からEvans Indexを,コロナル断面(AC-PCラインに直交する断面)から脳梁角を自動計測する機能が含まれる。計測値と計測位置を原画像上に提示することで,利用者が結果の妥当性を確認し,必要に応じて修正できる。自動化の目的は医師の判断を置き換えることではなく,反復操作を減らし,確認可能で再現性の高い評価を支援することである(図4)。
図4 Evans Indexおよび脳梁角の解析結果の表示例
左:Evans Index,右:脳梁角
まとめ
頭部MRI読影では,病変候補の検出だけでなく,その妥当性の確認,計測,解剖学的位置の同定,所見作成までを連続して行う必要がある。SYNAPSE SAI viewerは,脳動脈瘤検出CAD,AIフォーカスビュー,信号値強調フィルタ,自動計測,各種ラベルを同一環境で連携させ,読影者が原画像を中心に判断しながら一連の作業を進められる構成としている。今後も,診断精度を支える情報提示と操作負担の軽減を両立し,効率的かつ再現性の高い読影ワークフローの実現をめざす。
●参考文献
1)UCAS Japan Investigators, Morita, A., Kirino, T., et al. : The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort. N. Engl. J. Med., 366 : 2474-2482, 2012.
2)脳動脈瘤検出プログラム FS-AI697型 承認番号:30800BZX00171000 添付文書
SYNAPSE SAI viewerは以下の医療機器を含む製品の総称です。
SYNAPSE SAI viewer用 画像表示プログラム 販売名:画像診断ワークステーション用プログラム FS-V686型 認証番号:231ABBZX00028000
SYNAPSE SAI viewer用 画像処理プログラム
販売名:画像処理プログラム FS-AI683型
認証番号:231ABBZX00029000
SYNAPSE SAI viewer用 脳動脈瘤検出プログラム販売名:脳動脈瘤検出プログラム FS-AI697型 承認番号:30800BZX00171000
※AI技術のひとつであるディープラーニングを設計に用いた。導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。
