技術解説(富士フイルム)

2020年6月号

FUJIFILM TECH FILE 2020

表在領域でのワイヤレス超音波診断装置「iViz air」の活用

山本 勝也(富士フイルム株式会社メディカルシステム開発センター)

はじめに

ワイヤレス超音波診断装置「iViz air(アイビズ エアー)」は,富士フイルムがX線画像診断装置開発で蓄積したワイヤレス伝送技術,省電力・小型設計技術と,当社グループ会社の富士フイルムソノサイト社の強みである堅牢設計の知見を融合して新規開発した製品である(図1)。ワイヤレス,高可搬性,高画質という3つの特徴を持ち,「超音波診断装置をポケットに入れて持ち歩く」をコンセプトとして開発を行った。iViz airは,回路基板を内蔵したプローブと表示器(当社提供のスマートフォン)で構成される。コンベックスプローブは2019年12月より販売を開始しており,人工知能(AI)技術を設計時に活用して開発した膀胱尿量自動計測や,直腸観察ガイドなどのアプリケーションを搭載し,在宅医療を中心に患者・医療従事者の負担軽減に貢献している。また,2020年4月より,リニアプローブの販売を開始した。リニアプローブは表在領域で幅広く使われており,頸動脈や甲状腺といった頭頸部のスクリーニング検査だけでなく,麻酔科,整形外科,透析医療や看護の分野にも普及が進んでいる。

図1 ワイヤレス超音波診断装置「iViz air」 左:コンベックスプローブ 右:リニアプローブ

図1 ワイヤレス超音波診断装置「iViz air」
左:コンベックスプローブ 右:リニアプローブ

 

特徴1:ワイヤレス

小型低消費電力の新規IC開発およびプローブ内の熱制御設計により,プローブ内の基板の処理能力を高めている。その結果,プローブ/表示器間のデータ転送量を大幅に削減することが可能になり,リアルタイムでのワイヤレス超音波画像出力を実現した。
ワイヤレス化は,医療現場のワークフロー改善にも寄与している。スペースが限られる環境下であっても,ケーブルによるプローブ取り回しの制約から解放され,自由なプローブ操作が可能となった。また,感染症対策や穿刺,手術室などの清潔操作が求められる場面において,従来の有線プローブではプローブカバーを取り付ける作業が煩雑であり,ケーブル部を覆うことが困難であったが,iViz airは,プローブカバーで覆われた状態を前提に熱制御設計がなされており,プローブ全体をカバーで覆うことができる。表示器についても全体をカバーで覆った上で,手袋を装着した状態でも操作が可能である。システム全体として,簡便に清潔性の高い検査を実施することができることから,医療現場での感染症対策効果の向上が期待できる(図2)。

図2 プローブと表示器をディスポ袋でカバーした例

図2 プローブと表示器をディスポ袋でカバーした例

 

特徴2:高可搬性

iViz airのプローブは,高いユーザビリティと高耐久性を両立するように開発した。リニアプローブの重量は約147g,サイズは57.9mm×170.5mm×29mmと,ポケットに十分入る大きさとなっており,容易に一日持ち歩くことが可能である。一般的に,プローブをワイヤレスにした際には,バッテリーを含むプローブの重量とサイズが問題となるが,小型低消費電力ICを用いることで,小型軽量でありながら連続動作3時間以上(新品のバッテリー,常温,デフォルト設定時)を実現しているまた,プローブの形状についてもユーザーヒアリングを重ね,より操作しやすい形状をめざして設計されている。プローブを把持する指の位置など,使用シーンで集めた意見を取り込み,細部まで配慮した設計となっている。また,リニアプローブの先端部は厚みを限界まで薄くし,穿刺時に針の刺入位置を確認しやすくしている(図3)。一方で,プローブは“3フィート(91cm)”落下試験をパスしており,富士フイルムソノサイト社の強みである堅牢設計の知見も取り入れることで,耐久性の高さも兼ね備えている。

図3 リニアプローブのスリムな先端形状

図3 リニアプローブのスリムな先端形状

 

特徴3:高画質

表示部には画像処理アルゴリズム“Clear Visualization”(図4)を搭載し,小型ワイヤレスでありながら高画質を実現した。Clear Visualizationは,X線画像で培った画像処理技術を応用し,超音波動画に特化した高度な画像処理アルゴリズムで,超音波画像特有のスペックルノイズを低減すると同時に,構造を強調した鮮明な画像を得ることができるなど,高画質と短時間処理を両立している。

図4 画像処理アルゴリズム“Clear Visualization”

図4 画像処理アルゴリズム“Clear Visualization”

 

図5は表在領域の画像だが,関節や神経が明瞭に確認でき,頸動脈では内膜中膜複合体肥厚度(IMT)が明瞭に描出されている(図5 d)。表在領域の幅広い分野で使用可能であることがわかる。

図5 表在領域の画像 a:正中神経 b:肩関節 c:頸動脈・甲状腺 d:頸動脈

図5 表在領域の画像
a:正中神経 b:肩関節 c:頸動脈・甲状腺 d:頸動脈

 

また,iViz airのリニアプローブではカラードプラ機能を使用できる(図6)。頸動脈の血流分布(赤色)が明瞭に描出できており,短時間処理と高感度・高画質を両立している。

図6 カラードプラの画像

図6 カラードプラの画像

 

おわりに

iViz airは,コンパクトなボディに富士フイルムの技術が詰まった製品である。開発に際しては,臨床現場におけるさまざまな場面でケーブルレスが生かせると考え,当社のこれまで医療機器開発で培った技術を用いて,プローブのワイヤレス化を実現した。また,実使用の場面を想定し,ユーザビリティを妥協することなく追究し,より使いやすい製品をめざした。
富士フイルムは,今後も臨床現場のニーズに応える商品開発で,簡便かつ迅速で,質の高い検査環境を提供し,患者のQOL向上へ貢献していく。

製品名:iViz air
販売名:FWUシリーズ
認証番号:第301ABBZX00003000号

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