技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2025年8月号
Step up MRI 2025
Across the Boundary ─「SIGNA PET/MR」の進化
名内 存人[GEヘルスケア・ジャパン(株)イメージング本部MR部]
PETとMRIという2つのモダリティは,それぞれの領域ごとのイノベーションを経てさまざまな進化を遂げてきたが,これらを融合する一体型PET/MRは単なる足し算ではなく,双方の強みを掛け合わせたシナジーをもたらすことが期待される。
本稿では,「SIGNA PET/MR AIR」が可能とするそれぞれの境界線を超越した新しい価値について概説したい。
■「MotionFree Brain」:新しいPET動き補正技術
PETにおける空間・時間分解能,感度の向上など,近年の技術的進歩は目覚ましい一方,古典的なアーチファクト要因,すなわち「動き」が画質に与える影響は相対的に大きくなっている。実際,最近の研究では,無作為に抽出された50の脳研究コホートにおいて24%の患者に2mm程度の動きが認められたとの報告もある。
このような動きの問題を克服するために,SIGNA PET/MR AIRではMotionFree Brainと呼ばれる新しい動き補正アルゴリズムが可能になっている。これはカメラなどのハードウエアやスキャン時間をさらに追加する必要がないデータ駆動型の体動推定・補正アプローチであり,スキャン全体に渡り約1秒という超高速でリストモード再構成しながら,画像ベースの剛体位置合わせを行う。動き推定の精度は,ground truth画像と比較して1mm未満であり,定量精度は最大で60%,病変サイズの体積精度は最大1.5倍向上する(図1)。動き補正技術の進展はMRも著しいが,PETとともに動きに対して頑健になることで,さらなる位置精度の向上が期待できる。
図1 MotionFree Brainによる動き補正
TOF Q.Clear(β100),ピクセルサイズ1.17mm×1.17mm×1.39mmで再構成。18F-FDG 386MBq投与,撮像時間は25分
■AIRテクノロジー:最新RFコイルやディープラーニング画像再構成
MRにおいては,ハードウエアとアプリケーション双方において進化が見られる。ハードウエアについては一例として「AIRコイル」が挙げられる。これは,まったく新しい素材としてINCAワイヤと小型のE-Modeモジュールによって構成されており,非常に軽くて柔らかく,広範囲をカバーできるフレキシブル型のコイルである(図2)。患者快適性を向上させるだけでなく,多チャンネルでありながらコイル配列の自由度を大幅に向上させ,かつ高いSNR,パラレルイメージングや圧縮センシングのファクタ数増加,および深部方向の均一性向上など,画質に与える影響も大きい。加えて,PET/MRにおいて重要なのは,RFコイルのPET定量に対する影響である。従来型の厚く重いコイルと比較して,軽量で柔軟,かつ線密度の低いAIRコイルでは,PET信号の遮蔽度が小さく,PET画像の定量バイアスが50%以上低減されたと報告されており,単なるMR画質向上だけでなく,PETの定量性向上にも寄与している。
アプリケーション面では,ディープラーニングを用いた画像再構成技術(DLR)「AIR Recon DL」が挙げられる。k-spaceベースのDLRは,ノイズ低減だけでなく,尖鋭度(分解能)向上やトランケーション低減など,画質向上に大きく寄与し,同等の画質を保つのであればスキャン時間を大幅に短縮することも可能である。図3はSIGNA PET/MR AIRへアップグレードした際のHARDI(high-angular resolution diffusion imaging)の比較であり,AIRコイルとAIR Recon DLによる恩恵が顕著に見られる。MR由来の機能画像の高精細化によって,代謝や形態情報と組み合わせたPET/MRにおいて,さらに豊富な臨床情報の取得が可能になる。
図2 AIRコイル
a:48ch AIRヘッドコイルとAIR Anterior Array
b:INCAワイヤとE-Modeモジュール
図3 AIR Recon DLと48ch AIRヘッドコイル導入(アップグレード)前後の比較
a:アップグレード前:12chヘッドコイルによる60軸HARDI
b:アップグレード後:48ch AIRヘッドコイルによる同条件のHARDI
c:bに対してさらにAIR Recon DLを適用
PET/MRは,まさに境界を超えるイメージング技術の代表例である。それぞれが独立して進化するのではなく,相互に強みを高め合う新たな技術も今後の展開が期待され,研究と臨床の両面で発展していく未来が予想されている。
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