X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第1回X線動態画像セミナー

臨床研究報告

胸部X線動態解析の肺切除術での活用

田村 昌也(金沢大学附属病院呼吸器外科)

田村 昌也(金沢大学附属病院呼吸器外科)

当院呼吸器外科では,主に肺がんに対して肺切除術を施行している。その周術期において,胸部X線動態解析が役立つと考え,(1) 肺切除症例に対する非侵襲的な呼吸機能評価方法の検討,(2) 肺切除術における胸部X線動態撮影の活用方法の検討を行ったので,その結果を報告する。

肺切除症例に対する呼吸機能評価の検討

2016年2月〜2017年12月に,肺がんのため肺葉切除術を施行した58例を対象に,胸部X線動態解析による肺面積変化率の検討を行った。背景肺は,正常肺21例,気腫合併線維症10例,肺線維症7例,肺気腫20例。切除葉は,上葉が33例,下葉が25例である。術後合併症は11例で見られ,肺炎5例,間質性肺炎急性増悪1例,気漏遷延5例であった。
撮影は,術前,術後1週間,術後1か月の時点で行った。検証方法は,術前背景肺,切除葉,術後合併症の有無について,グループごとに患側肺の肺面積変化率を比較した。なお,肺面積変化率は,式〔(最大吸気位肺面積−最大呼気位肺面積)/最大呼気位肺面積〕にて算出する。

1.術前背景肺の比較
術前背景肺の肺面積変化率を正常肺,気腫合併線維症,肺線維症,肺気腫で比較した結果,有意差はないものの,肺線維症を併発した患者は正常肺に比べて術前の肺面積変化率が低い傾向が見られた(P=0.07)。

2.切除葉の比較
上葉切除群と下葉切除群の肺面積変化率の比較では,術前は特に傾向は見られなかったが,術後1週間では上葉切除群は下葉切除群に比べて肺面積変化率が低い傾向にあった(P=0.07)。上葉切除症例と下葉切除症例のX線動態画像を比較すると,下葉切除症例では血管陰影,横隔膜の動きが全体的に大きく,肺面積変化率が高いことがわかるが,上葉切除症例では患側部の動きが小さい傾向が見られた。1か月後の撮影では,両群の肺面積変化率に差はほとんど見られなかった。

3.術後合併症有無の比較
術後合併症が認められた群〔合併症(+)〕と認められなかった群〔合併症(−)〕について術前の肺面積変化率を比較したところ,合併症(+)は合併症(−)に比べてやや低い傾向があった(P=0.09)。さらに,術後1週間では合併症(+)の方が有意に低くなった(P=0.04)。気漏遷延症例ではドレーンが挿入されていることが影響している可能性も否定できないが,術後合併症有無の比較では,合併症(+)で肺面積変化率が低くなる傾向が見られると言えるだろう。

4.小 括
背景肺の比較では,肺線維症を合併した患者は,術前の肺面積変化率が低下する傾向があった。また,切除葉の比較では,上葉切除を受けた患者は,術後1週間の肺面積変化率が低下する傾向が見られた。そして,術後合併症のある患者はない患者に比べて,術前の肺面積変化率が低下する傾向があり,術後1週間の肺面積変化率は有意に低かった。
これらのことから胸部X線動態解析は,肺切除前後の肺機能を評価できる可能性,また,術後合併症予測に寄与する可能性があると考えられる。

肺切除症例における胸部X線動態撮影の活用方法の検討

肺切除術における胸部X線動態撮影の活用の可能性について,実際の症例画像を基に説明する。
動態画像では血管陰影から肺の動きを視認することができ,術後の経過観察に活用できると考えられる。図1は,右肺の切除術を施行した症例の術前,術後1週間,術後1か月の(動態)画像である。術後1週間では,まだ抜鈎されておらず肺の動きが不良であるが,1か月後には肺の動きが改善していることがわかる。
胸部X線動態解析では定量的な解析も可能で,肺尖と横隔膜間の距離を計測することで,左右の肺や横隔膜の動きを個別に評価することができる。横隔膜神経麻痺の症例では,定量的評価により左に比べて右の横隔膜の動きが少なく,また左右の同調性が失われていることが明確にわかる(図2)。このような左右差は,静止画では把握が難しい情報であり,胸部X線動態撮影が活用できる領域である。
さらに,胸部X線動態撮影は癒着や浸潤の確認にも活用できる。血管陰影や胸壁の動きを視認できる動態画像では,動きが制限される癒着箇所,浸潤箇所を容易に推定することができ,肺切除術の術前・術後の評価に有用である。

図1 肺切除術後の経過観察

図1 肺切除術後の経過観察

 

図2 横隔膜神経麻痺の確認

図2 横隔膜神経麻痺の確認

 

まとめ

胸部X線動態撮影は,術後の経過観察や横隔膜神経麻痺の検出,癒着の検出,胸壁浸潤や大動脈浸潤の検出などにおいて非常に有用であり,肺切除術の周術期において活用できる可能性がある。

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