技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2020年9月号

Step up MRI 2020 MRI技術開発の最前線

AIR Simply Better ─次世代のMRIシステムを築く新たなソリューション

後藤健太郎[GEヘルスケア・ジャパン(株)MR営業推進部]

2019年に登場した「AIRコイル」は,RFコイルテクノロジーの大きな革新であり,すでに国内の施設への普及が始まっている。“AIR”とは,「適応できる・柔軟性がある」を意味するAdaptiveという言葉から始まるAdaptive Imaging Receiveの略であり,さまざまな検査環境の変化に適応し最適な画像を提供するテクノロジーの総称である。このAIRを構成する主な要素は,患者の負担を大きく軽減するAIRコイル,ノイズやアーチファクト低減などによって画質の向上に寄与する“AIR Image Quality”,検査中のワークフローを改善し検査効率向上を実現する“AIR Workflow”の3つである。
本稿では,医師,技師,患者の検査体験を変えうるこれら3つの要素について紹介する。

●AIRコイル

次世代のRFコイルテクノロジーを用いて患者負担の大幅軽減を実現するAIRコイル。「AIR Anterior Array Coil(以下,AIR AAコイル)」(図1)は,デジタル伝送テクノロジー“TDI(Total Digital Imaging)”をベースにした新たな技術で,従来型の受信コイルと比較して,1素子あたり76%の軽量化(自社比較)を達成している。柔軟な素材により,さまざまな体形の患者や部位にフィットする構造となっているため,体幹部だけでなく上肢や下肢または関節など,幅広い領域で活用できるのが大きな利点である。また,広範囲の感度領域と,優れたSNRおよび深さ方向のコイル感度を有しており,体格の大きな患者においても従来コイルより均一性の良い画像を提供できる。さらに,パラレルイメージング使用時のSNR=SNR parallel imaging(以下,SNRPI)への恩恵も大きい。SNRPIは,高速化倍数(R:リダクションファクタ)と受信コイルの素子配列(g:ジオメトリファクタ)で決定されるが,ジオメトリファクタはコイル素子配列で自動的に決まってしまうためユーザー側でのSNR調整は難しい。この点でAIR AAコイルは,従来型コイルと比較してジオメトリファクタが最大56%低くなる素子配置となっているため,パラレルイメージングを使用した際のSNRの低下を最小限にとどめられるという利点がある(図2)。

図1 AIR AAコイル

図1 AIR AAコイル

 

図2 AIRコイルによる広範囲の高分解能撮像

図2 AIRコイルによる広範囲の高分解能撮像

 

●AIR Image Quality

画像の背景ノイズやアーチファクトを低減する技術である“AIR Recon”が2020年にリリースされ,1.5Tの臨床機から3Tの研究機まで,すべてのGE社製MRI装置に搭載された。このAIR Reconは,ノイズキャリブレーションデータを取得し各コイルエレメントのノイズレベルを計測し,受信チャンネルごとに重み付けを行う新たな画像再構成アルゴリズムである。従来法での画像再構成に比べ,背景ノイズの低減によりSNRが向上し,撮像領域外からのアーチファクトも低減することが可能となった(図3)。従来法の画像再構成では,撮像領域外からの折り返し防止のため広範囲に画像を取得する必要があったが,AIR Reconが搭載されたことにより折り返し防止ファクタ(NPW)を低く設定でき,結果として撮像時間の短縮を図ることも可能である。

図3 外部ノイズ,アーチファクトを軽減するAIR Recon

図3 外部ノイズ,アーチファクトを軽減するAIR Recon

 

●AIR Workflow

より良いMRI検査の実現のためには,快適性の向上,撮像時間の短縮や画質向上とともに,検査全体のワークフロー向上が不可欠である。AIR対応のMRI装置では,まず患者が横になった後はAIR AAコイルを1枚の毛布のように掛けるだけで広範囲をカバーでき,コイルの向きや位置もシステムが自動認識するため細かい調整が不要となった。次に,コイルを掛けたその場で寝台側面のタッチセンサに触れると,そのまま撮像中心が設定される。さらに,“AIR Touch”機能により,コイルのどのエレメントを撮像で使用するかもシステムが自動で判別するため,患者の入室から撮像開始までのワークフローが非常にシンプルになっている。
また,人工知能(AI)開発プラットフォームの“Edison”を用いて開発された新しい頭部自動位置決め機能“AIR x”が追加された。AIR xは,3万6000以上の画像データベースから作成されたディープラーニングアルゴリズムを搭載しており,海馬や下垂体などの領域を選択するだけで自動位置決めを行うことができる。従来の自動位置決め機能のように専用の追加スキャンが不要なため,検査時間を短縮しながら操作者に依存しない高精度な断面設定が可能となり,特に経過観察での比較診断において再現性の高い検査が可能となる(図4)。

図4 ディープラーニングアルゴリズムを搭載したAIR x

図4 ディープラーニングアルゴリズムを搭載したAIR x

 

●「SIGNA Voyager AIR Edition」の登場

「SIGNA Voyager」は,検査を行う,受ける,診る,すべての人のニーズに応える1.5Tワイドボア装置として2016年11月に登場し,2020年にフルモデルチェンジされ,SIGNA Voyager AIR Editionへと大幅に進化を遂げた(図5)。新型ガントリデザインを採用し,患者への優しさと機能性を両立する外観へ一新されている。また,MRIの心臓部であるマグネット部分にも最新型の「IPM(Innovative Platform Magnet)」を採用,大幅な軽量化と約20%の静磁場均一性の向上を実現した。従来型の自社製マグネットに比べ稼動可能なヘリウム量を50%以上削減しており,経済性にも優れている。
さらに,AIR AAコイルを含む前述のAIRテクノロジーが搭載され,3TハイエンドMRIだけでなく,より多くのユーザーへ広くAIR Simply Betterを紹介できるようになった。

図5 フルモデルチェンジしたSIGNA Voyager AIR Edition

図5 フルモデルチェンジしたSIGNA Voyager AIR Edition

 

GEヘルスケアは,画像クオリティの向上だけでなく,患者負担の軽減,検査ワークフローの向上など,さまざまな面からMRI検査のさらなる質の向上をめざしている。多様な変化に適応し最適な画像を提供するテクノロジーであるAIRは,検査にかかわるすべての人にとって,より多くのメリットを生み出すために進化を続けている。AIR Simply Betterの今後の普及と進歩が,医療現場にいる皆さまの一助となることを期待してやまない。

シグナVoyager
医療機器認証番号:228ACBZX00009000
AIRコイル 1.5T
医療機器認証番号:301ACBZX00001000
JB00012JA

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
www.gehealthcare.co.jp

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