技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2016年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

Q.SUV:新しいPET画像再構成法“Q.Clear”からの提案

関口 康晴(MI営業推進部)

PET/CTは,医師が疾患を発見するための貴重な情報を提供する。現在,PET/CTの臨床における活用方法として一番に挙げられるものに,腫瘍における病期診断がある。そのほか,治療効果判定や化学療法中での予後予測への応用などは,その必要性が高くなってきている分野である。PETの診断では,しばしばPET画像から得られるstandardized uptake value(以下,SUV)が用いられる。
PETの画像再構成法は,近年逐次近似再構成法が用いられ,その中でもサブセットを用い収束を早めたordered subset expectation maximization(以下,OSEM)法1)が最も多く使用されている。しかし,OSEM法は繰り返し演算ごとに画像上にノイズが生じるため,収束が十分できず,基本的には2〜4回の逐次回数で打ち切ることでノイズの発生を抑えている。結果として読影においては,未収束の画像を使用しているが,病変の定量性に影響を与えていることが知られている。そこで収束の問題を解決し,定量精度を高めるため,block sequential regularized expectation maximization(BSREM)法を用いた画像再構成法“Q.Clear”2),3)が開発された。Q.Clearは定量精度を高めるため,画像再構成に画質に関する事前情報を組み込み,隣接するボクセル値の差を抑制することで,十分な収束を実現し,結果としてOSEM法よりも定量精度とSNRの両者を向上できる。

■従来法とQ.Clearの違い

前述したOSEM法に代表される従来の逐次近似再構成法の問題点は,図1のように簡単なシミュレーションによって実証することができる。2つの同じサイズ・放射能濃度の小さなhot球を用意し,1つは2つの均一な楕円ファントムの間に配置して,OSEM法で逐次回数2回と25回の再構成画像を作成すると,十分に収束させた25回の逐次回数画像ではコントラストは向上し,またボケやカウント過小評価が軽減できるが,均一楕円ファントムのノイズは増加している。

図1 収束の効果についての疑似シミュレーション

図1 収束の効果についての疑似シミュレーション
逐次回数は,aの画像が2回,bの画像が25回でOSEM法によって再構成されている。
逐次回数2回では,空間の歪みと,カウントの損失が認められた。

 

図2は,実際のPET検査に,既知の放射能を持ったhot球を追加して撮像したものである。hot球はSUVが14.0になるように調整されている。同一のPETデータを用い,OSEM法で逐次回数を2回と25回の画像およびQ.Clearで再構成した画像を比較したものである。OSEM法逐次回数2回の場合,SUVは真の値よりも42%低い8.2であり,25回の場合ではSUVは実際の値にかなり近づくが臨床での読影に堪えられないほどSNRの劣化が認められる。それに対して,Q.Clear画像では,十分な収束とともに14.0のSUVを算出し,画質の劣化も発生していない。この実験で,Q.ClearのSNRは逐次回数が2回のOSEM法の約2倍に達した。

図2 Q.Clearの再構成を実証するための臨床実験

図2 Q.Clearの再構成を実証するための臨床実験
既知の放射能の球体を含む実際の臨床データセット。
患者BMI:52.5,ROI:15mm,OSEM:6.4mm,TOF,point spread function(PSF)補正

 

Q.Clearのアルゴリズムは,背景の画像ノイズを低く抑えながらエッジを残すように設計されている。Q.Clearは,常に収束に近づくように動作するため,OSEM法で一般的にとられる方法とは異なり,逐次回数とサブセットの入力は不要,さらに画像ノイズは正則化(regularization)の一部である逐次近似再構成中で制御されるため,ポストフィルタは必要ない。図3は,Q.Clearの処理方法を示す簡単な模式図である。

図3 従来の逐次近似再構成法とQ.Clearの画像処理方法

図3 従来の逐次近似再構成法とQ.Clearの画像処理方法
従来の逐次近似画像再構成法には再構成ループの中に画像ノイズを制御するプロセスが含まれていないのに対し,Q.Clearはその再構成エンジンの中にノイズモデルと制御機能が組み込まれている。ノイズモデルと制御機能は,再構成ループの一つひとつのボクセル,すべてのステップに作用する。

 

■「Q.SUV」の定義と意義

従来の逐次近似画像再構成法では,収束が不十分な状態でのSUVが算出されていた。その結果,SUVは,病変部位の大きさや周囲の状況などに依存することで複雑にばらついた。GEでは,従来の未収束PET画像のSUVと十分収束した定量精度の高いPET画像のSUVを区別するため,Q.Clearで得られたSUVを「Q.SUV」として新たに提唱している。
Q.SUVは,SUVを新しく定義するというわけではなく,その概念と計算プロセスはまったく同じであり,“Q”というラベルが示されることで,医師は逐次近似画像再構成が,十分な収束によって行われたということがわかる。従来のSUVと比べてQ.SUVの値はしばしば異なるが,それは定量化が従来の方法と比較してより高い正確性と一貫性を持って行われていることを意味する。OSEM法とQ.Clearの臨床比較例を図4に示す。

図4 「Discovery PET/CT 710」の18F-FDG-PETによるOSEM法とQ.Clearの比較

図4 「Discovery PET/CT 710」の18F-FDG-PETによるOSEM法とQ.Clearの比較

 

PET画像において,近年多くの技術進歩は定量精度改善に向かっている。画像ノイズをコントロールするために,OSEM法では収束不足が起こり,それが定量精度への障害となっている。Q.Clearは十分な収束を達成する技術で,Q.Clearによって得られたQ.SUVは,安定した定量精度を提供している。

●参考文献
1)Manjeshwar, R., Ross, S., Iatrou, M., et al. :
Fully 3D PET iterative reconstruction using distance-driven projectors and native scanner geometry. IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, 2804〜2807, 2006.
2)Ross, S. : Q.Clear White Paper.
3)GE Healthcare : White Paper ; Q.SUV Quantitative SUV you and your patients can trust.

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MI営業推進部
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021
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