技術解説(富士フイルム)

2021年11月号

FUJIFILM TECH FILE 2021

透視と静止画撮影を兼ねたワークフローを実現! 軽量X線透視診断装置の開発 ~FUJIFILM DR CALNEO CROSS~

中島智明(富士フイルム株式会社メディカルシステム事業部)

はじめに

これまで移動型X線透視診断装置は,X線検出器としてイメージインテンシファイア(以下,I.I.)を用いたものが主流であったが,近年,フラットパネルセンサを搭載した移動型X線透視診断装置の販売割合が増加してきている。フラットパネルセンサを搭載した移動型X線透視診断装置の検出器には,一般的に画像領域周辺部に歪みがなく,X線感度の経年劣化が小さい(補正できる),低線量化が期待できるなどの特性がある。
本稿では,透視・静止画撮影兼用のカセッテDR「FUJIFILM DR CALNEO Flow」*1(以下,CALNEO Flow)を検出器部に採用し,透視と静止画撮影を兼ねた新たなワークフローを提案する軽量X線透視診断装置「FUJIFILM DR CALNEO CROSS」*2(以下,CALNEO CROSS:図1)について紹介する。

図1 FUJIFILM DR CALNEO CROSS(左)とオプションのモニタカート(中央),無線フットスイッチ(右)

図1 FUJIFILM DR CALNEO CROSS(左)とオプションのモニタカート(中央),無線フットスイッチ(右)

 

軽量コンパクト設計とケーブルレスデザインによる軽快な操作性

スペースの限られた手術室内において,移動型X線透視診断装置のCアームカートは,透視を使用するときに手術台に接近させて,使用しないときに退避させる動作や,体軸に平行に繰り返し動かす操作などがなされているが,通常,Cアームカートとモニタカートは離して配置されるため,両者の間の画像転送ケーブルはCアームカートの操作に邪魔になることがある。また,装置使用後には,床をはった長いケーブルやアーム外に露出したケーブルは清潔性を保つために,清掃する必要がある。
これらの課題に対して,CALNEO CROSSは重量約249kgと軽量なCアームカートに,急速充電が可能なリチウムイオンバッテリーを内蔵しており,さらにCアームカートからモニタカートへの画像転送,X線照射用のフットスイッチを無線接続としたほか,CアームスタンドからX線源装置へつながる電源ケーブルや通信ケーブル類が外部に露出することがないようにアーム内に収納するなど,徹底的にケーブルレスデザインを追究した。
また,操作パネルやハンドスイッチなどの高頻度で触れる部分には,富士フイルムの抗菌コート技術「Hydro Ag」*3のコーティングを施しており,操作パネルは凹凸が少ないデザインで,表面に付着した汚れを落としやすく,清潔で衛生的な使用を可能とした。

着脱可能なフラットパネルセンサホルダによる3種類の画像領域選択

移動型X線透視診断装置は一般的にフラットパネルセンサがアーム部に固定されているため,自由に最大画像領域の選択ができない。I.I.のサイズでは直径9インチまたは12インチのものが多く使われており,手術の目的に応じて,これらの装置を選択して使用されている。
CALNEO CROSSは,フラットパネルセンサホルダをCアームカートから取り外すことができ,ユーザーが選択購入した3サイズのフラットパネルセンサホルダ(画像領域:10インチ×12インチ,14インチ×17インチ,17インチ×17インチ)から手術の目的に応じて適切なサイズを選択し,簡単にセットして撮影することができるようになっている(図2)。

図2 検出器部交換機構と3サイズの画像領域

図2 検出器部交換機構と3サイズの画像領域

 

1台の装置で,術中透視と術後静止画撮影を兼用したワークフロー

手術後には,術後の確認や残存物の確認をするためにX線回診車で静止画撮影が行われることがある。その場合,手術室内に移動型X線透視診断装置とX線回診車をそれぞれ配置する必要があり,また使用場面に応じて装置を入れ替える必要があった。
当社の透視・静止画撮影兼用のCALNEO Flow*4を用いることで,1台で透視と静止画撮影が可能なため,透視を必要とする手術の後に,同じ装置で静止画撮影が可能となり,手術室内に複数の装置を配置する必要がなく,手術室のスペースを広く効率的に使うことができる(図3)。
静止画撮影に使用するカセッテDRは,フラットパネルセンサホルダから取り出したCALNEO Flowでも,接続登録された別のCALNEO Flowでも使用可能である。さらには,このCALNEO Flowは,当社の製品間での共用が可能であり,例えば複数のCALNEO CROSS間や,手術室内での軽量移動型デジタルX線撮影装置「FUJIFILM DR CALNEO AQRO」*5(以下,CALNEO AQRO)との共用,放射線科の一般撮影室のCALNEO Flowをバックアップとして想定しておくなど,病院内トータルでCALNEO Flowを基軸とした運用システムを構築することができる。
本装置開発に合わせて,透視コンソールを新規に開発し,透視と静止画の撮影モードに合わせて,コンソール画面を切り替えて使用することを可能とした。加えて,X線条件の操作を行うボタン類もコンソール画面に同時に表示した。

図3 透視モード(左)と静止画モード(右)

図3 透視モード(左)と静止画モード(右)

 

静止画で培ってきた画像処理技術を生かして開発

CALNEO CROSSはCALNEO Flowの高感度かつ低被ばくを実現するハードウエア技術をベースに,ダイナミック処理やノイズ抑制処理といった静止画の領域で進化を遂げてきた富士フイルムの画像処理技術を透視領域へと発展させた装置である。ダイナミック処理とノイズ抑制処理をフレーム単位で実行し,クリアな画像を生成する画像処理技術であるダイナミックコアエンジン(DCE),CALNEO AQROの開発で培ってきた軽量X線システム技術を集結させ,現場ニーズに応えるべく生み出された(図4)。

図4 画像処理の効果

図4 画像処理の効果
a:処理なし 8.4mA b:ダイナミック処理後 8.4mA c:ダイナミック処理+ノイズ抑制処理後 4.2mA

 

おわりに

本製品は,富士フイルム社製としては,初めて自社開発したX線透視診断装置であり,企画,開発から販売開始に至るまで困難の連続であったが,2021年10月に発売を開始することができた。臨床現場から,どのような評価が得られるか,弊社一同とても楽しみにしており,また,今後,本製品の導入が進み,手術の効率化と医療の質の向上の一助となることを期待している。

*1 FUJIFILM DR CALNEO Flow
販売名:デジタルラジオグラフィ DR-ID 1800
認証番号:第302ABBZX00021000号
*2 FUJIFILM DR CALNEO CROSS
販売名:X線透視診断装置 CALNEO CROSS
認証番号:第303ABBZX00031000号
*3 2014年7月に当社が開発した抗菌コート技術。従来の銀系抗菌剤を使った抗菌コートに比べて約100倍の抗菌性能を実現。
*4 透視はFUJIFILM DR CALNEO Flow Cシリーズのみ対応
*5 FUJIFILM DR CALNEO AQRO
販売名:富士フイルム DR-XD 1000
認証番号:第228ABBZX00132000号

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