セミナーレポート(GEヘルスケア・ジャパン)

第78回日本医学放射線学会総会が2019年4月11日(木)〜14日(日),パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された。14日(日)に行われたGEヘルスケア・ジャパン株式会社共催ランチョンセミナー24では,富山憲幸氏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室教授)が司会を務め,「MR技術革新の新たな潮流:患者に寄り添って」をテーマに,堀 雅敏氏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室講師)と野上宗伸氏(神戸大学医学部附属病院放射線部特命准教授)が講演した。

2019年8月号

第78回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー24 MR技術革新の新たな潮流:患者に寄り添って

AIRテクノロジーと最新アプリケーションによる体幹部MRの進歩

堀  雅敏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室)

2018年12月,大阪大学では,3台設置している3T MRIのうち1台を「SIGNA Architect」に更新した。導入当初,ソフトウエアはDV26であったが,2019年1月にDV27にバージョンアップしている。
本講演では,SIGNA Architectの新機能,特に“AIR Technology”について紹介した上で,臨床画像も供覧する。

SIGNA Architectの新機能

最新の3T MRIであるSIGNA Architectには,多くの新機能が搭載されている。DV26では,RF送信最適化と信号補正により信号の均一性を向上する“reFINE”,局所選択による3Dボリューム撮像“HyperCube”,圧縮センシング“HyperSence”,体動アーチファクトを抑制する“PROPELLER MB”を使用できるようになった。
そして,DV27では,マルチショットDWI“MUSE”が実装され,高SNRで歪みの少ないDWIの画像を取得可能になった。さらに,DV27で非常に重要な技術がAIR Technologyである。

AIR Technologyの概要

当大学ではDV27へのバージョンアップに伴い,30chの“AIR Technology Anterior Array (AIR AA)Coil”を導入した。毛布のように柔らかく,カバレッジは65cmと体幹部,腹部,骨盤部などを十分にカバーできるサイズで,さまざまな体格の患者の撮像部位に巻きつけるように密着させてセッティングすることが可能である。
AIR Technologyのコイル(AIRコイル)は,“INCAワイヤー”という特殊なワイヤーと低電力プリアンプモジュールで構成されており,変形したり,コイル同士が重なっても性能を保つことができる。AIR AA Coilには,大きなコイルが高密度に30個配置されており,高いSNRと深部方向の感度を両立している。従来コイルと比べて約60%の軽量化を実現し,患者負担の軽減にも貢献する。また,従来コイルと比較してAIRコイルのSNRは,体表に近いところから深部まで高く,画質性能も非常に向上している。

SIGNA Architect+AIRコイルの臨床画像

AIRコイル導入後の経験から,3つの観点で臨床画像を紹介する。

1.SNR向上と深さ方向の感度均一性
図1は肝囊胞症例で,バージョンアップ前後に検査を行っている。以前の画像(b)は,画像の中心が黒く,背中側や腹壁側が白くなっていたが,SIGNA ArchitectとAIRコイルの組み合わせ(a)では均一性が大きく向上している。

図1 肝囊胞(60歳代,男性)

図1 肝囊胞(60歳代,男性)

 

図2は転移性肝がん症例で,1.6mmスライス厚,21秒息止めで撮像しているが,薄いスライス厚でも高SNRで均一性の高い画像を得られている。
また,子宮体がん疑いで大きな体格の患者(体重130kg)の検査を行ったが,SSFSE,DWI,T2強調サジタル画像は,いずれも非常に均一性の高い画像を得ることができた。
このように,SIGNA ArchitectとAIRコイルによる撮像は,深部の信号も高く,撮像範囲内の均一性が良好で,深部から表面近くまで良好に描出することができる。SNRの高さは薄いスライス厚での撮像に有効であり,また,体格の大きな患者でも良好な画像を取得することができる。

図2 転移性肝がん(50歳代,男性)

図2 転移性肝がん(50歳代,男性)

 

2.スキャン時間の短縮と高分解能撮像
図3は,640×640マトリックスの高分解能FS-T2強調画像で,呼吸同期4分24秒で撮像している。均一性が高く,膵臓部を拡大しても明瞭に描出されていることがわかる。

図3 高分解能画像

図3 高分解能画像

 

図4 bは,圧縮センシングHyperSenceを用いたMRCPであるが,通常の呼吸同期(RTr)撮像(図4 a)と比較し,マトリックスサイズを上げながらも撮像時間を短縮できている。さらに,HyperSenceの方が,肝内の細い胆管や膵管を明瞭に描出できている。

図4 HyperSence(MRCP)

図4 HyperSence(MRCP)

 

また,MUSE(マルチショットDWI)は,ショット間の位相補正を行うことで高SNRと歪みの低減を実現し,磁化率アーチファクトが問題になる領域での効果が期待できる。図5は前立腺肥大症の症例で,従来の撮像(a)に比べてMUSE(b)ではより良好な画像を得られている。拡大像(d)も局所励起によるFOCUS(c)と遜色なく,MUSE撮像だけで対応できる可能性もある。

図5 MUSE(前立腺肥大症,70歳代,男性)

図5 MUSE(前立腺肥大症,70歳代,男性)

 

次に,局所選択による3D FSEボリューム撮像が可能なHyperCubeを用いた症例を図6に示す。元画像は約4分で撮像でき,任意断面での再構成が可能である。画質の向上が望まれるが,今後,短時間撮像で任意断面を観察できるようになると期待される。
SIGNA ArchitectとAIRコイルの組み合わせにより,T2強調画像,MRCP,DWIなどの高空間分解能画像を短時間で取得できる。また,AIRコイルは装着が容易なため,小児など素早く実施したい検査では有用である。

図6 HyperCube(前立腺肥大症,70歳代,男性)

図6 HyperCube(前立腺肥大症,70歳代,男性)

 

3.アーチファクトの低減
PROPELLER MBは,マルチショットブレード収集が可能で,短いTEでの撮像ができる。全身領域で任意断面を撮像でき,横隔膜同期を併用することも可能である。
図7は肝細胞がん症例で,呼吸運動が不均一であったが,PROPELLER MB(b)によりモーションアーチファクトのない明瞭な画像を得ることができた。
また,PROPELLER MBは磁化率アーチファクトにも有効である。AIRコイルではASSETを4.0まで上げることができ,空気による磁化率アーチファクトを低減することができる。
このようにPROPELLER MBは,上腹部・骨盤部ともアーチファクトを効果的に低減でき,PROPELLERに特有のアーチファクトも少ない印象である。また,DWIではASSETファクタを高くすることで歪みを低減することができる。

図7 PROPELLER MBによる体動アーチファクトの低減(肝細胞がん症例,60歳代,男性)

図7 PROPELLER MBによる体動アーチファクトの低減
(肝細胞がん症例,60歳代,男性)

 

まとめ

当大学での初期使用経験から,SIGNA ArchitectとAIR Technologyによる撮像は,画像の信号均一性が良好で,特に深部の画質が向上することがわかった。また,AIRコイルと最新アプリケーションを用いることで,画質や検査効率の向上が認められた。

 

堀  雅敏

堀  雅敏(Hori Masatoshi)
1993年大阪大学医学部卒業。2001年大阪大学博士課程修了。2002年大阪大学医学部助手。2008年シカゴ大学に留学。2015年から大阪大学医学部講師,腹部放射線診断グループチーフを務める。専門は腹部画像診断。

 

 

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