技術解説(富士フイルム)

2015年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

循環器領域における「SYNAPSE VINCENT」の最新技術

大島 俊介(ITソリューション事業本部事業推進部)

「循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007年度および2008年度合同研究班報告)」によると,単一施設の冠動脈CTによる冠動脈狭窄診断能は,感度89%,特異度96%,陽性的中率64%,陰性的中率99%と報告されている1)。また,Journal of Cardiovascular Computed Tomographyに投稿されたSCCTガイドライン2)によると,冠動脈CTは“非侵襲的に”プラークの有無,構造情報を得ることができ,心筋,心膜,弁などの形態の観察,大動脈,肺の脈管などの機能評価など,冠動脈以外の情報を得ることができると記載されている。このように,循環器領域の主要な研究班や学会のガイドラインに非侵襲検査の有用性が記載されたことにより,冠動脈疾患に対しCT,MRI,SPECTなど断層撮影装置で収集した画像を処理し,診断,治療方針の決定に利用する機会が増加している。
本稿では,富士フイルム社製三次元画像解析ワークステーション「SYNAPSE VINCENT」(以下,VINCENT)に搭載している循環器領域の最新機能を紹介する。

■形態評価

心臓領域やその周辺組織を視覚的に観察する場合,臓器・組織のセグメンテーションが必要になる。セグメンテーションの例として,心臓領域ではその周辺に存在する肋骨・椎体・肺血管の除去,冠動脈領域では周囲の脂肪組織・心筋の除去などが挙げられる。一般的に画像処理ワークステーションに標準搭載している各種編集ツールを利用して,必要な臓器・組織を視認できるように編集をするが,抽出対象と臓器・組織の境界が不明瞭な場合,手動操作によるセグメンテーションでは多大な労力を要する。この問題を解決するため,富士フイルムのデジタルカメラの顔認識技術に利用されている“Image Intelligence”技術を用いた高速・高精度な画像処理アルゴリズム3)をCT,MRIの心臓・冠動脈抽出に用いている。
画像のノイズ成分,狭窄病変における画素値の不連続性などの影響を受けない高精度なセグメンテーションを行えるため,短時間で処理でき,かつユーザー間において画像作成結果の差異を生じない画像を提供できる(図1)。

図1 CT,MR画像から自動で心臓,冠動脈を抽出した画像例

図1 CT,MR画像から自動で心臓,冠動脈を抽出した画像例
a:RCA #1 Subtotal Occlusion。高度狭窄を有する冠動脈CT画像。
b:LAD #6 Stenosis。狭窄を有する冠動脈MR画像。

 

Image Intelligenceでは,また,画像の保存機能も充実させており,3D,アンギオ表示,主要3枝のCPR画像の保存を1クリックで行うマクロ機能を実装した(図2)。マクロ登録時の順序で保存されるため,どのユーザーでも同じ画像種,順番で保存できる。また,SCCT,AHAのガイドラインに準拠した血管名など,おのおのの学会における血管名の分類に沿ったレポートを出力できるようになっている(図3)。

図2 マクロ実行中の画像例

図2 マクロ実行中の画像例

 

図3 レポート出力例

図3 レポート出力例
a:SCCTに準拠したレポート b:AHAに準拠したレポート

 

■TAVIシミュレーション

2013年10月からtranscatheter aortic valve implantation(以下,TAVI)が保険適用になり,施設基準を満たした施設でTAVIが施行されている。TAVI施行前に胸腹部大動脈瘤の有無の確認,大腿血管の計測などの解析結果を大動脈弁へのアプローチ手法の選択材料の一つとして利用する施設が増加している。“血管CPR解析”では,計測箇所(腎動脈下縁,大動脈分岐部など)を自動検出し,それらを1枚の画像として保存,解析結果をレポートとして出力することができる(図4)。

図4 血管CPR解析結果画像例

図4 血管CPR解析結果画像例
a:3D表示+各ポイント計測結果
b:右大腿のストレッチCPR+各ポイント計測結果
c:左大腿のストレッチCPR+各ポイント計測結果
d:レポート出力例

 

大動脈弁までのアプローチ方法の決定後,TAVIのシミュレーションを行う。大動脈弁解析では,径測定の基準断面である3冠尖(左冠尖,右冠尖,無冠
尖)4)を設定しやすいような断面を自動的に推定して表示し,3冠尖設定後にannulus,sinus of Valsalva,ST junctionをユーザーが指定することで,自動的にレポートに転記することができる仕組みを搭載している(図5)。

図5 大動脈弁解析の操作画面(a),およびレポート出力例(b)

図5 大動脈弁解析の操作画面(a),およびレポート出力例(b)

 

■新機能の紹介

以下に,循環器領域における新機能の紹介を行う。

1.冠動脈支配領域算出
心筋の表面を走行する冠動脈は,走行,太さ,長さなど構造には個人差がある。近年では,この冠動脈の構造(左優位,右優位)の解析に注目が集まっており,各血管が支配(栄養)する心筋領域の血行再建術の予後判定や,致命的な心筋梗塞の発生予測に関する発表が増加している5)
VINCENTの“冠動脈解析(CT)”では,冠動脈,左心室抽出後,肝臓における肝切除シミュレーションなどで用いられる領域分割アルゴリズムを用いて,LAD,LCX,RCAの主要3枝が支配している心筋領域を計算し,各領域の体積などを算出することができる(図6)。

図6 主要3枝の灌流領域を計算した画像例

図6 主要3枝の灌流領域を計算した画像例

 

2.Standard Template Library(STL)出力
冠動脈CT検査と冠動脈構造モデルから算出した血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)の測定結果を組み合わせることで,冠動脈CT単独検査と比較して診断精度,診断能を改善するとの報告がある6)
VINCENTの冠動脈解析(CT)では,冠動脈抽出結果をサーフェス表示に変換後,STL形式で出力する機能を実装した。出力したモデルを他社の編集,解析ソフトに読み込み,流体解析などを行うことができるようになっている(図7)。

図7 各血管のサーフェス表示画像例

図7 各血管のサーフェス表示画像例

 

本稿では,循環器領域のアプリケーション,および今後注目される可能性のある機能を紹介した。今後も患者および医療従事者の方々に対して有用な解析結果を提供できるように開発を進めていく。

●参考文献
1)山科 章・他 : 冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. Circul. J., 73, 1019〜1114, 2009.
2)Leipsic, J., et al. : SCCT guidelines for the interpretation and reporting of coronary CT angiography ; A report of the Society of Cardiovascular Computed Tomography Guidelines Committee. J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 8・5, 342〜358, 2014.
3)Kitamura, Y., Yuanzhong, Li, Ito, W. : Automatic coronary extraction by supervised detection and shape matching. 9th IEEE International Symposium on Biomedical Imaging, 2012.
4)Achenbach, S., et al. : SCCT expert consensus document on computed tomography imaging before transcatheter aortic valve implantation(TAVI)/transcatheter aortic valve replacement(TAVR). J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 6・6, 366〜380, 2012.
5)Veltman, C. E., et al. : Prognostic value of coronary vessel dominance in relation to
significant coronary artery disease determined with non-invasive computed tomography
coronary angiography. Eur. Heart J., 33・11, 1367〜1377, 2012.
6)Min, J.K., et al. : Diagnostic accuracy of fractional flow reserve from anatomic CT angiography. JAMA, 308・12, 1237〜1245, 2012.

 

●問い合わせ先
富士フイルムメディカル株式会社
営業本部マーケティング部
〒106-0031
東京都港区西麻布2-26-30
TEL:03-6419-8033
http://fms.fujifilm.co.jp

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