技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2020年4月号

腹部領域におけるMRI技術の最新動向

AIR:Simply Better ─ 体幹部イメージングにおける技術進歩

貝原  雄[GEヘルスケア・ジャパン(株)MRマーケティング]

個別化医療(precision medicine)や人工知能(AI),ディープラーニングというキーワードは,放射線分野でも大きなトピックだが,テーラーメイドで精度の高い個別化医療が求められる一方で,患者の高齢化や検査の複雑化に伴って,画像診断の検査には今まで以上に高いプロダクティビティが求められている。
本稿では,患者,医師,技師それぞれにとって,より質の高い検査を効率的に行うためのいくつかの新技術を紹介したい。

●“AIR”コイルによる新たな検査体験

AIRコイルは,INCAワイヤと小型のeモードプリアンプのみで構成される新型コイル素子の集合体であり,従来のフェイズドアレイコイルと比較して,大幅な軽量化と毛布のようなフレキシビリティな形状を実現した革新的なRFコイル技術と言える(図1)。

図1 毛布のような柔軟性と広いカバレッジを有するAIR AAコイル

図1 毛布のような柔軟性と広いカバレッジを有するAIR AAコイル

 

RFコイル自体が大きく変わることで,患者がコイルの重さを感じず,楽な体勢で快適にMR検査を受けられるだけでなく,検査時のコイルセッティングにかかる時間が大幅に短縮し,検査ワークフローも大きく向上する。例えば,下肢全長や全身拡散強調画像(以下,DWI)など,広範囲の検査が必要な場合でも,従来コイルでは今まで4分近くかかっていたコイルセッティングの時間が,AIRコイル導入後はわずか15秒程度に短縮した事例などが報告されている。
また,体幹部領域においても,従来のフェイズドアレイコイルは患者の体格や撮像部位の位置に合わせて患者の上にコイルを乗せ,背面コイルと合わせて上下で挟み込むという印象だったのに対し,“AIR Anterior Arrayコイル(以下,AIR AAコイル)”では,広いカバレッジを生かして患者の体にまず毛布のようにかけてから,側面を巻きつけるというワークフローに変わった。これにより,コイルがさらに密着することで高いSNRを確保でき,AIRコイルのもう一つの特長である深部方向の感度の高さやパラレルイメージング時の低いg-factorによる恩恵も得やすくなっている。結果として,体幹部領域において歪みの少ない高分解能DWI(MUSE-DWI)などにおいて,検査内容のさらなる充実に期待できる(図2)。

図2 高分解能DWI(MUSE-DWI)

図2 高分解能DWI(MUSE-DWI)

 

●“AIR Recon”による画質向上

コイルによって得られた信号を有効活用し,高いクオリティの画像を出力する上で欠かせないのは,画像再構成の技術である。特に,AIRコイルのような高いチャンネル数のコイルが実用化され,信号の増加とともにノイズも増加するため,今後は画像再構成のアルゴリズムでいかにノイズ成分を管理できるかが重要となってくる。最近,圧縮センシングやデノイズフィルタが注目されているのは,このノイズ管理を効率的に行い検査時間を短縮できるからであるが,最新のGEMRプラットフォームでは,これらの技術と併せて,1.5T普及機から3T研究機まで共通してAIR Reconと呼ばれる新しい画像再構成アルゴリズムを実装し,さらなるノイズ低減とアーチファクト低減を実現した。
AIR Reconでは,プリスキャン中にコイルエレメントごとのノイズ成分だけを計測するノイズキャリブレーションが追加され,ノイズの過多によって各コイルエレメントから得られる信号に自動的に重みづけを行い,画像再構成を行っている。
その結果として,さらなる背景ノイズや画像ノイズの低減,FOV外からの折り返りやアネファクトアーチファクトの低減を実現し,多チャンネルかつ複雑なエレメント配置となるAIRコイルの特徴をより生かして,短い撮像時間であっても,高いSNRでアーチファクトの少ない画像が得られやすくなった(図3,4)。

図3 AIR Reconによるアーチファクト低減効果

図3 AIR Reconによるアーチファクト低減効果

 

図4 AIR Reconによる撮像時間の短縮 (画像ご提供:社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷浜松病院様)

図4 AIR Reconによる撮像時間の短縮
(画像ご提供:社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷浜松病院様)

 

●システムの多チャンネル化・自動化による検査効率の向上

新たなコイルや画像再構成の技術によって,短時間で高いクオリティの画像を得られるようになってきたことに加え,体幹部の検査全体のワークフローをさらに向上させる多くの自動化技術も並行して開発されている。
前述のAIR AAコイルは,体幹部のMR検査時に患者セッティングの時間そのものを大幅に短縮するが,さらに,“AIR Touch”機能により,コイルの空間的位置や使用する最適エレメント設定も,すべてシステムが自動で把握し設定を行うため,ユーザーは初めにコイルの種類を選んでおくだけでよい。
また,AIR AAコイルは体軸方向に65cmの感度範囲を有しているため,体幹部の広範囲の病変のスクリーニングや全身DWI検査も,1回のコイルセッティングで効率良く実施することが可能である(図5)。
さらに,体幹部検査でしばしば問題となる呼吸性アーチファクトに関しても,機械学習を応用した横隔膜の自動検出機能“Auto-Navigator Tracker”や高度な体動補正機能“PROPELLER MB”,高速スキャン技術“HyperWorks”,アーチファクトを抑制するAIR Reconなどを組み合わせることで,再撮像を抑制しながら簡便に高いクオリティの検査を実施できるようになっている。

図5 AIR AAコイルによる全身DWI検査(多発性骨転移の症例) (画像ご提供:社会医療法人財団石心会 川崎幸病院様)

図5 AIR AAコイルによる全身DWI検査(多発性骨転移の症例)
(画像ご提供:社会医療法人財団石心会 川崎幸病院様)

 

本稿では,体幹部領域における技術革新のトピックとして,高いSNRを実現しながら検査全体のワークフローを向上させるコイル,画像再構成技術といくつかのアプリケーションを紹介した。今後も多角的な装置開発を行い,臨床現場において質の高い検査を実施するための一助となれば幸いである。

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MR営業推進部
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp

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