技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2021年4月号

循環器領域における核医学装置の技術の到達点

心臓専用半導体SPECT装置「Discovery NM 530c」による定量アップデート

細野 栄保[GEヘルスケア・ジャパン(株)MICT営業推進部]

冠動脈疾患に対する画像診断,予後評価については,今日さまざまなモダリティで可能になってきている。核医学検査の特長としては,簡便性や侵襲性の低さが挙げられ,使用するラジオアイソトープによっては視覚的評価だけでなく,画像解析によりさまざまなパラメータを得られる利点もあり,画像診断・予後評価で果たす役割は大きい。
視覚的,定性的な評価に加え,駆出率をはじめとした心機能パラメータ,ノーマルデータベースとの比較による画像評価も,従来のアンガー型カメラにより行われている。これらの解析に加え,半導体SPECT装置の登場により,短時間収集や薬剤の低投与量収集,テクネチウムとヨードでの2核種同時収集が実現可能となり,その報告も各施設により行われている1),2)
今回,心臓専用半導体SPECT装置の特長と,ダイナミック解析により算出可能である心筋血流量(以下,MBF)と冠血流予備能(以下,CFR)による心筋血流定量の概要,定量解析アプリケーションのアップデート事項について紹介する。

■ 半導体SPECT「Discovery NM 530c」の特長

GE社製Discovery NM 530c(図1)は,これまで国内をはじめとして,400台を超える台数を世界に導入している。その大きな特長は,高いエネルギー分解能を持つ4cm×4cmのCdZnTe(以下,CZT)検出器を採用し,心臓にフォーカスするマルチピンホールコリメータを設計,これをリング状に配置しているところにある。従来の多検出器型のアンガー型カメラとの大きな違いはデータ収集形態であり,検出器が回転しないリング型収集となっている(図2)。これによって,短時間収集が実現でき,被検者の体動のリスク軽減などのベネフィットも得られ,ダイナミックSPECT収集を可能にしている。これらの特性を最大限に活用し,Discovery NM 530cでは,MBFとCFRによる定量評価を可能としている。

図1 GE社製Discovery NM 530c

図1 GE社製Discovery NM 530c

 

図2 Discovery NM 530cのSPECTデータ収集

図2 Discovery NM 530cのSPECTデータ収集

 

■ 定量解析アプリケーション機能アップデート

撮像プロトコールの一例を示す3)図3)。リストモードによるダイナミックSPECT収集後,核医学専用ワークステーションである「Xeleris」に搭載されている“4DM”アプリケーションを用いて定量解析を行う。
4DMで解析を行う前に画像再構成を行うが,解析に用いるダイナミックデータについては,フレームタイムを任意に設定し再構成することも可能である。吸収・散乱補正などの補正については,その精度の報告もなされているが4),どちらもXelerisでサポートしており,吸収補正については実際に外部CTをXelerisにインポートし,吸収補正して解析することが可能となっている。

図3 テクネチウム安静-負荷1日法  ダイナミック収集定量プロトコール3)

図3 テクネチウム安静-負荷1日法
ダイナミック収集定量プロトコール3)

 

4DMの解析(図4)について,解析精度向上のためのいくつかの機能が新たに実装されている。そのうちの一つが体動補正機能であり,呼吸や体動による影響を受けたフレームごとの調整が可能である。この機能をはじめとして,1回目に投与された心筋内に残余として集積しているアクティビティを補正する“Residualサブトラクション補正”や,MBFは被検者によって心拍数や血圧に影響を受ける場合があるため,収縮期血圧と心拍数で補正した“RPP(rate pressure product)補正機能”などを有している。MBF算出のアルゴリズムは,Net Retention法とコンパートメント解析法の2種類を有しており,解析パラメータの設定の変更など,自由度は高い(図4,5)。
ダイナミック解析から得られるMBF,CFRは,心疾患の予後評価のパラメータとして重要であると報告されており,その有用性を示すエビデンスは増えてきている。従来のテクネチウム,タリウムでの心筋血流SPECTでの定性的評価に加え,微小循環障害を反映していると言われるCFRによる定量評価を加えることで,SPECTでの多枝病変の検出や重症度評価が可能となると期待されている5),6)

図4 4DMの定量解析画面

図4 4DMの定量解析画面

 

図5 4DMの定量解析パラメータ設定画面

図5 4DMの定量解析パラメータ設定画面

 

CFRおよびMBFの定量パラメータは,患者の心血管イベントや予後予測に有用な指標の一つであると言われている。もともとMBF,CFR解析は,PET/CT装置において先行して検査が行われているが,施行している施設はサイクロトロンを持つ施設に限られ,その簡便性の観点から施設数,検査数共にまだ少ない。新規薬剤の動向はあるものの,現在広く一般的に行われている心筋SPECT検査で,虚血診断とともに,こういった定量評価のパラメータが算出可能であることは重要である。SPECTデータでは他モダリティと違い,分解能や得られるカウントの違いから精度向上の課題はあるものの,その簡便性や利便性から心機能評価に対して果たせる役割は大きい。
今回,半導体SPECT Discovery NM530cにおける,MBF,CFRによる心筋血流定量について紹介した。他モダリティの機器や技術の発展はめざましいが,今後この分野でのさらなる精度向上と発展に期待したい。

【Discovery NM530c】
核医学診断用装置:Discovery NM530c
医療機器認証番号:22200BZX00861000
【Xeleris】
ジニー(GENIE)
類型ジニーエクセラリス(GENIE Xeleris)シリーズ
医療機器認証番号:20700BZY00161000

●参考文献
1) Blaire, T., Bailliez, A., Bouallègue, F.B., et al. : First assessment of simultaneous dual isotope(123I/99mTc)cardiac SPECT on two different CZT cameras : A phantom study. J. Nucl. Cardiol., 25(5): 1692-1704 2018.
2) Nappi, C., Gaudieri, V., Petretta, M. : Simultaneous dual-tracer 99mTc-tetrofosmin and 123I-BMIPP acquisition with CZT for ischemic memory : The future approaches to image the past. J. Nucl. Cardiol., 28(1): 196-198, 2021.
3) Wells, R.G., Timmins, R., Klein, R., et al. : Dynamic SPECT Measurement of Absolute Myocardial Blood Flow in a Porcine Model. J. Nucl. Med., 55(10): 1685-1691, 2014.
4) Wells, R.G., Marvin, B., Poirier, M., et al. :
Optimization of SPECT Measurement of Myocardial Blood Flow with Corrections for Attenuation, Motion, and Blood-Binding Compared to PET. J. Nucl. Med., 58(12): 2013-2019, 2017.
5) Miyagawa, M., Nishiyama, Y., Uetani, T., et al. : Estimation of myocardial flow reserve utilizing an ultrafast cardiac SPECT :
Comparison with coronary angiography, fractional flow reserve, and the SYNTAX score. Int. J. Cardiol., 244 : 347-353, 2017.
6) Shiraishi, S., Tsuda, N., Sakamoto, F., et al. : Clinical usefulness of quantification of myocardial blood flow and flow reserve using CZT-SPECT for detecting coronary artery disease in patients with normal stress perfusion imaging. J. Cardiol., 75(4): 400-409, 2020.

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
MICT営業推進部
〒191-8503
東京都⽇野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-055-919
www.gehealthcare.co.jp

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