セミナーレポート(GEヘルスケア・ジャパン)

第78回日本医学放射線学会総会が2019年4月11日(木)〜14日(日),パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された。14日(日)に行われたGEヘルスケア・ジャパン株式会社共催ランチョンセミナー24では,富山憲幸氏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室教授)が司会を務め,「MR技術革新の新たな潮流:患者に寄り添って」をテーマに,堀 雅敏氏(大阪大学大学院医学系研究科放射線統合医学講座放射線医学教室講師)と野上宗伸氏(神戸大学医学部附属病院放射線部特命准教授)が講演した。

2019年8月号

第78回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー24 MR技術革新の新たな潮流:患者に寄り添って

PET/MRI:同時収集がもたらすクリニカルインパクト〜PET/CTと何が違うか?〜

野上 宗伸(神戸大学医学部附属病院放射線部)

PET/MRIは優れた臨床的有用性が認められているが,PET/CTに比べ普及が遅れている現状がある。本講演では,その背景とPET/MRIの課題について考察し,PET/MRIが臨床に与えるインパクトについて述べる。

PET/MRIの登場

PET/CTは,機能画像と形態画像の融合画像を提供できること,また,CTによる吸収補正で検査時間を大幅に短縮でき,高スループットで検査可能なことから,急速に普及した。PET/MRIが登場した時は,PET/CTのCTがMRIに替わっただけのような印象を受けたが,実際に使用するとPET/CTとはまったく別物と認識するようになった。
PET/MRIは,PET/CTの登場から10年近くを経て製品化されたが,これは,PETの光電子増倍管(フォトマル)が磁場に弱く,磁場の影響を受けない半導体フォトマルの開発に時間を要したためである。半導体フォトマルの開発により,PET検出器モジュールをMRI内部に配置可能となり,PETとMRIの同時収集が可能となった。
GE社は,「Discovery MR750w 3.0T」をベースに開発した「SIGNA PET/MR」を2015年に国内発売を開始した。MRIのソフトウエアはDV24が搭載され(DV26相当にアップグレード可能),コイルも同じものが使用できる。全身検査では頭頸部から下肢までコイルを装着するため,患者の負担を軽減するために“AIR Technology”の適用が待たれる。

PET/CTとPET/MRIの違い

装置の構造としては,PET/CTはPETとCTが並列した一体型なのに対し,PET/MRIはMRIのガントリ内にPET検出器が配列されている完全一体型である。PET/CTでは,全身のCTを撮影後,PETを順次撮像し,画像を重ね合わせるため,体動や膀胱の拡張,消化管の蠕動などにより融合画像にズレが生じる。一方,PET/MRIは,PETとMRIを同時に撮像できるため,融合画像の精度が非常に優れていることが,臨床上,大きなアドバンテージとなる。また,呼吸同期や心電図同期も同時収集できるため,PETがMRIの造影剤のような役割を果たすと言えるかもしれない。
図1は子宮肉腫の症例であるが,子宮肉腫以外にも子宮内膜に限局したFDG異常集積を認める。MRI単独では異常集積部位を指摘できなかったが,FDG-PETの限局性集積から子宮体がんと考えられ,手術にて子宮体がんと確認された。子宮体がんはリンパ節郭清が標準治療となるため,リンパ節郭清の要不要の判断を可能にするFDG-PETの情報は非常に重要であった。本症例は,他院で実施したPET/CTでも異常集積が認められたが,子宮肉腫との鑑別はできなかったことから,同時収集による高コントラストのMRIとFDG-PETの融合画像は,診断における有用性が高いと言える。

図1 子宮肉腫,子宮体がん

図1 子宮肉腫,子宮体がん

 

拡散強調画像との対比

PET/MRIでは,FDG-PETとMRIによる全身拡散強調画像(DWIBS)を同時に撮像できる。FDG-PETと拡散強調画像は似たような画像になることが多いが,描出しているものは異なるため,当然ながら違う画像になることもある。
図2の悪性リンパ腫(MALT)症例では,拡散強調画像(b)では胸膜病変,唾液腺の異常信号が明瞭だが,MALTは糖代謝が非常に低いためFDG-PET(a)ではほとんど集積が認められない。このような症例は,治療効果判定を拡散強調画像で行うという判断ができる。

図2 悪性リンパ腫(MALT)

図2 悪性リンパ腫(MALT)

 

図3の症例は,FDG-PET(a)と拡散強調画像(b)ではまったく異なっている。FDG-PETでは骨髄に強い集積があるが,拡散強調画像では信号変化は見られない。本症例は,骨髄生検標本にて多数の腫瘍細胞が確認され,血管内悪性リンパ腫であった。血清フェリチンが高値であったため病歴を確認したところ,1か月前に輸血しており,輸血後鉄過剰症による骨髄へのヘモジデリン沈着で拡散強調画像の信号が顕著に低下し,FDG-PETとの不一致が生じていることがわかった1)

図3 血管内悪性リンパ腫

図3 血管内悪性リンパ腫

 

PET/MRIの課題と考察

PET/MRIの課題として,スループット,保険適用疾患が限定的,PETの吸収補正の正確性,高額の4点が指摘されるが,これらの課題は解決しつつある。

●スループット
SIGNA PET/MRのソフトウエアはDV26相当にアップグレード可能なため,最新アプリケーションを利用できる。スループットについては,MRIの高速撮像技術が進歩しており,圧縮センシング“HyperSence”を用いることで,画質劣化なく撮像時間を半分ほどに短縮できる。また,3Dボリューム撮像“HyperCube”も有用と考える。large FOVのT2強調画像のため,局所励起のHyperCubeは適さないように思われるかもしれないが,PETとの融合画像としては最適である。1ベッドあたり2〜3分で撮像でき,PETと同時収集すれば検査時間に影響しない。
さらに,PETの高速撮像技術も発達している。従来の画像再構成法“OSEM”では収集時間を短くすると画質が劣化するが,新しい画像再構成法“BSREM(Q.Clear)”では,短時間収集でも画質の劣化を抑えることができる(図4)。
PET/MRI導入当初は,1日あたりの検査件数は4件程度だったが,現在は高速撮像技術により1日あたり約8件と,スループットが大きく向上した。

図4 PET画像再構成法の比較

図4 PET画像再構成法の比較

 

●限定的な保険適用
PET/MRIの保険適用は現在,直腸以外の消化器がん,肺がん,肝胆膵がんに適用がなく,かつ悪性腫瘍以外への適用もない。しかし,同時収集により蠕動による位置ズレがほとんどないPET/MRIは,腸管の生理的集積を評価できるため,直腸以外の消化管でも利用できると考える(図5)。また,肝胆膵がんについてはMRCPを使えるため,3D画像とFDG-PETを重ねることで,非常にわかりやすい画像を得ることができる(図6)。

図5 消化管のPET/MRI融合画像

図5 消化管のPET/MRI融合画像

 

図6 肝胆膵のPET/MRI融合画像

図6 肝胆膵のPET/MRI融合画像

 

さらに,肺がんについては,zero echo time(ZTE)法などを用いて非常に短いTEでMR撮像すると,肺も描出可能である。そこにFDG-PETを重ねることで,肺がん評価にも利用できると考える(図7)(以下,肺への応用はすべてW.I.P.)。同時収集による呼吸同期下撮像をできることも,PET/CTと比べて優位性が高い。高精度の融合画像により,腫瘍のどの部分の糖代謝が高いかや,気管支や血管との位置関係も評価でき,病変の鑑別診断にも利用できると思われる。腫瘍だけでなく,間質性肺炎の評価や動画像での検討も進めているが,位置ズレがないことに加え,被ばくがない点においても,PET/CTよりも優位性が高いと言える。エビデンスを蓄積することで,将来的にはPET/CTと同等の保険適用になるべきだと考えている。

図7 肺がんのPET/MRI融合画像(W.I.P.)

図7 肺がんのPET/MRI融合画像(W.I.P.)

 

●PETの吸収補正の正確性
PET/MRIでは骨が写らないため吸収補正が不正確だと言われてきたが,最近では,ZTE法を利用した骨の描出や,人工知能(AI)を用いた吸収補正マップ作成の試みも始まっている。呼吸同期下の吸収補正が可能なことを考慮すると,PET/CTよりも正確性が高い可能性もある。

●高 額
PET/MRIの装置価格が高いのは,半導体フォトマルの“SiPM”が高価なことが大きな要因となっている。SiPMは検出器性能が優れていることから,近年はPET/CTにも搭載されるようになっており,SiPM搭載のPET/CTが普及することで,PET/MRIのコストも低減することが期待される。

まとめ

PET/MRIにはさまざまな課題があったが,これらはすべて解消しつつある。異なるモダリティの画像を同時収集できることがPET/MRIの最大の利点であり,今後は,同時収集を生かした有用性の評価が必要である。

●参考文献
1)Zeng, F., et al., Clin. Nucl. Med., 43・5, 361〜362, 2018.

 

野上 宗伸

野上 宗伸(Nogami Munenobu)
1999年神戸大学医学部卒業。2009年神戸大学医学部放射線科特命助教。同年ドイツ・シャリテ医科大学リサーチフェロー。2010年高知大学医学部附属病院PETセンター部長,放射線科講師。2015年神戸県立がんセンター放射線診断科医長。2017年神戸大学医学部附属病院放射線腫瘍科特命講師。2018年より同院放射線部特命准教授。

 

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