技術解説(富士フイルム)

2016年11月号

FUJIFILM TECH FILE 2016

富士フイルムの進化するイメージソリューション 〜ダイナミック処理(Dynamic Visualization II)〜

はじめに

富士フイルムは,より効率的な撮影業務の実現,およびさらなる診断画質の向上と低被ばくの実現をめざして,新たな画像処理技術の開発に取り組んでいる。本稿では,その中から,診断画質の向上を目的とした「ダイナミック処理(Dynamic Visualization II)」の画像処理技術について紹介する。

ダイナミック処理(Dynamic Visualization II)

X線吸収差の大きな胸腰椎移行部撮影や,ポジショニングの制限が発生しやすい股関節軸位撮影などでは,画像のコントラストと濃度が変化するため,安定して全体を観察することは難しい。
今回,人体を透過した二次元のX線情報から,人工骨などの人体とは関係ない部分を除外し,人体の厚みに関する情報を推測することで,コントラストと濃度を安定化させ,厚さが異なる人体構造全体を安定的に描出するダイナミック処理を開発した。

1.ダイナミック処理の概要

ダイナミック処理は,以下の4つの特長がある。
1)最新の画像認識技術を導入して,可視化すべき人体領域を高精度に認識する。
2)認識した人体領域に基づき,人体構造を強調する。
3)認識した人体領域から人体の厚さ情報を推測し,白とびや黒つぶれしないように制御する。
4)粒状改善処理と組み合わせることで,人体構造の高い視認性と良好な粒状性を兼ね備えた,自然かつ立体感がある強調画像を実現する。
図1に,ダイナミック処理で認識される人体領域の例を示す。ダイナミック処理では以下の図1 aからdに示す領域を認識する。図1 aに照射野絞りの外側の領域を,bに直接X線の領域を,cに人工物の領域を,dに骨の領域を認識した例を示す。この4つを除いた領域が,人体軟部の領域となり,骨領域と軟部領域を合わせた領域が人体の領域となる。

図1 画像認識結果の例

図1 画像認識結果の例

 

次に図2を用いて,人体構造全体を可視化する効果を説明する。図2のように,腰部と肺野を同時に撮影する場合では,人体の厚さが異なるため人体でのX線吸収差が大きくなる。従来の画像処理では,図2 aのように人体構造全体を可視化するために,画像のコントラストを弱めている。従来処理で画像のコントラストを強調すると,図2 bのように白とび黒つぶれが生じる。人体構造のダイナミックレンジを認識しているダイナミック処理では,図2 cのように画像のコントラストを強調しても,撮影した人体構造全体を視認することができる。

図2 全体可視化の効果

図2 全体可視化の効果

 

一般的に,高コントラスト化すると,ノイズ成分のコントラストが上がるため粒状性が悪化する。画像の粒状性を改善する処理として,粒状改善処理がある。図3に粒状改善処理の効果を示す。粒状改善処理は,画像に含まれる複雑な構造パターンの認識と,人体の厚みに応じたノイズ量の推測によりノイズ成分を大幅に抑制する。図3 aに粒状改善処理前の画像を,図3 cに粒状改善処理後の画像をそれぞれ示す。図3 bは,acの差分画像であるが,ランダムなノイズ成分しかなく,人体構造に関する信号が抑制されていないことがわかる。

図3 粒状改善処理の効果

図3 粒状改善処理の効果

 

2.臨床画像への適用例

ダイナミック処理の画像例を図4〜6に示す。図4の股関節軸位において,従来処理では,ポジショニングにより前側の大腿臀部と重なった股関節付近が低濃度となり,コントラストが低下しているが,ダイナミック処理では重なった大腿臀部を透過して股関節の構造まで可視化できている。図5の腰椎側面では,ダイナミック処理によって高いコントラストで強調しても,粒状改善処理の効果によりノイズの影響が少ない画像を実現している。図6の全脊椎側面において,ダイナミック処理では人体構造のダイナミックレンジを認識しているため,
X線吸収差が大きな領域の撮影であっても,首付近の薄い部分,腰付近の厚い部分の両方で椎体構造をよく描出している。

図4 股関節軸位

図4 股関節軸位

 

図5 腰椎側面

図5 腰椎側面

 

図6 全脊椎側面

図6 全脊椎側面

 

まとめ

本稿では,新たな画像処理技術として,ダイナミック処理を紹介した。ダイナミック処理を用いることで,人体構造の高い視認性と良好な粒状性を兼ね備えた,自然かつ立体感がある強調画像を実現できる。病院内の観察環境によらず人体構造の視認性が高くなるため,撮影後の画像確認や診断の効率化に期待が持てる。本稿で紹介した新たな画像処理技術が,X線撮影業務のさらなる効率化と高画質化に貢献することを期待する。

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