X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第1回X線動態画像セミナー

臨床研究報告

当院における胸部動態撮影の進捗

坂巻 文雄(東海大学医学部付属八王子病院呼吸器内科)

坂巻 文雄(東海大学医学部付属八王子病院呼吸器内科)

当院では,2018年からコニカミノルタ社製FPDシステムを用いた胸部動態撮影による呼吸器疾患診療に関する臨床研究を行っている。本講演では,実際の症例を提示しながら,当院における臨床研究の概要を紹介する。

呼吸器疾患診療の手段と課題

呼吸器疾患のうち,特に,慢性の進行性肺疾患〔慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺炎など〕の重症例においては近年,問診による息切れ評価〔修正MRC(mMRC),COPDアセスメントテスト(CAT)スコア〕や,急性増悪の回数(増悪リスク)がきわめて重視されている。また,単純X線写真,CT,病理検査などの画像診断や,換気機能検査・肺気量分画(残気量),拡散能(DLco)などの機能検査,および病態を示す生化学的検査の指標値を用いて評価すると,同じCOPDや特発性肺線維症(IPF)でも予後が大きく異なることがわかる。
例えば,COPDでは,2011年に改定された新GOLD分類において,従来の病期分類(stage1〜4)にmMRCやCATスコア,増悪リスクなどを加味してA〜Dの4つに分類した上で,治療法を変えていくことが推奨されている。COPDの増悪は特定の患者に起こりやすい1)ことが理由であるが,それをどのように抽出するかが課題となっている。

当院における臨床研究の実際

そこで,当院では初診時に胸部X線動画を撮影し動態解析を行うことで,重症度や増悪リスクの高い症例を抽出できるのではないかと考え,2018年1月から臨床研究を開始した。対象は正常コントロール約10〜20例,COPD約20〜30例,肺気腫合併肺線維症(CPFE)約5〜10例,その他の疾患約20例である。臨床データとしては,症状記録(mMRC,CATスコア,増悪回数/年),酸素飽和度(SpO2),肺機能(できるかぎりDLcoまで),単純X線写真,CT(高精細CT併用)などを収集する。

1.当院のシステム構成と検査の流れ
当院では,コニカミノルタ社製のX線動画撮影システムを用いて撮影室にて約10秒間撮影を行い,静止画はPACSに保存し,動画は専用の動画解析ワークステーションに転送して動態解析を行う。このシステムの有用性として,被ばく量が単純X線写真数枚分と少ないことと,撮影が簡便であることが挙げられる。CTと同等の情報を,CTよりも簡単かつ低線量で得ることができる。

2.これまでの症例の概略
2018年9月までに胸部動態解析を行った症例の内訳は,COPDが最も多く19例,間質性肺炎8例,肺血栓塞栓症9例,肺がん1例,その他5例である。これらのうち,COPDは,スパイロメトリの1秒量対予測値%(%FEV1)から従来のGOLD分類で重症度を評価すると,stage2が最も多く,stage3が最も少なく,stage1,4はほぼ同数であった。一方,同じ症例を,増悪リスクを加味した新GOLD分類(A〜D)で評価すると,同じ4段階でもBが最も多く,A,C,Dはほぼ同数となった。つまり,同じ%FEV1の症例の中にも,増悪リスクの高い症例が含まれていることがわかった。

3.症例提示
図1は,41歳,女性。労作時息切れと浮腫,低酸素血症のため他院にて特発性肺動脈性肺高血圧症(PAH)と診断され,当院を受診した。肺機能検査では,肺活量58%と低下,機能的残気量(FRC)は107%と上昇しているが,全肺気量(TLC)は77%と少なく,一方,DLcoは118%と正常であり,肺実質に障害はないと考えられた。胸部動態撮影を行ったところ,静止画ではわからなかった右横隔膜神経麻痺による呼吸不全が判明し,肺胞低換気症候群と診断された。
このほか,重度のCOPD症例では,胸部動態撮影にて正常肺と比べて呼気時や吸気時に変化の乏しい部位が観察されており,今後,その定量化が望まれる。
さらに,当院では,呼吸機能の異なる症例の横隔膜の動きを定量的に比較する研究も行っている。COPDと健常例を比較すると,健常例では横隔膜の動きに障害は見られないが(図2 b),COPDでは2度目の吸気時に横隔膜の動きが不整となる(図2a)。

図1 右横隔膜神経麻痺による肺胞低換気症候群

図1 右横隔膜神経麻痺による肺胞低換気症候群

 

図2 横隔膜の動きの定量的比較

図2 横隔膜の動きの定量的比較

 

胸部動態撮影への期待

胸部動態撮像を行うことで,COPDや換気不全では,胸郭の動きや中枢気道の虚脱,換気の不均等などの観察,重症度・増悪リスク評価が可能になると期待している。間質性肺疾患の重症度・増悪リスク評価や,肺循環障害の救急外来での早期診断などにも有用と考えている。また,本方法は通常の胸部単純X線写真の弱点であった腫瘍と骨の重なりを除去できることも期待できるので,今後,腫瘍性病変のスクリーニングとしての有効性が期待される。

●参考文献
1)Hurst, J.R., et al., N. Engl. J. Med., 363・12,1128〜1138, 2010.

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