セミナーレポート(富士フイルム)

2019年11月21日(木)〜24日(日)に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された第39回医療情報学連合大会において,富士フイルムメディカル株式会社共催のランチョンセミナー11が行われた。「富士フイルムグループが考える『読影レポートシステム』の未来〜『自然言語処理技術』と『医療画像認識技術』とのシナジー〜」をテーマに,2名の演者が講演した。

2020年3月号

第39回医療情報学連合大会ランチョンセミナー11 富士フイルムグループが考える「読影レポートシステム」の未来 〜「自然言語処理技術」と「医療画像認識技術」とのシナジー〜

富士フイルムの医用画像AI技術「REiLI」

桝本  潤(富士フイルム株式会社R&D統括本部メディカルシステム開発センターIT開発グループ)

桝本  潤(富士フイルム株式会社R&D統括本部メディカルシステム開発センターIT開発グループ)

ある調査レポートによると,米国における2018年の医療AIの市場は13億ドルにも及び,そのうち医用画像診断分野は約2億ドルであり,これが2025年には医用画像診断分野だけで16億ドルへと,年率40%超の急成長を遂げると予想されている1)。今後は各国の法規制もAI 医療機器向けに整備され,急速に市場が発展していくものと考えている。本講演では,こうした状況下における富士フイルムの「AI技術と,AI技術を設計に用いた画像診断機器(以下,AI 製品)の開発」の現状などを中心に報告する。

富士フイルムのAI研究・開発AI技術ブランド「REiLI」

当社は,長年培ってきた高度な画像処理技術やノウハウ,および,それらを支える研究体制を軸に,「SYNAPSE」PACS,3D画像解析システム「SYNAPSE VINCENT」など,先進的なIT製品を多数提供している。われわれは,製品と開発技術の両方を有しているという強みを生かし,画像診断支援や業務フローを改善するAI技術をREiLIのブランド名で展開している。今後は深層学習(deep learning)を武器に,さらなる診療の効率化と質の向上をめざして開発を進めていく。

1.従来の機械学習とdeep learningによる開発の違い
近年,大きく注目されているdeep learning は,AIにおける機械学習の手法の一つである。例えばCT画像から肝臓領域を抽出するアルゴリズムを開発しようとした場合,従来の機械学習では人間が肝臓の特徴を規定し,開発者が一つひとつプログラムを実装してきた。しかし,多数の疾患のある臓器では言葉(式)で表現できない特徴や個別のパターンがきわめて多いため,なかなか性能を上げられないことが課題となっていた。一方,deep learningでは,人間が肝臓領域の良質な正解データを大量に提示することで,コンピュータが自動的に肝臓の特徴を理解し,未知のデータから肝臓領域を推定することが可能となった。
さらに,われわれはdeep learningを用いた研究開発環境として,世界最速のdeep learning学習用スーパーコンピュータ「NVIDIA DGX-2」(エヌビディア社製)を複数台導入し,医用画像に特有の三次元画像を効率的に学習する環境も構築した。

2.次世代画像診断AIプラットフォーム「SYNAPSE SAI viewer」の開発
当社の医療IT開発コンセプトとして,3つの技術アプローチがある。1つ目は臓器セグメンテーションであり,解剖学的構造を認識し,医用画像内の臓器・組織の自動抽出を可能とし,従来は困難であった疾患を伴う症例でも安定した抽出精度を実現すべく開発を進めている。
2つ目はコンピュータ支援診断(CAD)であり,病変の検出・計測はもとより,定量化技術の開発を進めている。3つ目は,開発された臓器抽出やCAD・定量化技術を駆使して,例えば放射線科医に対して読影レポートの作成を支援し,読影ワークフローの効率化を図る。
さらに,これら3つの技術を効率的に性能向上させていくには,日常臨床で利用する過程で発生する学習データ(feedback情報)を患者同意のもと収集し,それを原資として開発できる環境が理想的と考える。そこでわれわれは,読影ビューワを一から再設計し,今後開発するさまざまなAI 技術を最大限活用できる次世代読影支援プラットフォームとしてSYNAPSE SAI viewerを開発した。
SYNAPSE SAI viewerは,AI技術を活用した新しいワークフローの提案,2Dと3Dの融合,読影支援機能強化をコンセプトとしており,さまざまな機能を搭載している。
“臓器セグメンテーション・ラベリング機能”は,臓器の解剖学的構造を可視化し,椎体番号のラベル表示による視認性向上や,骨除去されたCT画像の3D表示による石灰化や血管走行の確認,臓器体積などの定量的・統計的データの解析などが可能である。さらに間接的には,前回画像と今回画像の比較による病変位置の対応づけや,個別臓器・椎体ごとの位置・角度の推定,臓器境界に接する腫瘍の領域認識時など,さまざまな読影支援機能に利用されている(図1)。

図1 臓器セグメンテーション・ラベリング機能

図1 臓器セグメンテーション・ラベリング機能

 

“骨経時サブトラクション機能”は,脊椎の自動認識・位置合わせ技術により,過去検査と現在検査の骨濃度の差分を算出し,濃度差がある部位を色付けする。これにより,骨の経時的変化の見落とし防止に役立つ。また,脊椎番号も自動でラベル付けされるため,レポート作成時の負荷を軽減できる(図2)。

図2 骨経時サブトラクション機能 濃度差がある部位への色付けや脊椎番号のラベル付けが自動で行われる。

図2 骨経時サブトラクション機能 濃度差がある部位への色付けや脊椎番号のラベル付けが自動で行われる。

 

“Virtual Thin Slice機能”は,現在の検査をthick sliceで読影中に,サジタル・コロナル画像を表示して椎体番号の確認をしたい場合や,過去のthick slice画像を現在のthin slice画像に近づけた画質で観察したい場合などに利用することができる。椎骨がつぶれて見えないような場合でも,deep learning であらかじめ正常解剖構造を学習させておくことで,元画像上では見づらい椎間板もVirtualThin Sliceでは視認性が上がり(図3),腫瘍や疾患場所の正確な位置把握や,患者説明などに役立つと考える。

図3 Virtual Thin Slice機能 thick slice(a)では椎骨がつぶれて見えない場合でも,Virtual Thin Slice(b)では椎間板の視認性が上がっている。

図3 Virtual Thin Slice機能 thick slice(a)では椎骨がつぶれて見えない場合でも,Virtual Thin Slice(b)では椎間板の視認性が上がっている。

 

3.SYNAPSE VINCENTにも搭載されるAI技術
SYNAPSE VINCENTにも,AI技術を用いて設計した機能が搭載されたことで,例えば,“肝臓解析”において従来技術では困難であった疾患のある肝臓も抽出することが可能になった(図4 a)。また,患者ごとに大幅に形状が異なる下大静脈も自動抽出が可能になった(図4 b)。ほかにも,病変の境界が不明瞭な多発性囊胞腎の抽出や,サルコペニアにおける筋肉量の測定も行えるようになった。

図4 肝臓・下大静脈抽出

図4 肝臓・下大静脈抽出

 

“MRI膝関節解析”では,3D-MRI画像から大腿骨,脛骨,軟骨,半月板の自動抽出が可能となった。これにより,2D-MRI画像や侵襲的な関節鏡検査による診断が一般的な膝関節診断領域において,軟骨のすり減りや半月板の形状・逸脱などが3Dで容易に可視化でき,より適切な治療計画の立案や患者説明に利用できる(図5)。

図5 MRI膝関節解析

図5 MRI膝関節解析

 

研究開発中のAI技術の紹介

単純CT画像からの“脳梗塞検出CAD”は,CT画像だけでは確認し難い梗塞部位を,MRI画像を参照することにより正確に特定して学習させ,高精度で急性期脳梗塞を自動検出する技術である。医師が判断しづらい微妙な濃淡差や左右構造差,正常構造からの逸脱をAI が検知できる可能性が,医師による3段階目視評価2)にて確認されており,救急時における見落とし防止の支援をめざしている。
“間質性肺疾患の定量化”技術は,これまで困難であったびまん性肺疾患を呈するCT画像に現れる網状影,蜂窩肺,すりガラス陰影といったテクスチャのパターンの識別を,deep learningによって定量評価する技術である。定量化した情報は,病状の進行度や治療効果の把握,類似症例の検索への活用などが期待されている。
また,CT画像で培った臓器セグメンテーションのマルチモダリティ対応として,MRI画像への応用も行っている。MRI撮像ではさまざまな撮像シーケンスがあり,それぞれについて個別にアルゴリズムを開発するのは多大なコストがかかるため,MRI画像を擬似的にCT画像に変換し,その上でセグメンテーションを行い,抽出結果を再度MRI画像に反映するという手法を開発中である。基礎技術はすでに出来上がっており,正常構造であれば,任意のMRI撮像シーケンス画像から擬似的なCT画像を生成可能である。
さらに,特定疾患の読影(初期ターゲットは胸部肺結節読影)における,病変の検出から計測, レポート作成,経過観察といった一連の流れにおいて,さまざまなAI 技術を駆使することにより,可能なかぎりのワークフロー改善を検証中である。今後は,胸部AI技術の開発で習得したノウハウを,他部位へと展開していきたいと考えている。

まとめ

われわれは,今後もREiLI技術に磨きをかけ,マルチモダリティ画像診断,臨床ワークフローの最適化,業務フローの効率化・支援,医療の質の向上など,AI で新たな価値やワークフローの提供をめざしていく。

●参考文献
1)https://www.gminsights.com/industry-analysis/healthcare-artificial-intelligence-market
2)加治正知・他:非専門医による脳卒中早期診断のための画像AI 利用の取り組み. 日本脳神経外科学会第77 回学術総会,2018.

SYNAPSE
販売名:富士画像診断ワークステーション用プログラム FS-V678型
認証番号:227ABBZX00104000
ボリュームアナライザーSYNAPSE VINCENT
販売名:富士画像診断ワークステーション FN-7941型
認証番号:22000BZX00238000
SYNAPSE SAI viewer
販売名:画像診断ワークステーション用プログラムFS-V686型
認証番号:231ABBZX00028000
SYNAPSE SAI viewer用画像処理プログラム
販売名:画像処理プログラム FS-AI683型
認証番号:231ABBZX00029000

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

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