FUJIFILM MEDICAL SEMINAR 2015 Report デジタル画像処理技術がもたらす未来

Cross Talk 未来に向けて キーパーソンとFUJIFILM技術者が語るこれからの技術

「Virtual Gridと一般撮影の未来」

佐々木康夫 氏(岩手県立中央病院副院長)× 技術者:山田雅彦(R&D統括本部画像技術センター)

独自の画像処理技術でグリッドレスの撮影を可能にした「Virtual Grid」は,カセッテDRとの組み合わせによって一般撮影の画質やワークフローを大きく変える。FCR時代から胸部X線撮影の画像処理に取り組んできた佐々木康夫氏にVirtual Gridの効果と一般撮影のこれからについて聞いた。

ポータブル撮影を変革する「Virtual Grid」

佐々木康夫 氏(岩手県立中央病院副院長)

佐々木康夫 氏

佐々木:当初は初期型である「FCR101」を導入し胸部の間質性肺炎のボケマスク処理や差分画像による腫瘤検出能向上に取り組みました。FCRは単にX線フィルムをデジタル化しただけでなく,電子カルテなど医療全体のデジタル化に貢献しました。DRはCRと比べて飛躍的に画質が向上しましたね。
山田:DRでは富士フイルムの独自技術を投入して開発を行い,CRに比べれば画質面では大きく向上しています。正直なところ,富士フイルムはCRで先行した分,DRの立ち上げには少し時間がかかりました。しかし,CRで培ってきた技術の蓄積がありましたので,ハードウエアも含めてすぐにキャッチアップすることができました。
佐々木:CALNEOシリーズは,パネルだけでなく製品としてのバリエーションの豊富さが,医療機関としては導入しやすいと思います。さらに,Virtual Gridによって,ポータブル撮影を中心に現場のワークフローが大きく改善しました。
山田:散乱線を推定し補正するというVirtual Gridの考え方は,CRが生まれた当初から技術者が挑戦し続けてきた夢の技術であり,レントゲンのX線発見直後から100年間使われてきたグリッドを,デジタルで置き換えるという大きな変化をもたらしました。開発の余地はまだありますが,臨床で使える技術として市場に投入できた価値は大きいと思います。
佐々木:実際に使ってみると,コントラストが向上し画像が引き締まった印象です。グリッドレスで高画質撮影を可能にするVirtual Gridは,ポータブル撮影の臨床的価値を高める技術だと感じています。
山田:Virtual Gridは,富士フイルムの持つ高い画像処理技術のアドバンテージを生かし,他社との差別化を図る意味から開発を進めて製品化を実現しました。これからの課題の1つは,散乱線が多く発生する体厚のある被写体をどうやって高画質化していくかです。身体の大きい人は,CTや超音波など他のモダリティでは十分な画像が得られないことがありますが,X線撮影はそこをカバーできるモダリティだと考えています。Virtual Gridではグリッドを使用しないので,散乱線が多くなるほどパネルに到達するノイズが増えます。ノイズ抑制処理は有用だと考えますが限界があり,今後,体厚が大きな場合,低格子比の実グリッドとVirtual Gridを組み合わせる撮影手技も検討したいと考えています。

ポータブル撮影の画像を改善する新たな画像処理

技術者:山田雅彦(R&D統括本部画像技術センター)

技術者:山田雅彦

佐々木:Virtual Gridでは,線量低減も期待できると思うのですが,その点はどうでしょう?
山田:これも被写体の厚さと関係しますが,一次線が多ければグリッドレスで画質も向上し,線量もその分下げられます。Virtual Gridを発売して1年弱ですが,被写体と撮影条件などの組み合わせや撮影方法については,すでに導入いただいている施設の診療放射線技師の方々を中心に,学会や各地の研究会で活発に発表されていて,今後もさらに研究が進んでいくのではと思っています。
佐々木:Virtual Gridは,ポータブル撮影の画質やワークフローを大きく変える技術だと思いますが,次に期待されるのは画像処理によるbone suppression(骨除去)です。というのも,ポータブル撮影では撮影装置の管電圧が低いため骨が強調された画像になります。これまでは,特殊な撮影装置で撮影しエネルギーサブトラクション法を用いて骨除去画像を作成する必要がありました。これがソフト的な画像処理で可能になれば,ポータブル撮影画像がさらに向上することが期待されます。
山田:当社では,CRの時代から,診断目的に応じた陰影処理を行い,1枚の画像の中で自然な強調表現が可能な“マルチ周波数処理”を提供してきました。また,Virtual Gridでも,低電圧撮影でも骨が強調されない画像を提供するようにしています。現在,2015年度中のリリースを目標に,画像処理によって骨除去を可能にする技術の開発に取り組んでいます

デジタルX線の新世代に向けて

佐々木:DRは,画像処理技術や製品のパッケージングも含めて,ほぼ完成形に近づいていると感じます。次のステップとして,ネットワークを利用した地域医療での運用や,さらにその先には現在の単純撮影の概念を超えて,三次元や動画の可能性にも期待したいですね。 
山田:表示モニタなど周辺技術の進歩もあって,X線撮影は撮影室の中から病棟や手術室へ,さらには在宅医療や災害時など活用の場所は広がってきています。DRのさらなる発展のために,コアの画像処理技術を含め,さらに開発を進めていきたいと思います。

(2015年7月11日取材)

*骨低減処理は,2016年2月に発売されたクリニック向け医用画像診断ワークステーション「C@RNACORE V3.1(カルナコア)」にオプションソフト“胸部アドバンス処理”として搭載

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