技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)

2021年9月号

Step up MRI 2021 MRI技術開発の最前線

“AIR Technology”の進化がもたらす次世代MRの到来

三浦 功平[GEヘルスケア・ジャパン(株)MR営業推進部]

近年,「MRの検査体験が変わる」をテーマに,GEヘルスケアが推し進めているのが“AIR Technology”である。AIRとは,「適応できる・柔軟性がある」というAdaptiveという言葉から始まるAdaptive Imaging Receiveの略であり,さまざまな検査環境の変化に適応し,最適な画像を提供するテクノロジーの総称を指す。このAIRを構成する主な要素は,患者の負担を大きく軽減する“AIR coil”,ノイズやアーチファクト低減などによって画質の向上に寄与する“AIR Image Quality”,検査中のワークフローを改善し,検査効率向上を実現する“AIR Workflow”の3つである。
本稿では,日々進化するAIR Technologyにおいて,2021年に販売を開始した新バージョンである“AIR IQ Edition”の“進化”について紹介する。

■画像再構成パイプライン

通常,MRIのデータはRFコイルで受信された後,k空間にrawデータとして格納,k空間フィルタやフーリエ変換,画像フィルタなどを経て,最終的な画像化が行われている。
後述する“AIR Recon”と“AIR Recon DL(エア・リコン・ディーエル)”は,この信号受信から臨床画像作成までのプロセス全体を大きく変えることで,ノイズ低減と空間分解能の向上,アーチファクトの低減を同時に実現する画期的な画像再構成技術である。この技術は撮像法に依存せず,「SNR・空間分解能・撮像時間」のトレードオフの常識を大きく変える可能性があると期待されている(図1)。

図1 AIR Technologyによる次世代の画像再構成パイプライン

図1 AIR Technologyによる次世代の画像再構成パイプライン

 

■AIR Recon

AIR Reconは,プレスキャン中に取得されたノイズキャリブレーションデータから,各コイル素子のノイズレベルに応じて受信チャンネルの重みづけを行う画像再構成アルゴリズムである。
画像の背景ノイズを低減し,アネファクトや折り返しなどFOV外からのアーチファクトを抑制することで,画像クオリティが向上するため,より小さなFOV撮像や短時間の撮像条件設定も容易となる。
特にAIR coilなど,コイルの多チャンネル化・高密度化は,必要な信号をより高く効率的に収集できる一方で,ノイズ成分の増加も顕著となる。そのため,AIR Reconのような収集ノイズを制御する再構成アルゴリズムの重要性が高まっており,実際に多くのユーザーからAIR Reconによる画質向上の声をいただいている(図2)。

図2 AIR Reconによる画像クオリティの向上

図2 AIR Reconによる画像クオリティの向上

 

■ AIR Recon DL

AIR Reconによる基本的な画質向上に加え,ディープラーニングアルゴリズムを活用して,k空間のrawデータ全体を直接画像再構成する技術が,AIR Recon DLである。
AIR Recon DLでは,従来の画像再構成プロセスに必須となるk空間フィルタを利用していないため,ノイズ低減効果のほかに,尖鋭度(≒空間分解能)の向上とトランケーションアーチファクトの低減効果を同時に享受できるという大きな利点がある。
図3に,同一撮像データにおいて,従来法で再構成した画像とAIR Recon DLにより再構成した画像を比較しているが,ノイズ低減と併せて顕著な空間分解能向上が示されている。AIR ReconやAIR Recon DLは,MRIにおける画像再構成の基本プロセスに根本的な革新をもたらし,今まで不可能と考えられてきた「画像のクオリティを向上させ,かつ撮像時間を大幅に短縮する」ことが3Tおよび1.5Tでも現実となった(図4)。
なお,AIR Recon DLは,世界で150施設以上(2021年7月現在)にて臨床稼働しており,国内でもすでに1.5T,3T共に臨床活用が開始されている。

図3 足指関節での再構成画像の比較(同一raw dataを使用)

図3 足指関節での再構成画像の比較(同一raw dataを使用)

 

図4 手関節STIR,2mmスライス厚での画質と撮像時間比較 (画像ご提供:神戸市立医療センター中央市民病院様,「SIGNA Explorer1.5T」を使用)

図4 手関節STIR,2mmスライス厚での画質と撮像時間比較
(画像ご提供:神戸市立医療センター中央市民病院様,「SIGNA Explorer1.5T」を使用)

 

■AIRx

GE AI開発プラットフォームの「Edison」を用いて開発された新しい自動位置決め機能“AIR x”に,膝関節が追加された。AIR xは,3万6000以上の画像データベースから作成されたディープラーニングアルゴリズムを搭載しており,基準断面だけでなく,前十字靭帯(ACL)や後十字靭帯(PCL),半月板や膝蓋骨などの解剖学的部位を指定しての自動位置決めが可能になった。従来の自動位置決め機能のように,専用の追加スキャンが不要なため,検査時間を短縮しながら操作者に依存しない高精度な断面設定が可能となり,特に経過観察での比較診断において再現性の高い検査が可能となる(図5)。

図5 ディープラーニング技術を用いた自動位置決め機能(AIRx)

図5 ディープラーニング技術を用いた自動位置決め機能(AIRx)

 

■oZTEo

MRIでは,これまで骨そのものの画像化は難しく,X線やCTなどに頼るところが大きかった。今回,GEでは,静音化アプリケーション“Silent Scan”に用いていたZero TE技術(Silenz)を応用し,骨そのものの画像化に成功した。これにより,従来のマルチコントラストの情報に加え,骨情報もMRIで可視化が可能になり,整形領域でのone stop shopとして期待されている(図6)。

図6 oZTEoを用いた骨描出画像

図6 oZTEoを用いた骨描出画像
a:oZTEoデータにより再構成されたweighted MIPとvolume rendering
b:脛骨,腓骨骨折(➡)症例

 

GEヘルスケアは,画像クオリティの向上だけでなく,患者負担の軽減,検査ワークフローの向上など,さまざまな面からMRI検査のさらなる質の向上をめざしている。多様な変化に適応し,最適な画像を提供するテクノロジーであるAIRは,検査にかかわるすべての人にとって,より多くのメリットを生み出すために進化を続けている。AIR Technologyの今後の普及と進歩が,医療現場で日々奮闘されている皆さまの一助となることを期待している。

 

●問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
〒191-8503
東京都日野市旭が丘4-7-127
TEL:0120-202-021(コールセンター)
www.gehealthcare.co.jp

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