技術解説(富士フイルム)

2020年8月号

FUJIFILM TECH FILE 2020

受診者にやさしいマンモグラフィ検査と診断をサポート ~AMULET Innovalityに“なごむね”を~ Part2

梶原万里子(富士フイルム株式会社メディカルシステム事業部 モダリティソリューション部)

はじめに

「AMULET Innovality」は,受診者にやさしいマンモグラフィ検査の提供をめざすコンセプト“AMULET Harmony(ハーモニー)”として,圧迫時の痛み軽減を目的とした圧迫制御機能“Comfort Comp(愛称;なごむね)”を2017年より搭載し,たくさんの施設でご利用いただいている。本稿では,“なごむね”の原理や特長について紹介する。

“なごむね”開発の背景

2017年に一般女性約1500名を対象に行われたアンケートでは,マンモグラフィ検査を受けない理由として,「撮影中に痛かった(痛いらしい)」と2割以上の女性が回答し,全回答の3位に入っている1)。この結果などから,撮影時の痛み・不快感に対する抵抗が,乳がん検診の受診率が伸び悩んでいる一因であると考えられている。
マンモグラフィ撮影において,乳房を圧迫して撮影する主たる目的は画質向上と線量低下である。これらは,乳房を引き出し,乳腺を広げた状態で乳房厚を薄く固定(ポジショニング)することで達成できる効果である。そこで,乳房をポジショニングした状態が損なわれない範囲であることを前提に,痛みの原因となる圧力を緩めても乳房厚を薄いままに保つことができれば,画質と線量は従来と同等となるのではないのかと考えた。マンモグラフィ撮影の乳房圧迫が,圧力を加えることを目的としているわけではなく乳房厚を薄い状態で固定することを目的としていることに着目した。

なごむねのフロー

図1に,なごむねのフローを示す。従来どおりのポジショニングで乳房の圧迫固定を行った後(図1a,b),なごむねを動作させることで,圧迫力を自動で減圧させる(図1c)。この減圧させる圧迫力値は任意で設定可能だが,乳房厚が3mm以上の増加とならないよう目標の圧迫力値に達しなくとも減圧をストップさせる機能を備えている。
また,なごむねの操作は,乳房の状態を見ながら減圧の確認ができる。従来のポジショニングと一連の流れで行えるため,痛みの時間を増加させることはない。厚みが変わらない範囲で乳房への圧迫を減圧できるため,通常より最大の圧力となっている時間を短縮することができる。

図1 なごむねのフロー

図1 なごむねのフロー

 

被検者の印象

なごむねを使用している施設の協力をいただき,被検者へ口頭アンケートを実施した。図2は,過去にAMULET Innovalityにてマンモグラフィ撮影の検査受診歴がある全国24施設(1施設100名)の女性を対象に,2D撮影後に行ったアンケートの結果である。マンモグラフィ検査に対する被検者の印象は,半数以上がネガティブと回答した。被検者はマンモグラフィ検査に対して漠然と“良くない”印象を抱いていることがわかる(図2 a)。マンモグラフィ検査前に,通常どおり圧迫するが撮影の直前で減圧するなごむねの説明を受け,気持ちに変化があったかどうかを尋ねた結果を図2 bに示す。約8割の被検者は気持ちが楽になったと回答した。図2 c,dは同じ質問「なごむねを片側(例えば左)に使用し,未使用側(右)と比較した時の使用側乳房(左)の印象」を実施しているが,被検者の背景がそれぞれ異なる。図2 cの被検者の背景は,撮影前だけでなく撮影が終了してからも被検者になごむねの説明をしていない。つまり,被検者はなごむね機能の存在を知らず,単に「右と比べて左の印象はどうか?」と尋ねられた。結果は72%が「変わらない」と回答した。対して図2 dの被検者は,撮影前になごむねによって減圧する説明を受け,かつ,撮影前に左乳房になごむねを使用することも知らされている。図2 cと比較し,なごむね使用側の乳房の印象が良くなっていることがわかる。また,図2 eは「次回もなごむねを使用したいか」を尋ねた結果であるが,7割以上の被検者が「次回も使用したい」,特に「2:ぜひ使用したい」は半数を上回った。
これらより,なごむねは減圧による直接的な乳房への効果に加え,被検者にとって精神的な安心を与える効果があると言える。なごむねは,マンモグラフィ検査に対するネガティブな印象を和らげ,撮影者と被検者間のコミュニケーションをより向上させる手段となることが期待できる。

図2 アンケート結果

図2 アンケート結果

 

なごむねの画質評価

なごむね使用有無の画質評価を実施した。上記アンケートに協力いただいた施設の同一被検者における“なごむね使用”(今回撮影画像)と“なごむね非使用”(過去撮影画像)を評価対象とした。方法は,高精細モニタ上での乳房圧を非表示,かつ,“なごむね使用”/“なごむね非使用”画像を左右にランダムに表示させ「乳腺内コントラスト」「乳腺外コントラスト」「鮮鋭性」「粒状性」についての比較結果を5段階スコアで評価した。結果を図3に示す。乳腺外コントラスト,粒状性はほぼ変化を認めないが,乳腺内コントラスト,鮮鋭性は“なごむね使用”が良好な結果となった。

図3 “なごむね使用”の画質評価結果(“なごむね非使用”との比較)

図3 “なごむね使用”の画質評価結果(“なごむね非使用”との比較)

 

乳腺内コントラストと鮮鋭性が“なごむね使用”の方が良好となった理由を解析したところ,“なごむね使用”と“なごむね非使用”は今回撮影画像と過去撮影画像の比較のため,両者の乳房厚の違いが影響していると考えられた。評価対象の平均乳房厚は“なごむね使用”36.8mm,“なごむね非使用”37.4mmと0.6mm差である。しかし,図4に示すように乳房厚の違いはバラツキが大きく,最大で14mmも乳房厚が異なるケースがあった。そこで,“なごむね使用”から“なごむね非使用”の厚み差分を3つのグループ((1)“なごむね使用”の方が4mm以上薄い(2)厚み差が±3mm範囲(3)“なごむね使用”の方が4mm以上厚い)に分け,画質評価の各項目を算出した(表1)。(2)厚み差が±3mm範囲は,全体の評価同様に乳腺外コントラスト,粒状性に変化を認めず乳腺内コントラスト,鮮鋭性がやや良好な結果となった。しかし,(1)4mm以上薄いグループと(3)4mm以上厚いグループを比較すると,粒状性は変化を認めないが,乳腺内コントラスト,乳腺外コントラスト,鮮鋭性は,乳房厚が薄いグループの方が明らかに良好なスコアを示した。これは,マンモグラフィ画像において乳房厚がコントラストや鮮鋭性に大きな影響を与える一般的な定義を示している。なごむね使用の有無にかかわらずポジショニングの重要性が示された。

図4 乳房厚の違い “なごむね使用(今回撮影画像)” − “なごむね非使用(過去撮影画像)”

図4 乳房厚の違い
“なごむね使用(今回撮影画像)” − “なごむね非使用(過去撮影画像)”

 

表1 厚み別の画質評価

表1 厚み別の画質評価

 

おわりに

AMULET Innovalityに追加されたなごむねの特徴を紹介した。なごむねはマンモグラフィ検査に対するネガティブな印象を和らげ,撮影者と被検者間のコミュニケーションをより向上させる手段となることが期待される。これらの技術を含むAMULET Innovalityが広く利用され,受診者にやさしいマンモグラフィ検査と診断のサポートに貢献することを期待し,今後も診断技術のさらなる向上に貢献していく。

AMULET Innovality
販売名:デジタル式乳房用X線診断装置 FDR MS-3500
認証番号:224ABBZX00020000
圧迫自動減圧制御 Comfort Comp“なごむね”は,AMULET Innovalityのオプションです。

●参考文献
1)認定NPO法人乳房健康研究会「乳がん検診についてのアンケート」. 2017.

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