技術解説(富士フイルム)
2026年3月号
腹部領域におけるITおよびAIの最新技術
富士フイルムのAI技術「REiLI」と腹部,骨盤画像診断ソリューションの紹介
大島 俊介[富士フイルムメディカル(株) IT ソリューション事業本部]
現代の医療現場は,技術革新の波により大きな変革を迎えている。特に,デジタル技術とITの融合は,診断から治療,患者管理に至るまで,医療の質と効率を飛躍的に向上させる重要な要素であると考えている。富士フイルムは,長年にわたり医療分野で培ってきた画像処理技術や人工知能(AI)技術を活用し,医療ITの最前線にて革新的なソリューションの提供に努めている次第である。
当社が展開する「REiLI(レイリ)」は,画期的な臨床的価値と新規ソリューションの実現をめざす取り組みであり,医師の診断精度向上や業務効率化を支援するシステムを多角的に展開している。これにより,医療現場の負担軽減と患者の安全性向上に少しでも寄与できるよう,日々開発を重ねているところである。
本稿では,当社の医療IT商材の一つである「SYNAPSE SAI viewer(以下,SAI viewer)」に実装されている多くの機能の中から,腹部・骨盤領域の画像診断ソリューションについて紹介する。
■膵臓画像診断支援に向けた取り組み:「膵臓吸収値強調フィルタ」「膵区域ラベル」
上腹部造影CT画像を対象に,膵臓領域内で周辺組織と比較して低吸収領域を強調表示する機能として,膵臓吸収値強調フィルタをリリースした。一般的に,膵臓におけるCT検査はダイナミック撮影が実施されるため,病変部とのコントラストが明瞭なことが多い。また,臓器自体の大きさから,ほかの臓器と比べ膵臓領域が含まれるスライス数は少なく,病変の見落としは発生しにくいとされている。しかしながら,膵臓の周囲には肝臓,十二指腸,腸管,主要血管など,近しいHounsfield unit(HU)値を有する複数の臓器が存在するため,画像上での識別が困難な場合が多い。
また,専攻医など,経験値の浅い医師にとって膵臓領域の病変診断は難易度が高いとされており,膵臓がんは早期発見が難しい上,進行すると予後不良であることから,正確かつ迅速な診断支援が求められている。国内外で罹患率および死亡率が上昇している深刻な疾患であり,画像診断の役割はきわめて重要である。
以上の背景を踏まえ,AI技術*を用いて設計した膵臓吸収値強調フィルタは,膵臓領域内の低吸収領域を視覚的に強調することで,診断の精度向上および医師の負担軽減に寄与することを目的として開発した(図1)。
さらに,膵臓吸収値強調フィルタで反応した強調表示領域に解剖学的情報を付与することを目的として,同時期に,「膵癌取扱い規約第7版」1)を参考に,膵臓を3つの区域に分割する膵区域ラベル機能を追加している。これにより,医師が低吸収領域の場所を同定することが容易となり,診断の精度向上および治療方針の検討に寄与することが期待される。
図1 膵臓吸収値強調フィルタの表示のオン(右),オフ(左)の画像
関心領域の位置が臓器の端に位置する難しい症例である。膵区域ラベル,サイズの結果を用いた画像所見も作成できる(下段)。
■前立腺画像診断支援に向けた取り組み:「前立腺ビュー」
前立腺がんは「ラテントがん」とも呼ばれ,罹患数は多いものの,ほかの悪性新生物と比較して死因となる割合は相対的に低いという特徴を有している。こうした特性を踏まえ,前立腺がんの診断においては,過剰診断や過剰治療を避けつつ,正確な病変評価が求められている。特に前立腺画像診断においては,Prostate Imaging Reporting and Data System(PI-RADS)v2.1が国際的な標準として広く採用されており,診断の一貫性と精度向上に寄与している。こうした背景を踏まえ,当社はPI-RADS v2.1を念頭に置き,読影を支援する目的として,前立腺ビューを新たにリリースした(図2)。
前立腺の画像診断では,(1) 前立腺の大きさを測定し,(2) 腫瘤性病変の評価を行った上で (3) 画像所見を作成するが,各工程でユーザー間の誤差が生じやすい課題がある。上記課題を支援する目的として,AI技術を用いて設計した,T2強調画像のコントラストに対応した臓器セグメンテーションの結果を活用している。現在のワークフローは,前立腺の大きさは,アキシャルとサジタル断面上で縦横高さを測定後,近似楕円として算出するための係数を乗算し体積を算出するが,AI技術を用いて設計した前立腺自動抽出機能の結果をユーザーに提供し,その確認をしてもらうことで,再現性の高い計測結果の提供を支援できると考えている。腫瘤性病変の評価においても,PI-RADS特有の診断基準に基づく判定手順が煩雑だと感じる医師も少なくないという背景から,前立腺ラベリング機能による移行領域(TZ)および辺縁領域(PZ)を自動で区域分けする機能を開発し,その結果をユーザーが間接的に用いることで,腫瘤性病変の評価を支援する。さらに,画像所見の一つとして記載が求められる壁外進展(EPE)については,浸潤先の自動判定を実現するため,前立腺同様に膀胱,精囊,直腸のセグメンテーション技術を導入している。これにより,診断の一貫性と精度向上に寄与したいと考えている。
図2 前立腺ビューの画面例
AI技術を用いて設計した男性骨盤領域のセグメンテーション技術を応用してPI-RADS v2.1に即した画像所見作成を支援する。
■大血管画像診断に向けた取り組み:「大動脈ビュー」
「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」2)で,大動脈瘤径の計測を行う際には,大動脈長軸に直交する断面像において,長径と短径を計測することが示されている。一方,放射線科領域で利用されるソフトウエアにおいて,簡便かつ短時間に大動脈長軸を再構成できるシステムは多くないというのが現状である。大動脈ビューでは,造影CTはもちろんのこと,単純CTに対し,AI技術を用いて設計したセグメンテーション技術を用いて大動脈を抽出後,大動脈中心線に直交する断面を再構成し,最大短径を有する直交断面の選択と長径,短径を自動的に,かつ簡便に計測することができる(図3)。従来は手作業だった工程に,システムによる診断支援を加えることで,業務効率化およびユーザー間の再現性に寄与したいと考えている。
図3 腹部大動脈症例を用いた大動脈ビューの比較検査画面例
SAI viewer上で計測した結果を利用した定型文を作成できる(下段)。
本稿では,膵臓吸収値強調フィルタおよび膵区域ラベル,PI-RADS v2.1対応の前立腺ビュー,さらに,大動脈ビューといった,腹部領域で活用できる機能の開発背景と特長について紹介した。いずれもAI技術を用いて設計したセグメンテーション技術を応用し,診断の精度向上と医師の負担軽減をめざしたものである。画像診断において,病変の評価,計測の標準化はきわめて重要であり,これらのソリューションは,医療現場の効率化と診断の質向上に大きく寄与することが期待される。今後も当社は,医療AI,ITを通じて,より安全で質の高い医療提供に貢献していく。
*AI(人工知能)の一つであるディープラーニングを設計に用いて開発した。自動的に装置の性能・精度は変化することはない。
SYNAPSE SAI viewerは以下の医療機器を含む製品の総称です。
SYNAPSE SAI viewer用 画像表示プログラム
販売名:画像診断ワークステーション用プログラム FS-V686型
認証番号:231ABBZX00028000
SYNAPSE SAI viewer用 画像処理プログラム
販売名:画像処理プログラム FS-AI683型
認証番号:231ABBZX00029000
●参考文献
1)日本膵臓学会編 : 膵癌取扱い規約第7版. 金原出版, 東京, 2016.
2)2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン. 日本循環器学会, 2020.
●問い合わせ先
富士フイルムメディカル株式会社
ITソリューション事業本部事業推進部
https://www.fujifilm.com/fms/
