経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

2018年12月号

経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

クラウドサービスを用いた地域医療連携促進の取り組み

和田 佑一(帝京大学ちば総合医療センター病院長)

和田 佑一(帝京大学ちば総合医療センター病院長)

本講演では,当院におけるクラウドサービスを用いた地域医療連携促進の取り組みについて,診療報酬も含めた医療政策の動向を交えて説明する。

当院における地域医療連携促進の取り組み

当院は,1986年に千葉県市原市に開院した,病床数475床の地域中核病院である。当院が所在する市原保健医療圏は,人口約28万人の市原市全域をカバーしている。このような医療環境の中で,当院は2005年に千葉県難病相談・支援センターの指定を受けたほか,地域医療連携室を設置。さらに,翌2006年には現在の帝京大学ちば総合医療センターに名称を変更した。
千葉県が策定した2018〜2023年の保健医療計画では,救急医療の需要増加への対応や,医療機関の機能分化と連携体制の構築について言及されている。当院でも,医療機関の機能分化と連携の必要性を踏まえ,2017年に地域救命救急センターの指定を受け,2018年には地域医療支援病院の承認を得るなど,地域医療での重要な役割を果たすべく展開している。また,2018年度の診療報酬改定では,地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化,連携の推進に対して評価がなされた。そこで,当院も総合入院体制加算3の算定施設となった。これにより,年間約7500万円の増収を見込んでいる。さらに,当院では,地域医療支援病院加算による年間約8000万円の利益を想定している。これらの算定を行う上で,医用画像データの管理・共有は重要であり,そのためのシステム構築が必要であった。加えて,Patient Flow Management(PFM)の観点からは,入院予定患者の情報を事前に把握することが重要であるため,画像データの収集にも取り組まなければならなかった。これについては,経営面でも入退院支援加算200点の算定にもかかわるため,連携先施設との間で画像情報の管理・共有が求められた。
このような状況を踏まえ,当院では,連携先6施設,市原市保健福祉センター(市原保健所)と地域医療支援病院運営委員会を発足し,2018年6月20日に第1回の会合を設けたほか,近隣の医療機関の医師を対象とした医療連携セミナーを開催している。さらに,地域の医療ニーズに対応するため,IVRセンターを設置した。IVRセンターでは,紹介患者の場合,事前に連携先施設からCDなどの可搬型媒体で検査画像が送られてくるが,セキュリティ上,オフラインのノートPCでこれらの画像を読み込むため処理に時間を要し,診療に支障を来していた。この問題を解決するため,専用のサーバーの導入を検討したが,コストが膨大にかかるため,断念せざるを得なかった。

Centricity 360 Suiteのパイロット運用

こうした中,GEから可搬型媒体を使用せずに,強度なセキュリティを持つクラウドサービスでデータを共有できる「Centricity 360 Suite」を提案された。Centricity 360 Suiteを導入することで,CDなどの作成・送付・読み込みにかかる費用の削減や,スタッフの作業負担の軽減,診療までに要する時間の短縮が期待できた。また,電子メールを送受信するような操作性で,容易に利用できることから,地域医療連携には最適なツールだと考えた。そこで,帝京大学本部の了解を得た上で,7月10日には当院でワーキンググループを開催。さらに,7月前半から後半にかけて,地域医療支援病院運営委員会の6施設と運用についてのフォローアップを実施し,並行してCentricity 360 Suiteを利用する施設のユーザー登録も行った。これらの取り組みを経て,8月上旬からパイロット運用がスタートしている。
パイロット運用は,従来の運用との差を見るために,以下の3段階で行う予定である(図1)。まず第1段階として,当院から連携先施設に画像を送る場合,PACSのデータを直接Centricity 360 Suiteに送信せずにCDを用いる。放射線部がPACSにあるデータから従来どおりCDを出力し,それをインターネット接続可能なPCで読み込み,Centricity 360 Suiteにアップロードしている(図2)。インターネットを通じたデータの送信には,利便性の観点から,高いセキュリティを担保できる通信プロトコルTLS1.2を用いた。また,クラウドセキュリティ監視システムが常時監視しており,強固なセキュリティを確保した(図3)。患者のデータがCentricity 360 Suiteにアップロードされると,連携先施設には通知が送られ閲覧可能となる。また,CDも連携先施設に届けられる。次の第2段階では,連携先施設もCDの出力とCentricity 360 Suiteへの画像送信を行い,双方向での情報共有を行う。さらに,第3段階では,CDの運用を廃してCentricity 360 Suiteだけとする。
なお,画像をアップロードする場合は,Centricity 360 Suiteのトップ画面からユーザー名とパスコードを入力してログインし,症例作成の画面上で送信先や画像・文書などの添付ファイルを選択する。添付ファイルは,DICOMデータや汎用ファイルに対応している。さらに,メッセージ欄に,診療の予約などを記載することも可能である。一方,データを閲覧する場合は,「受信Box」のリストを選択して画像を表示させる。受信者が受信完了の返信をすると,送信者にその通知が届く仕組みとなっている。

図1 3段階でのパイロット運用

図1 3段階でのパイロット運用

 

図2 パイロット運用でのデータフロー

図2 パイロット運用でのデータフロー

 

図3 セキュリティ面を考慮したネットワーク

図3 セキュリティ面を考慮したネットワーク

 

まとめ

これまでの医療は病院中心であり,部門別に診療が行われていたため,システムも閉鎖的で,患者データが分散してしまうとともに,データ量の増大化につながっていた。しかし,今後は患者中心の医療へと転換し,オープンな相互接続性の確保と,セキュアなコミュニケーションツールによって,施設間の情報共有が進み,患者データが統合されていくだろう。また,今後は患者中心に,病院同士,医師同士がつながっていくと思われる。
このような方向性を見据えて取り組んでいる当院のCentricity 360 Suiteのパイロット運用は,患者紹介時にCDの作成・送付・読み込み業務が軽減されたほか,転院の是非を事前に専門医へ相談でき,連携先施設からの優先的な患者紹介のきっかけになるといったアウトカムが得られている。

TOP