技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2012年11月号

CT最新技術紹介

「Discovery CT750HD FREEdom Edition」の技術的特長

平本卓也(CTセールス&マーケティング部)

Discovery CT750HD 」は,“See More” “Know More” “Less Dose”をコンセプトに,進化し続けてきた。“See More”では,心臓を含む全身領域で高分解能画像を実現し,“Know More”では,「GSI(Gemstone Spectral Imaging)」によるspectral画像・物質弁別・物質密度解析などや,「VHS(Volume Helical Shuttle)」による4D検査を可能としてきた。加えて,“Less Dose”では,「ASiR」を使用することで,画質をキープしたまま,従来検査の約半分まで被ばく量を低減することが可能となった。特に,2011年リリースした「Veo」(完全なモデルベース逐次近似再構成で,別途装置が必要)を使用することで,一般X線検査レベルまで被ばくを落とすことも可能になってきた。
2012年にリリースした「Discovery CT750HD FREEdom Edition」は,これまでの機能に加えて,循環器に特化した新しい技術を搭載し,心臓CTの課題であった部分を大きく改善するポテンシャルを持つと思われ,今回紹介する。

■「SnapShot Freeze」

さまざまな論文からもわかるように,冠動脈の動きは心拍だけでなく,LAD,LCX,RCAなど,vessel単位でも異なり,segment単位でも完全に一致するわけではないため,同じ心拍で同じ時間分解能のCT検査を行っても,100%冠動脈が停止した画像を得られるわけではない。また,個人差も大きく,時間分解能を向上させるだけでは限界があった1),2)図1)。

図1 心周期による冠動脈移動速度の変化

図1 心周期による冠動脈移動速度の変化

 

そこで,心拍数に対し固定された時間分解能しか得られない従来の心電同期撮影と異なる考えで作られた,SnapShot Freezeという新しい技術を開発した。
原理は,心電同期撮影で得られたデータの指定したphase(あるいは指定絶対時間)±80ミリ秒の時間軸を持った4Dデータを用いて,冠動脈の中心を自動的にトラッキングする。さらに,単位時間あたりに冠動脈がX-Y-Zの方向へどのくらい移動しているのかをベクトル演算にて求める。いわゆる動態解析や流体解析に用いられる手法の1つで,高い精度で冠動脈の動きをトレースし,元のあるべき位置と形状を修復し,モーションアーチファクトも減少させる技術である(図2)。

図2 SnapShot Freezeのインテリアルゴリズム

図2 SnapShot Freezeのインテリアルゴリズム

 

実際の検査の流れとしては,まず「SnapShot Assist」という機能と連動し,単純撮影時などの息止め時のデータなどを利用し,管電圧・管電流・撮影方式・撮影ピッチ・再構成方法・再構成位相などを全自動設定する(施設ごとに条件のカスタマイズは可能)。その後,SnapShot Freeze用のデータが再構成され,Advantage Workstationと連動して,冠動脈の動きを抑制するプロセスとなる。実際には,これらの流れはバックグラウンドで処理されるため,自然な流れで完結する。
その結果,得られたデータを紹介すると,従来の再構成では冠動脈のモーションボケにより,血管の状況が判断つかないような画像が,SnapShot Freezeではモーションボケがほとんど無視できるレベルまで大きく改善していると思われる(図3)。このように診断能を上げていく効果のほかに,モーションによる影響を小さくするため,懸命にphaseを探す時間が大幅に減り,ワークフローを大きく改善する効果も考えられる。

図3 SnapShot Freezeのワークフロー

図3 SnapShot Freezeのワークフロー

 

■「GSI Cardiac」

GSIは,いままで体幹部でさまざまなデュアルエネルギー検査を行ってきた。そしてDiscovery CT750HD FREEdom Editionでは,心電同期GSIであるGSI Cardiacが可能となった。ただ単に心電同期デュアルエネルギーを行っても,動きの影響でデュアルエネルギー時間分解能が悪いと,ミスレジストレーションにより,評価が不可能なレベルになってしまう。GSIでは,高速にkVをスイッチングするため,これらの影響を無視できるレベルにあるのが,大きな臨床メリットにつながる(図4)。

図4 ミスレジストレーションを抑えるUltra Fast kV Switching

図4 ミスレジストレーションを抑えるUltra Fast kV Switching

 

GSI Cardiacでは,いままでにない心臓CT解析法を有するが,そのうちいくつかを紹介する。図5は,iodine密度画像を利用したrelative perfusionである。GSIの特徴の1つでもある,iodineビームハードニング補正により,従来であれば心筋評価をしようとした場合に,評価困難となっていた右心室と大動脈に挟まれた心筋部分のビームハードニングによるCT値の低下が見られず,クリアな判断が可能ではないかと言われている。同図の心尖部に血流が低下したような画像が得られており,その時のiodine密度値は,ほかの関心領域の1/5以下にも満たないことがわかった。

図5 iodine密度画像を利用したrelative perfusion

図5 iodine密度画像を利用したrelative perfusion

 

別の症例では,物質弁別を利用し,プラークの性状評価を正確にできる可能性を示唆している。従来のCTであれば,“脂質に富んだもの”か“線維性に富んだもの”なのかは,CT値での判断に委ねられ,文献によりその判断基準はまちまちであった。また,ビームハードニングの影響も大きく受けているため,その判断基準には限界があり,精度に疑問符を打たれていた。GSI Cardiacでは,生データベースデュアルエネルギーが可能とする物質密度画像を作成できる。図6では,いままでのCT表示と,脂肪密度画像+単色X線等価画像で比較しているが,CT値でカラー表示をするのではなく,脂肪密度画像を使うことで,脂質をカラーで表し明快な表現を可能とした。さらに,その成分に対し,実効原子番号を使ったスペクトル分析してみると,Fatの実効原子番号と同じピークを示し客観的表現も可能となった。

図6 従来CT表示法と脂肪密度画像+単色X線等価画像の比較

図6 従来CT表示法と脂肪密度画像+単色X線等価画像の比較

 

Discovery CT750HD FREEdom Editionでは,心臓検査をより簡単なものとし,かついままでは難しかった評価方法が使用できる。この結論に至ったのは,単純にいままでのCT進化の流れに乗るだけでは新しい領域の開拓はできないということである。GEでは積極的に新しい技術を提供していくことで,新しい領域へCTの持つ可能性を引き上げようとする強い思いがあり,それが,SnapShot FreezeやGSI Cardiacのような新しい技術を生み出した。患者さんへより良い医療が提供されるためには,「質の高い検査」と「質の高い治療戦略」がイコールになることが,最終的には必要であり,それに直結するCTに向けて大きな一歩を踏み出した。これからも,より良い医療につながるCTをめざし,新しい技術開発を軸に研究に取り組んでいく。

●参考文献
1) Husmann, L., Leschka, S., Desbiolles, L., et al. : Coronary artery motion and cardiac phases ; Dependency on heart rate─Implications for CT image reconstruction. Radiology, 245・2, 567~576, 2007.
2) Sun, G., Li, M., Li, L., et al. : Optimal systolic and diastolic reconstruction windows for coronary CT angiography using 320-detector rows dynamic volume CT. Clinical Radiology, 66・7, 614~620, 2011.

 

【問い合わせ先】CTセールス&マーケティング部 TEL 0120-202-021

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