技術解説(富士フイルム)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

循環器領域の形態・機能評価に対する画像認識技術(image intelligence)の応用

大島 俊介(ITソリューション事業本部事業推進部3D営業技術グループ)

3D医用画像処理が医療界で運用され始めてから20年近く経過したが,さまざまな規模の病院において院内のイントラネット上でCT,MRIなどの断層撮影装置から発生する三次元デジタル画像を処理し,外科手術前のプランニング,治療方針の決定,患者へのインフォームド・コンセントなどさまざまな場面で利用されることが一般的になった。
当社が,三次元画像解析システムボリュームアナライザー「SYNAPSE VINCENT(VINCENT)」の販売を開始し約9年経過するが,2017年春に開催される国際医用画像総合展では,VINCENT V5という新しいバージョンを展示する。
本稿では,循環器領域についてV5で搭載された,さらなる画像認識技術(image intelligence)の精度向上,またMRIの画像処理について技術紹介を行う。

■低線量,低管電圧撮影に対する冠動脈抽出精度の向上

肝臓解析,肺切除解析など,体幹部領域の解析アプリケーションで利用されてきた脈管走行に基づいた支配領域抽出機能を,VINCENT V4.3から循環器領域の解析アプリケーションである冠動脈解析に搭載している。
左心室心筋に対して,各冠動脈が支配する領域を計算する機能である。この機能は,心筋虚血の有無や経皮的冠動脈インターベンション実施前のリスク領域の推定,慢性閉塞性病変における虚血領域の推定といったmyocardial mass at risk(以下,MMAR)の評価1)で利用されるが,従来実施されている1相の心臓CT画像から解析可能ということもあり,研究,臨床現場などで注目され始めている。
支配領域の計算アルゴリズム上,各冠動脈の支配領域は脈管の走行形状に依存するため,冠動脈抽出結果の正確性が非常に重要となるが,従来のバージョンでは,粒状性の悪い画像,また低被ばく化を目的とした低管電圧撮影で得られた画像では,心筋周囲や冠静脈を誤抽出する例が複数施設から報告されており,適切な支配領域計算の妨げになることがしばしば発生していた。
上記課題を解決すべく,VINCENT V5に搭載している冠動脈抽出エンジンでは,線量低下や低管電圧撮影によるSNRの低い画像に対し,冠動脈以外の誤抽出を防ぐ改良を追加した(図1)。
新バージョンにおける抽出性能の向上は,支配領域計算の精度向上以外にも,各冠動脈のCPR画像,仮想アンギオ画像,ボリュームレンダリング画像作成など,多くの施設で実施されている通常の画像処理の作業時間短縮にも寄与できると考えている。

図1 低管電圧で撮影されたCT画像を異なるバージョンで実施した時の抽出結果例

図1 低管電圧で撮影されたCT画像を異なるバージョンで実施した時の抽出結果例
aはb,cと異なる症例である。
a:管電圧120kv。撮影の画像例。一般的な管電圧で撮影されたデータに対して過抽出は少ない。
b:管電圧100kv。撮影の画像をV4.6で抽出した画像例。冠静脈,心筋などの過抽出が目立つ()。
c:管電圧100kv。撮影の画像をV5で抽出した画像例。冠動脈以外の過抽出が大幅に減少している。

 

■心筋パフュージョン(CT)

CT装置のX線管球の高出力化および管球の回転速度高速化による時間分解能の向上,体軸方向の検出器幅の増加といったハードウエアの性能向上,逐次近似画像再構成法に代表される画像ノイズの低減化や濃度分解能向上などのソフトウエアの技術向上により,CT装置で心臓領域における冠動脈,心筋,心室などの形態情報に加え,薬剤負荷を実施後にダイナミック撮影することで時相ごとの血流情報を得ることができるようになった。これらの画像をVINCENTの“心筋パフュージョン(CT)” “心臓フュージョン”といった循環器領域の解析アプリケーションを利用することにより,虚血領域の観察および前述したMMARとの融合画像の作成を容易に行える(図2)。

図2 心臓フュージョンの解析画像

図2 心臓フュージョンの解析画像
a,bは異なる症例である。
a:各支配領域結果を3D表示に重ね合わせた画像例
b:支配領域結果と心筋パフュージョンで得られた機能画像を融合した画像例

 

■4Dフロー(MRI)

食生活の変化,遺伝的要因などにより発症する高血圧症は,体幹部の大血管などで大動脈瘤,大動脈解離など重大な疾患を引き起こす。近年では,MR画像から血流速度,および血流方向を画像化し,これらの疾患を予測するといった研究も発表されている2)
VINCENT V5で新規解析アプリケーションとして販売する“4Dフロー”では,MRIで3軸(xyz軸)方向ごとの3D cine phase contrast画像を収集し,画素値情報などから流速ベクトル,流線表示など,さまざまな血流情報を画像化(図3)できるようになっている。

図3 4Dフローの解析画像

図3 4Dフローの解析画像
4Dフロー用に撮影されたデータを時間軸方向で再生した流線表示画像例。アプリケーション画面上ではの方向に再生しながら血流の流れ,速度などを観察できる。

 

■Whole heart MRIに対する冠動脈自動抽出精度の向上

腎機能低下,低年齢層患者における被ばく線量を考慮し,形態情報の観察目的で非造影のwhole heart MRIが撮像される。V4.3から“冠動脈解析(MR)”において,高精度な心臓,冠動脈抽出機能を搭載している(図4)。冠動脈解析(MR)では,さまざまな画像パターンにおいて主要な血管を安定して抽出できるような抽出エンジンの開発をめざしている。

図4 冠動脈解析(MR)で主要3血管を抽出した画像例

図4 冠動脈解析(MR)で主要3血管を抽出した画像例
右冠動脈(RCA)の各種CPRを表示している。

 

今後も,放射線科をはじめとしたユーザーの意見を取り入れることにより,操作性・機能の向上に努めたいと考えている。なお,図5はV5から操作性向上を目的としたGUI設計の変更例である。

図5 解析画面例

図5 解析画面例
V5から患者情報や共通操作については上部に集約し,
自然に視線を誘導するようなGUI設計に変更した。

 

●参考文献
1)Sumitsuji, S., et al. : Reproducibility and clinical potential of myocardial mass at risk calculated by a novel software utilizing cardiac computed tomography information. Cardiovasc. Interv. Ther., 31・3, 218〜225, 2016.
2)Bürk, J., et al. : Evaluation of 3D blood flow patterns and wall shear stress in the normal and dilated thoracic aorta using flow-sensitive 4D CMR. J. Cardiovasc. Magn. Reson., 14・1, 84, 2012.

 

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