技術解説(富士フイルム)

2023年8月号

Women’s Imaging 2023

デジタルマンモグラフィシステム「AMULET SOPHINITY」の特長

岡田 直之[富士フイルム(株)メディカルシステム事業部]

当社のデジタルマンモグラフィシステム「AMULET」シリーズは,自社開発の「HCP(Hexagonal Close Pattern)構造」TFTパネル*1を採用した直接変換型フラットパネルディテクタ(FPD)を搭載し,信号成分とノイズを分離して信号強調とノイズ抑制を同時に行う微細構造鮮明化処理「FSC(Fine Structure Control)」や,関心領域である乳腺領域と脂肪領域の特徴を併せ持つ画像領域を認識し,それぞれの濃度を一定にすることで乳房の大きさや乳腺濃度によらずコントラストを高める「DYNⅡ(Dynamic VisualizationⅡ)」の画像処理機能を組み合わせ,低線量でも画素サイズ50μmの高精細な画像を提供する。近年では,さらに高い診断を行うため,トモシンセシス撮影の実施が広がっている。
今回,(1) トモシンセシス画像のさらなる高画質化,(2) AI技術*2を活用して開発した操作者のポジショニングをサポートする「プロジェクション機能(Positioning MAP)」と「ポジショニング解析機能」の搭載,(3) “より「受診者に優しい」”装置デザインを採用した,「AMULET SOPHINITY(アミュレット ソフィニティ)*3」(図1)を2023年6月に販売した。本製品の特長を紹介する。

図1 デジタルマンモグラフィシステム AMULET SOPHINITY

図1 デジタルマンモグラフィシステム
AMULET SOPHINITY

 

■トモシンセシス画像のさらなる高画質化

従来機「AMULET Innovality」*4のトモシンセシス撮影機能は,短い撮影時間に線量を抑えたSTモード(X線管振り角 15°)と,より高い深さ分解能を有するHRモード(X線管振り角 40°)の「Dualモード機能」が特長である。また,トモシンセシス画像にアーチファクトの低減,高解像度化,粒状抑制を同時に行う画像処理「ISR(Iterative Super-Resolution reconstruction)」を適用し,低線量でも高画質な画像を実現している。今回のAMULET SOPHINITYにもDualモード機能を搭載し,X線管振り角は従来と同様の15°/40°を採用した。トモシンセシスの撮影線量は従来機と同等のまま,撮影画像枚数をSTモード19枚(従来機15枚),HRモード35枚(従来機15枚)へ増やすことで,焦点面以外の断層上のアーチファクトを低減し,トモシンセシス画像のさらなる高画質化を実現した。

■AI技術を活用して開発したポジショニングサポート機能

マンモグラフィ画像の読影では,小さな変化を見逃さないよう,左右の乳房画像の比較読影や,過去の同側画像との比較読影を行う。厚生労働省の指針1)でも,過去画像との比較読影が望ましいと明記されており,過去画像と比較読影がしやすい画像の提供が重要である。しかし,比較読影がしやすい画像は乳房のポジショニングに左右され,操作者の高い技術を必要とする。
AMULET SOPHINITYは,AI技術を用いて開発したプロジェクション機能(Positioning MAP)(図2)を搭載し,ポジショニングの参考となるスキンラインと乳頭位置を撮影台面上に投影する。操作者は,投影された情報を参考にポジショニングができる。右MLOのポジショニング時に,同一被検者の過去の画像がある場合は,過去の右MLO画像からスキンラインと乳頭位置を抽出し,撮影台面上に投影し,過去画像との比較がしやすいポジショニングをサポートする。過去画像がない場合は,直前に撮影した同一検査内の左MLOの画像からスキンラインと乳頭位置を抽出し,反転させて投影することで,左右の比較がしやすいポジショニングをサポートする。
さらに,ポジショニング時に必要な情報である圧迫力,圧迫厚,装置の角度の情報は圧迫板面上に投影する。投影する情報は,現在ポジショニングをしている実際の数値に加えて,スキンラインと乳頭位置を抽出した画像を撮影した時の数値も合わせて表示するため,これらの情報も参考にポジショニングが可能となる。ポジショニングに必要なすべての情報を圧迫板近辺に集約しているため,操作者の目線の動きを小さくすることが可能である。
また,同様に,AI技術*5を用いて開発した「ポジショニング解析機能」(図3)も搭載する。撮影画像を用いてポジショニングに関する基準点を算出し,あらかじめ設定した値と比較することで,マンモグラフィのポジショニング状態を解析する。定量的にポジショニングの結果を管理し,改善点の把握が可能となる。これらAI技術を活用したポジショニングサポート機能により,操作者のワークフローの向上が期待できる。

図2 プロジェクション機能(Positioning MAP)

図2 プロジェクション機能(Positioning MAP)

 

図3 ポジショニング解析機能

図3 ポジショニング解析機能

 

■“より「受診者に優しい」”装置デザイン

撮影台下部にカーブ形状(Fit Curve)を設け(図4),受診者の腹部が接触する表面を最大45%の薄型化(当社の従来機比較)を実現し,検査時の窮屈感を和らげるデザインとした。加えて,受診者のさまざまな体形にフィットする新アームレストも採用し,“より「受診者に優しい」”装置デザインとした。さらに,従来機ではオプションの乳房圧迫時の痛み軽減をめざした圧迫自動減圧制御機能「Comfort Comp“なごむね”*6」を標準搭載とし,受診者に優しい装置デザインと機能の両面から乳がん検査をサポートする。また,従来機から設置面積を約20%,撮影スタンドの高さを約30%削減し,装置全体のコンパクト化で受診者に与える圧迫感を低減する。

図4 カーブ形状(Fit Curve)

図4 カーブ形状(Fit Curve)

 

当社は,乳がん検査などのブレストイメージング領域向けに,デジタルX線撮影装置,医療IT,超音波診断装置,MRIなど,幅広い製品ラインアップを組み合わせ,医療現場のニーズに合ったソリューション提案を強化している。また,より付加価値の高いソリューションの提供をめざし,グループが持つ技術を結集した製品開発を加速させている。今後は,これらの取り組みを,ブレストイメージング領域から産科・婦人科での検査,骨密度検査などの女性向け医療(Women’s Health)領域に拡大する。Women’s Health向けソリューションを「INNOMUSE(イノミューズ)」のブランド名で広く展開して,女性の健康維持増進に貢献していく。

*1 X線を電荷に変換し,その電荷を収集してX線情報を検出する電極の形状を六角形にしたTFTパネル。電極の角で起こる電界強度の乱れは,一般的に角が鋭角になるほど大きくなる。当社の「HCP構造」TFTパネルでは,電極の形状を,一般的なパネルで採用している正方形ではなく,より鈍角な六角形にしたことで,電界強度の乱れを緩和。電荷収集効率が向上し,電極が正方形であるパネルと比べてX線検出感度が約2割向上する(電極が正方形のパネルを搭載した当社装置との比較)。
*2 乳頭位置の検出は,AI技術の一つであるディープラーニングを用いて設計された。導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。
*3 販売名:デジタル式乳房用X線診断装置 FDR MS-4000(AMULET SOPHINITY型)
  認証番号:304ABBZX00020000
*4 販売名:デジタル式乳房用X線診断装置 FDR MS-3500
  認証番号:224ABBZX00182000
*5 ポジショニングに関する大胸筋と乳頭位置の基準点の抽出は,AI技術の一つであるディープラーニングを用いて設計された。導入後に自動的にシステムの性能や精度が変化することはない。
*6 患者の痛みを軽減する目的で,通常の乳房圧迫完了後に,乳房の厚みが変化しない範囲(±3mm)で圧迫圧を減圧する機能。ヒステリシス現象を利用し,通常の圧迫方法よりも,最大圧迫圧となる時間を低減する。

●参考文献
1)がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針. 厚生労働省, 2021.

 

●問い合わせ先
富士フイルムメディカル株式会社
営業本部MS事業部
〒106-0031
東京都港区西麻布2-26-30 富士フイルム西麻布ビル
TEL:03-6419-8075
https://fujifilm.com/fms/

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