Centricity LIVE Tokyo 2017

2017年10月号

GEヘルスケアITリーダーシップ・ミーティング

事例セッション 1 デジタル変革時代におけるデータ・マネージメントの最先端

情報管理者の立場から

岡本 和也(京都大学医学部附属病院医療情報企画部副部長)

本講演では,情報管理者の立場から京都大学医学部附属病院のPACS更新について報告する。

PACS更新におけるデータ移行の問題

当院のPACSは,CTが9台,MRIが7台,CRが15台など,非常に多くのモダリティから発生するデータを保管している。2017年6月の時点で,圧縮ずみの画像データを約182TB保管しており,ストレージの空きは約179TBで,合計361TBの容量を有している。モダリティ別に見ると,CTが約70%を占めており,MRIの9.8%,CRの7.1%などを大きく上回っている。
当院では,2016年4月にPACSを現行のシステムに更新した。更新前の旧PACSのサーバは,データ送受信を高速に行うためにフロントエンドを60TBとし,バックエンドを200TBという構成にしていた。これにより,直近データの表示を高速に行えるようにした。また,フロントエンドの60TBの容量が不足している場合は,バックエンドの200TBで保管する構造としていた。
一方,新システムでは,フロントエンド,バックエンド共に350TB強のストレージを用いることとした。この更新において,各ベンダーに確認したところ,ベンダー変更によるデータ移行には3年程度の期間を要するとのことであった。一般的なデータ移行であれば,短期間でのデータ移行が可能であるが,DICOM画像の場合,DICOM通信での移行によるオーバーヘッドが発生し,大幅な時間を要する。更新前の旧PACSは,フロントエンドがGE社独自方式の圧縮技術,バックエンドが標準規格でデータを保管をしていたが,その管理を行うデータベースが非公開となっており,バックエンドからのデータ移行にもDICOM通信を用いる必要があり,膨大な時間を要する障壁となっていた。

ベンダーロックインを防ぐVNA-OCDB

このようなベンダーロックインの状況を解消するために,更新する新PACSでは,データベース構造を公開することを仕様書に明記してベンダーの選定を行った。この仕様書では,フロントエンドは圧縮形式など各社独自の仕様を認め,バックエンドは標準規格によるVNAとして,他ベンダーにも公開することとした。その結果,GE社より提案があった,バックエンドへの保管形式をJPEG 2000のロスレスモードとして,VNA-Open Connect Database(OCDB)と呼ばれる公開データベースを構築することとなった。
実際のデータ移行では,まず旧PACSのフロントエンドのストレージを,バックエンドと同じ200TBに増設。およそ半年かけてバックエンドのデータをフロントエンドにコンバートしてから,3か月程度で新PACSのフロントエンドのストレージにデータを移行した(図1)。この約9か月間の移行作業により,全データを新しいサーバに保管した状態で新PACSに更新することができた。

図1 VNA-OCDBによる短期間でのデータ移行

図1 VNA-OCDBによる短期間でのデータ移行

 

利便性の高いVNA-OCDB

新PACSで採用したVNA-OCDBについては,仕様が公開されているため,非常に利便性が高いと評価されている。そこで,自作のPACSビューワにて,VNA-OCDBの利便性を検証した。VNA-OCDBはマイクロソフト社の「Microsoft SQL Server 2014」上で動作しており,自作PACSビューワからのアクセスも簡単で,画像ストレージからの画像取得もファイル共有プロトコールであるCIFSを用いればよく,敷居が低かった。患者IDを入力してスタディ情報,シリーズ情報と階層ごとにリストから選択すると,容易かつ高速に画像を取得でき,VNA-OCDBの利便性の高さを確認した。なお,自作PACSビューワでは,当院の八上全弘先生が開発した「Yakami DICOM Converter」を介して,DICOMデータをJPEG形式に変換して表示している。

ユーザーがデータ圧縮を設定可能

さらに,新PACSでは,長期保存するCT画像のデータ圧縮方式をわれわれが管理できる「Thin Slice Management System」を導入した(図2)。当院のPACSサーバに保管されているCT画像は,スライス厚5mm未満のthin sliceデータが多い。例えば,2017年1月のある1週間においては,PACSサーバに保管されたCT画像の83%が,スライス厚5mm未満のthin sliceデータであった。今後,さらにCT画像のデータ量が増加し,PACSのサーバ容量がひっ迫すると予想された。そこで,新PACSでは,患者ID,モダリティ種別,検査期間,スライス厚で検索した画像を,必要に応じてファイルサイズの小さい非可逆圧縮形式で保管できるようにした。ユーザー自身がこのような設定を行え医用画像を管理できることは,データ・マネージメントの観点から非常に重要と言える。

図2 Thin Slice Management System

図2 Thin Slice Management System

 

まとめ

当院では,DICOMなど標準規格でデータを保管するVNAと,仕様を公開できる利便性の高いOCDBにより,ベンダーロックインがなく,将来的にもデータ移行などのコストを抑えられるPACSを構築した。この新PACSでは,Thin Slice Management Systemにより,データ増大によるストレージの追加といったコスト増加も防げる。現在,新PACSは,GE社の継続的なリモート監視体制の下で,きわめて安定して運用できている。

 

岡本 和也(Okamoto Kazuya)

岡本 和也(Okamoto Kazuya)
2009年京都大学大学院情報学研究科博士後期課程修了。博士(情報学)。京都大学特定研究員・特定助教・助教を経て,2013年12月から京都大学医学部附属病院講師,同院医療情報部副部長(兼任)。医療情報学に従事。

 

 

放射線科医の立場から

八上 全弘(京都大学医学部附属病院先制医療・生活習慣病研究センター)

本講演では,放射線科医の立場から京都大学医学部附属病院のPACS更新について報告する。

異なるベンダーのビューワが利用できる環境を構築

当院のPACSに求められる機能は非常に高度であり,(1) 多種多様なモダリティで撮影された大量のデータ管理,(2) 多数の端末からの画像利用,(3) サブシステムへのデータ提供,ができなければならない。
当院では,ネットワーク経由や可搬媒体で持ち込まれた他施設の画像データも,当院で撮影されたデータも,2011年以降は当院の全CT検査の thin slice データ(スライス厚0.5〜1mm)も含めて,近年は血管撮影の動画像も含めてPACSに保管している。これを可能にするために,PACSサーバの容量は実効1PBとしている。これらの画像は,院内にある約40台の読影端末と約2500台の電子カルテ端末にインストールされたGE社製ビューワにも,GE社以外のベンダー製の3D画像処理ワークステーションやカンファレンスシステム,被ばく管理システムといったサブシステムにも提供されている。院内の読影端末と電子カルテ端末では,GE社製ビューワも他ベンダーのビューワも,目的やニーズに合わせて自由自在に利用できる環境が構築されている。

高い利便性と高速アクセスを実現した真のVNA

2016年4月に新PACSにシステム更新する以前は,GE社製PACSのデータを他ベンダーのサブシステムのビューワで表示するために,2パターンの運用を行っていた(図1)。1つは,ビューワ上からDICOM Q/RでPACSのサーバにアクセスして使用する画像のみを取得するというもので,この方式は必要な画像だけを取得するためストレージとネットワークの資源の利用の点では効率的ではあったものの,DICOM通信により転送に時間を要した。もう1つは,サブシステム専用のサーバを設けて,そこに事前にすべての画像をPACSサーバから転送しておくというもので,高速な画像表示が可能であったものの,データ転送の負荷やサブシステムのサーバ容量のひっ迫といった問題があり,保管期間を短期間にするといった対応が必要であった。
この2つの方式の課題を根本的に解決する方法としては,すべて1社のシステム・ビューワにすることが考えられるが,ユーザーの利便性が犠牲となる。そこで,われわれは別の解決方法として,VNA-Open Connect Database(OCDB)を構築することとした。
2016年5月から稼働したVNA-OCDBでは,データ転送に関する仕様を開示し,他ベンダーと共有することで,各サブシステムのビューワからPACSサーバにある必要なデータだけを高速に取得することができるようにした(図2)。これにより,サブシステムごとにデータを保管するストレージが必要なくなり,効率的なデータ・マネージメントが図れている。
また,以前の運用では,3D画像処理ワークステーションのサーバの容量が少なく,1週間程度の過去画像しか保存できないため,必要な時に画像処理ができないという問題が発生していた。しかし,新PACSでは,3D画像処理ワークステーション上で,PACSサーバにあるデータを使用して画像解析が行えるため,利便性が向上した。さらに,以前は全データをサブシステムのサーバに送信しなければならなかったが,その必要もなくなり,ネットワークの負荷なども軽減した。
このように,VNA-OCDBのメリットとしては,GE社製PACSをメインにして,ユーザーが症例ごとに目的に応じてビューワを使い分けることが可能となり,どのサブシステムのビューワからもデータに高速アクセスできるようになったことが挙げられる。
われわれユーザーにとっては,今回構築したVNA-OCDBこそが“真のVNA”と言えるのではないかと考える。

図1 旧PACSの運用イメージ

図1 旧PACSの運用イメージ

図2 新PACSの運用イメージ

図2 新PACSの運用イメージ

 

ILMを用いたデータ・マネージメント

GE社は,ビューワのラインアップが充実しており,2D画像と3D画像が扱えるオールラウンドの「Centricity Universal Viewer」,高機能な3D画像処理ワークステーションの「Advantage Workstation」,高速ページングが可能な読影ワークステーション「Centricity RA1000」,院内配信用のビューワ「Centricity Enterprise Web」がある。これらに加え,VNA-OCDBにより,他ベンダーのビューワが利用できることが同社のPACSのメリットでもある。
しかしながら,VNA-OCDBであっても,保管する画像データが増え続けるという事実から逃れられない。そこで,今回のシステム構築では,ユーザー自身が一定条件で画像を選択して削除したり,可逆圧縮から非可逆圧縮に変更したりできる「ILM(Image Lifecycle Management)」をベースにした「Thin Slice Management System」を導入した。将来的にデータ量が増大しても,われわれで圧縮方式を設定して対応できることは,非常に心強い。
また,今後加速度的に進むであろう機械学習などの人工知能(AI)の医療への応用では,質の高いビッグデータを管理することが重要となる。このビッグデータとは,われわれが日常的に取り扱っている臨床データにほかならないと考える。今回われわれが構築したVNA-OCDBは,DICOM通信を用いずに高速にデータを提供することができるので,データウエアハウスが電子カルテ上のデータで実現したのと同様に,画像データの研究での活用をも実現すると考える。

まとめ

VNA-OCDBは,臨床面における画像診断の質的向上,研究面におけるビッグデータ活用の鍵になると言える。

 

八上 全弘(Yakami Masahiro)

八上 全弘(Yakami Masahiro)
2001年京都大学医学部附属病院放射線科。大阪赤十字病院,日本赤十字社和歌山医療センターなどを経て,2010年から京都大学医学部附属病院放射線診断科(特定助教)。2016年から同院先制医療・生活習慣病研究センター (特定助教)。

 

 

部門システムデータ管理の新たな潮流「VNA(Vendor Neutral Archive)」

大越  厚(GEヘルスケア・ジャパン株式会社ヘルスケア・デジタル事業本部戦略企画部部長)

医用画像の世界で,話題となっている技術の一つがVNA(Vendor Neutral Archive)である。以下では,VNAが開発された背景やメリットを紹介する。
従来のPACSは,データベースやDICOM送受信といったデータを“管理”する部分と,画像表示や計測といった“活用”する部分の,2つのコンポ-ネントで構成されていた。そして,高速に画像を送信するために独自の圧縮を行うことから,1ベンダーによる1システムとして提供されてきた。しかし,1ベンダーが提供するビューワでは,幅広い診療科の医師のニーズにすべて応えることができず,サブシステムを導入する施設が多くあった。ところが,サブシステムのビューワは,見られるデータに制限があるなどの問題があった。

そこで,GEのVNAでは,DICOMだけでなはく,非DICOMのデータも含めて一元管理することで,HIS端末からすべての情報を参照可能にした。さらに,VNAにより,データを“管理”する部分を一元化し,“活用”については,各領域・部門専用のサブシステムを利用できるようになった。

また,VNAでは,これまで分散・重複していたデータの集中管理を行えるようになった。これによってデータの俯瞰性・一貫性の確保というメリットが得られ,一人の患者の情報を検査別,時系列にマトリックス表示してサブシステムの専用ビューワで参照可能なシングル・ポイント・オブ・アクセスの環境を構築できる。さらに,VNAとサブシステムの各ビューワ間は標準規格で通信が行われるため,中立性を確保した運用となる。このほか,標準規格の採用により,システム更新時にベンダーを変更しても,データ移行ができない,あるいは長期間を要するといった,ベンダーロックインの排除というメリットもある。

このようなオープン,かつスタンダードなデータ基盤の構築は,今後医療機関でも重要となってくるビジネスインテリジェンス(BI)や人工知能(AI)といったデータ活用の基盤にもなると,GEでは考えている。

しかし,現状,VNAでは,分散キャッシュを用いている場合にデータ修正が二度手間になり,分散キャッシュを使用していない場合にはデータ取得のスピード維持が困難であるという課題がある。これらの課題に対して,GEのVNAは,IHEのプロファイルであるIOCM(Imaging Object Change Management)に対応しており,分散キャッシュを同期させて修正できる。また,データ取得時のスピード維持についても,DICOM Web Servicesにより,8ビットJPEG画像ではないオリジナル画像をHTTPで高速に検索,取得,表示を行えるようにした。

京都大学医学部附属病院では,このようなGEのVNAをベースにしたVNA-OCDB(Open Connect Database)を構築し,効率的なデータ・マネージメントを実現している。

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