技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2013年9月号

Step up MRI 2013-MRI技術開発の最前線

GE MRI非侵襲アプリケーションの紹介

貝原  雄(MRセールス&マーケティング部)

近年のMRI技術開発において,MRI検査室内での信号デジタル化・光伝送システムとともに,ワイドボア/ワイドフレアやLEDライト,木目調デザインといった患者の負担を和らげる新しいガントリデザインの採用は,ひとつのトピックスとして挙げられるだろう。GEでも,すべてのクラスにおいてデジタル光伝送技術“OpTix”とケアリングデザインを採用したモデルを市場に導入し,より快適な検査環境下で高精細な画像を提供できるようになった。その一方で,MRI特有の情報を生かしたアプリケーションの開発も急速に進んでおり,その特長も多岐にわたっている。
GEでは,「MR検査にやさしさと快適さ」をもたらすさまざまな技術を“Humanizing MR”というコンセプトのもとに開発しており,本稿では,代表的な非侵襲的かつ高精度なアプリケーションをいくつか紹介する。

■最新の非侵襲アプリケーション

1.3D ASL

頭部の非造影パーフュージョン撮像技術である3D ASLは,脳血流(CBF)を三次元的にマッピングするアプリケーションである(図1)。血流のラべリングに連続波を利用するpCASL法を用いているため,従来のPASL法と比較し高いラべリング効率が得られるのが特長である。また,データ収集には3D FSE法を用いているため,従来のEPI法よりも高SNRで歪みを低減することが可能で,実際に1.5T MRIであっても,多くの施設で臨床応用が普及しているアプリケーションである。

図1 CBFカラーマップとCube T1の3Dフュージョン Advantage Workstation使用

図1 CBFカラーマップとCube T1の3Dフュージョン
Advantage Workstation使用

 

2.MR TouchとIDEAL-IQ

慢性肝疾患に対するMRIを用いた定量的アプローチとして注目を集めているのが,肝臓の相対的硬さを評価する“MR Touch(MRエラストグラフィ)”と,肝臓内の脂肪沈着を評価するアプリケーション“IDEAL-IQ”である。肝線維化ステージングや肝内脂肪・鉄沈着量の測定には,通常,針生検が用いられているが,出血を伴うために侵襲的であり,重篤な合併症の危険性やサンプリングエラーによる病理医ごとの診断のバラつきも問題点として挙げられている。さらには,一般的に入院が必要になることから,患者の負担も大きく,繰り返し検査を行いづらい環境であった。このような背景のなか,MRIを用いた非侵襲的かつ正確な肝機能評価法として,本技術は2012年,国内導入された。
MR Touchは,音波を発生させる外部加振デバイスと,発生した振動を肝臓に与えるデバイスを用いて胸壁を揺らし(図2),胸壁から伝わった振動波が肝臓内を通過していく様子をMRIの位相画像を用いてカラーで可視化する(Wave Image)技術である。可視化した振動波の波長変化を計算することによって,結果的に肝組織内を相対的硬さによって色分けしたElastogram(弾性マップ)が得られる(図3)。Elastogramの画像上にROI(関心領域)を設定することで得られる数値は,肝臓の相対的な硬さを反映している。

図2 MR Touch技術概要

図2 MR Touch技術概要

 

図3 線維化の進んだ肝臓におけるElastogram

図3 線維化の進んだ肝臓におけるElastogram

 

IDEAL-IQは,水・脂肪分離技術であるIDEALを発展させ,6ポイントDixon法を用いることでR2(T2の逆数)マップを作成・T2補正を行い,鉄沈着のある患者においても正確な水・脂肪分離を可能としたアプリケーションである1)
一度のMR撮像で,通常のT1強調画像だけでなく,肝臓組織の水画像,脂肪画像,脂肪含有率マップ(fat fraction),R2マップが同時に得られ,脂肪含有率マップ上にROI(関心領域)を設定するとROI内の脂肪含有の程度が表示されるため,脂肪沈着の評価に有用と言われている(図4)。
なお,R2マップは,鉄沈着によるT2減衰を間接的にマッピングしている画像と考えられる。

図4 治療前後における脂肪含有率マップ (画像ご提供:Dr. Scott Reeder, University of Wisconsin Madison, WI)

図4 治療前後における脂肪含有率マップ
(画像ご提供:Dr. Scott Reeder, University of Wisconsin Madison, WI)

 

3.MAVRIC-SL

MAVRIC-SLは,マルチスペクトラルRFによる励起と画像再構成を行う技術であり,MR conditionalな整形外科用の金属インプラントによる磁化率アーチファクトを低減し,デバイス周辺の軟部組織,および骨の情報を得るためのアプリケーションである。3D FSE法によるPDW撮像,STIR法を用いた脂肪抑制撮像に対応しており,3D VAT(view angle tilting)法による正確なスラブ選択と歪み補正を行っていることが特長である。人工関節置換術において,埋め込まれたデバイスのルーズニングやデバイス周辺の炎症の有無,皮質骨の状態など,従来のMRIでは得られなかった情報が得られ,今後の国内臨床応用が期待される(図5)。

図5 MAVRIC-SLによる磁化率アーチファクトの低減 (画像ご提供:Hospital for Special Surgery, New York)

図5 MAVRIC-SLによる磁化率アーチファクトの低減
(画像ご提供:Hospital for Special Surgery, New York)

 

■サイレントスキャン技術(Works In Progress)

サイレントスキャン技術は,MRI検査におけるスキャン音を,従来のように“低減する”のではなく,そもそも“発生させない”技術で,スキャンを行っていないMRI検査室の環境音とほぼ同じ騒音レベルでの撮像を実現する。3Dのラジアル状にk-spaceを充填する新しいパルスシーケンスであり,併せて特殊な傾斜磁場波形,特殊なRF波形を用いてMRIの「サイレント」な状態をつくり出すため,きわめて追従性の高い電源系と,超高速に送受信を切り替えるRFスイッチを搭載したコイルが必要となる。
実際にサイレントスキャンを用いた3D T1強調画像では,従来法に比べわずかに撮像時間の延長はあるものの,撮像音はわずか65dBと,ほぼ撮像しない状態と変わらなかった(図6)。

図6 従来法とサイレントスキャンによる撮像比較例

図6 従来法とサイレントスキャンによる撮像比較例

 

■今後の展望

本稿で紹介した3D ASLは,2010年のリリース以降,すでに国内200以上の施設で広く臨床活用されており,2012年に販売を開始したMR TouchやIDEAL-IQに関しても,多くの施設で臨床利用が始まっている。今後導入が期待されるMAVRIC-SLやサイレントスキャン技術は,高齢患者が多い日本では特に需要が高い。そのほかにも,小児やリハビリの患者,ドック等の健常者においても,快適に正確なMRI検査が受けられるという利点があることを考えると,早い段階での国内導入が期待される。

* ディスカバリーMR750w 医療機器認証番号:223ACBZX00061000

●参考文献
1)Meisamy, S., et al. : Quantification of Hepatic Steatosis with T1-independent, T2*-corrected MR Imaging with Spectral Modeling of Fat: Blinded Comparison with MR Spectroscopy. Radiology, 258・3, 767〜775, 2011.

 

【問い合わせ先】MRセールス&マーケティング部 TEL 042-585-9360

TOP