GE Healthcare Japan Edison Seminar 2019

2019年12月号

GE Healthcare Japan Edison Seminar 2019

【CT】Dual Energy CTのUpdateとディープラーニング画像再構成(TrueFidelity)の使用経験

立神 史稔(広島大学大学院医系化学研究科放射線診断学研究室)

立神 史稔(広島大学病院放射線診断科)

広島大学では,2017年9月にGE社製の「Revolution CT」を導入し,本装置で撮影する症例については,ほぼ全例に対してDual Energy撮影を行っている。本講演では,Revolution CTのDual Energy Imaging技術である“GSI Xtream”の特長と日常臨床における有用性について,また,近年注目されているディープラーニングを用いた画像再構成技術“TrueFidelity”の使用経験について報告する。

Dual Energy CTの臨床応用

1.GSI Xtreamの特長
Dual Energy CTは,異なる2種類のエネルギー(管電圧)で撮影を行い,得られたデータのCT値の差から含有されている組織を推定する。この時,撮影された2種類のエネルギーのデータは時間的・空間的に同一であることが望ましい。また,2つのデータ間の管電圧の差が大きく,画質(SD)がそろっている方が,精度の高いDual Energy解析が可能となる。
Dual Energy解析の手法には,image based approachとraw-data based approachの2つがあり,撮影方式も装置によってさまざまである。GSI Xtreamは,高速で管電圧を切り替えるFast kV Switchingを採用しており,投影データ上でのより高精度な解析が可能なraw-data based approachによって,良好なDual Energy画像が得られる。64〜128列のヘリカルスキャンに対応するほか,指定したDual Energy画像を撮影時に自動再構成しビューワに転送するため,きわめて高速な画像再構成が可能で,通常の撮影と同等のワークフローで画像を作成することができる。

2.主なDual Energy解析

1)仮想単色X線画像とSpectral HU curve
仮想単色X線画像は,単一のX線エネルギー(keV)で撮影したような画像を仮想的に作成する技術で,低keV(40keVなど)や高keV(140keVなど)の画像を後から再構成できる。また,画像上の任意の位置にROIを置くとSpectral HU curveが得られ,X線エネルギーの変化に伴う物質ごとのCT値の変化を可視化できる。

2)物質密度画像
物質密度画像は,人体を2種類の物質で構成されていると仮定して,それぞれの密度画像を作成する技術である。例えば,ヨードと水で構成されていると仮定し,ヨード部分のみを抽出すればヨード密度画像,水の部分のみを抽出すれば水密度画像が作成できる。GE社の「Advantage Workstation」では,強調したい物質と抑制したい物質のペアを一覧から任意に選択可能であり,150程度の組み合わせを簡単に作成可能である。

3)実効原子番号・電子密度
実効原子番号とは,あるボクセルが単一の原子だけで構成されていると仮定した時,そこに該当する原子番号のことである。自然界のものは既知であり,特定の物質や腫瘍の構成成分をより詳細に予測できる。われわれが以前行った検討では,さまざまな成分を有したファントムをDual Energy撮影し,各成分について真値と比較したところ,誤差は実効原子番号が約3.1%,電子密度が約1.3%で,臨床でも十分に使用可能である。

3.臨床使用経験

1)低keV画像・ヨード密度画像
低keV画像・ヨード密度画像では,造影剤の淡い濃染を強調できるため,造影効果の弱い腫瘍や撮影タイミングがずれた場合などに有用である。
症例1(図1)は,腹部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(EVAR)後のエンドリークであるが,ヨード密度画像(c)ではステント背側の淡い造影剤の漏出が明瞭である。EVARや胸部大動脈瘤ステントグラフト内挿術(TEVAR)後のエンドリークの評価には,Dual Energyがきわめて有用であり,検出能の向上につながると考える。

図1 症例1:EVAR後のエンドリーク

図1 症例1:EVAR後のエンドリーク

 

症例2は,肺がん疑いの症例である。右上肺野の2つの結節は,造影CT(図2 a)では造影効果が不明瞭であるが,低keV画像(図2 b)およびヨード密度画像(図2 c)では中枢側の結節のみが造影されていることがわかり,PETでも縦隔側の結節だけに強い集積が見られた。病理診断の結果,中枢側の結節は肺腺癌,末梢の結節は出血性梗塞であった。造影効果の程度のみで良悪性の鑑別は困難であるものの,一つのツールとして有用と考えられる。

図2 症例2:肺がん疑い

図2 症例2:肺がん疑い

 

低keV画像・ヨード密度画像は金属アーチファクト除去(MAR)ソフトウエアとの併用が可能な点も,非常に有用である。症例3は,肝細胞がんを有する症例で,左下横隔静脈にコイル留置後である。肝S1の淡い腫瘍濃染(図3 a)は,アーチファクトがあると指摘困難であるが,MAR併用のヨード密度画像(図3 b,c)でははっきりと同定できる。

図3 症例3:肝細胞がん,左下横隔静脈コイル留置後

図3 症例3:肝細胞がん,左下横隔静脈コイル留置後

 

GE社の肝臓の脂肪定量アプリケーション“GSI Liver Fat”は,Dual Energy撮影のデータから肝臓内の脂肪含有率を計測可能で,CT画像上の任意の場所にROIを設定すれば結果が数値で表示される(図4 a)。Fat mapでは,脂肪の多い部分がやや白く表示される(図4 b)ほか,カラー表示も可能である(図4 c)。

図4 肝臓の脂肪定量アプリケーションGSI Liver Fat

図4 肝臓の脂肪定量アプリケーションGSI Liver Fat

 

2)脂肪密度画像
脂肪密度画像では病変内の脂肪を検出できるため,腎血管筋脂肪腫や副腎腺腫などの確認に有用である。
CT値が19HUと若干高い右副腎腺腫の症例(症例4)について,脂肪密度画像からSpectral HU curveを作成すると,脂肪と同じ挙動の成分を含有していることがわかる(図5)。一方,副腎転移および副腎血腫では,副腎腺腫とは異なる挙動を示している。

図5 症例4:右副腎腺腫

図5 症例4:右副腎腺腫

 

3)水密度画像
水を強調してハイドロキシアパタイトを抑制する水密度画像は,骨髄浮腫や骨腫瘍,腰椎椎間板ヘルニアの描出に有用である。
症例5は,PET/CT(図6 c)にて肺がんからの多発骨転移が認められる。通常のCT(図6 a)では不明瞭であり,水密度画像(図6 b)を作成すると明瞭に描出された。原発巣の組織型によっても病変の見え方が異なると考えられることから,今後,症例を蓄積していきたい。

図6 症例5:肺がんからの多発骨転移

図6 症例5:肺がんからの多発骨転移

 

4.Dual Energy CTの可能性
Dual Energy CTによって,従来のCTでは評価できなかった物質の特性が明らかとなり,日常臨床において,幅広い疾患の検出能向上に寄与する。今後は,救急医療や放射線治療,Autopsy imagingなどへの応用が期待される。

TrueFidelityの使用経験

1.TrueFidelityの特長
TrueFidelityは,低品質な入力画像と高品質な教師画像のペアを用いてニューラルネットワークをトレーニングし,これに実際に撮影した低品質な画像データを入力すると,高品質な画像が生成されるという仕組みである。ノイズや画像テクスチャの変化が抑制されて画質が改善し,病変や臓器および血管の辺縁が明瞭となる。

2.臨床使用経験
症例6は,骨系統疾患疑いの胎児CTである。0.67mSvと低線量で撮影しているが,TrueFidelityではhybrid IRである“ASiR-V”と比較して大幅にノイズが低減し,テクスチャの劣化も目立たない(図7)。

図7 症例6:骨系統疾患疑いの胎児

図7 症例6:骨系統疾患疑いの胎児

 

冠動脈CTAの撮影においては,TrueFidelityは高分解能モード(High Definition:HD)との併用が可能であることも利点の一つである。実際の画像を見ると,HDモード+ASiR-Vでは,ASiR-V単独と比較して分解能は向上するもののノイズが著明に増加している。一方で,HDモード+TrueFidelityでは分解能を向上しつつノイズを低減している。さらに,線量を約1/4に低減しても,HDモード+TrueFidelityではテクスチャの大きな劣化は見られず,大幅な線量低減が期待される(図8)。

図8 冠動脈CTAにおけるHDモード+TrueFidelity

図8 冠動脈CTAにおけるHDモード+TrueFidelity

 

3.TrueFidelityの可能性
TrueFidelityは,入力画像の線量によらず一定の品質の画像を出力するため,低線量画像においても安定した画質改善が期待される。また,より適切なニューラルネットワークや教師画像を用いることで,さらなる画質改善や被ばく低減が望める。今後は,Dual Energy画像への適用も期待される。

 

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