技術解説(日立製作所)

2020年9月号

Step up MRI 2020 MRI技術開発の最前線

検査環境を改善する日立のMRIシステムソリューション

八杉 幸浩[(株)日立製作所ヘルスケアビジネスユニット]

一般的に,MRI検査は撮像に時間がかかり,検査中は狭い撮像空間で大きな撮像音の中にじっとしていなければならず,被検者に負担を与えるという問題がある。これまで日立はその改善手段として,永久磁石を用いたオープンMRIや,画質と撮像時間に影響の少ない静音化など,ユニークな技術を搭載した製品を実現してきた。本稿では,被検者視点での最新MRI技術を紹介したい。

●静かなMRI検査を実現する技術

MRIの撮像における騒音は100dB(A)〔dB(A)は聴感補正をした騒音の絶対レベル〕を超える大きなものであり,超電導装置のMRI検査では耳栓などの聴覚保護具の装着が必須の状況となっている。検査環境を改善するために,この騒音レベルを低減する手法が各種試みられているが,従来は画像コントラストに与える影響や,撮像時間が延長するなどの問題点があった。
A特性と呼ばれるヒトの聴覚の周波数特性は,1kHz付近を最大感度として,100Hz付近では−20dBとなり,同じ音圧でもヒトには1/10に聞こえることが知られている。したがって,傾斜磁場振動に伴う騒音の音響周波数を1kHz程度の高い周波数帯から100Hz程度の低い周波数帯に移動することで,聴感上の不快感を改善することが可能である。さらに,この静音化は,図1に示すように,プリスキャンを含むルーチンシーケンスにおいて幅広く実現されていることが,実用する上で重要である。
騒音の低音域への移動手段は,傾斜磁場波形を変更することで行われるが,印加傾斜磁場のエネルギーである強度と時間の積が同一であることが画質,撮像時間を保つ上で重要である。一方,傾斜磁場波形の最適化を現実のMRI装置にて行うには,パルスシーケンス波形を調整しながら騒音計測をする必要があるため容易ではなく,これまで最適化を行うことはきわめて困難であった。そこで,この作業に高度なシミュレーション技術を導入した。
図2は,当社が開発したMRIパルスシーケンスシミュレータによる最適化手順である。傾斜磁場コイルの構造共振,超電導磁石ボビンの固有振動など多くの音響共振点を有するMRI装置のガントリは,特定の周波数で共振作用が生じ,装置固有の独特の撮像音が発生する。そこでまず,実際のMRI装置で装置固有の振動音の周波数レスポンスH(f)を計測する。これに,シミュレータで合成した発生音G(f)をコンボリューションすることで,撮像音圧P(f)を求めることができる。この撮像音圧(騒音)ができるだけ少なくなるように,パルスシーケンスg(t)の印加パターンを繰り返し調整することにより最適解を得ることができる。このような静音化技術が搭載されたことは,高度なシミュレータが完成し,撮像音の正確な合成が可能になったという点が大きい。

図1 ルーチン利用の静音化シーケンス

図1 ルーチン利用の静音化シーケンス

 

図2 静音化シミュレータの手順

図2 静音化シミュレータの手順

 

●検査時間を大幅に短縮する技術

撮像時間短縮技術“IP-RAPID”は,アンダーサンプリングと繰り返し演算処理“IP(Iterative Process)”を活用した画像再構成演算を適用し,画質を維持したまま撮像時間を短縮する技術である。この技術により,複数チャンネルの受信コイルを用いた高速撮像法である“RAPID”で得られた画像に対して,繰り返し演算を活用した再構成処理を適用し,画質を維持しながらノイズなどのアーチファクトを効果的に低減することができる。すなわち,parallel imagingでの高速化による画像SNRの低下という課題を改善する技術であると言える。
本技術はparallel imaging手法が基本であるため,2D・3D撮像やDWIなどの多くの撮像シーケンスに適用できるというメリットがある。また,専用の高速画像処理演算ハードウエアの搭載により3Dの画像再構成時間も高速化しており,前述の静音化シーケンスにも併用できる。撮像時間を維持しながら空間分解能の向上や,スライス枚数の増加に対しても利用でき,DWIシーケンスの場合はエコーファクターの低減により,SNRを維持しながら画像歪みを改善することもできる。
図3は,このIP-RAPIDの使用の有無による頭部画像とMRAを左右に並べたものであるが,撮像時間が半分以下に短縮されているにもかかわらず,画質の違いがほとんど認識されない。

図3 撮像時間短縮技術“IP-RAPID”

図3 撮像時間短縮技術“IP-RAPID”

 

●動きによる再撮像を改善する技術

モーションアーチファクトを低減する日立のラジアルスキャン撮像技術である“RADAR”は,適用シーケンスが幅広くルーチン撮像に活用できる機能である。新たにGREシーケンスにも適用の幅を広げた。GREシーケンスでは,被検者起因による磁場の不均一や傾斜磁場パルスのわずかな誤差でエコー信号にズレが発生する。通常の直交系サンプリングでは信号ズレが各エコーで同様になり画質への影響は生じないが,RADARでは放射状に計測することでズレの影響がアーチファクトとなる。このため,GREシーケンスにRADARを適用するには,より高精度な補正技術が必要である。当社MRI装置では,高精度信号補正により,3D-TOF MRAを含めた幅広い頭部ルーチンシーケンスにおいてRADARの併用が可能となった(図4)。

図4 ラジアルスキャンの効果

図4 ラジアルスキャンの効果

 

●検査の効率化に貢献する技術

“AutoExam”は,MRI検査の多くを占める頭部検査において,撮像の条件設定や撮像位置決め,画像処理,画像表示,画像保存の機能をまとめて登録することにより,ワンクリックによる検査実施を可能とする機能である。もちろん,操作者の設定により,停止,修正,再開が可能である。特に,頭部MRAの不要部分の切り抜き作業は操作者の手間がかかるため,画像処理により自動で作成する機能を搭載した。この機能は,特徴量に基づいて脳領域を3D画像から識別抽出することで,不要部血管の切り抜き処理を実施する(図5)。自動化支援検査により,トータルの検査時間をより短縮することが期待される。

図5 自動撮像支援機能“AutoExam”

図5 自動撮像支援機能“AutoExam”

 

●検査の閉塞感を低減する技術

オープンMRIの有する検査空間の解放感をトンネル型の超電導MRIにも適用すべく,ボア内映像システムを採用した。これは,プロジェクタによる空などの投影映像をMRIの撮像空間ボアの上面に投影して,被検者の検査環境を改善するシステムである(図6)。
強磁場となるMRIの近傍には一般のプロジェクタは設置が不可能で,プロジェクタからの高周波ノイズもMR画像に大きな影響を与える。そこで,このシステムは,プロジェクタ本体を検査室の外部(機械室や操作室)に設置し,映像のみをボア内に導く。ボア内に投影された映像は曲面のために湾曲し,さらに,後方の斜め角度からの投影のため縦に引き伸ばされた歪み画像となる。この歪み量をあらかじめ計測しておき,映像コンテンツに逆歪みを与えて画像を補正するプロジェクションマッピング技術を用いている。さらに,BGM連動機能を有しており,投影映像とシンクロした音楽とともに被検者にリラックス効果を提供できると期待される。
また,MRI検査室はRFシールドが必要なことから,窓のない密室的な空間であることが多いが,これを改善するため,窓を模した環境映像を壁面に投影するシステムも採用した。被検者が検査室に入る瞬間の第一印象から,不安感を抑えることができると考えている。

図6 MRI検査環境改善システム

図6 MRI検査環境改善システム

 

●問い合わせ先
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
〒110-0015
東京都台東区東上野2-16-1
上野イーストタワー
https://www.hitachi.co.jp/healthcare

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